なめくじ男現る
果てない森をぬけたのは突然だった。
まるで挑んで来るかのような樹木たちにうんざりしながら、怪力バカパワーで蹴散らしていたら、青空が広がった。
「ヤッホー!シロ脱出できたよ」
「モモちゃん、良かったねー」
喜びのダンスを披露したいよ。
あぁ、広がる大地よ。
平坦な道よ。
ところで私は、これから何処を目指せば良いの?
シロどこに行く?
声さん、今こそナビプリーズ!
「ふんわりテレパシー!」
ピピピピ
゛10キロ先 追うなめくじ男×逃げる子供゛
な、なめくじ男?逃げる子供?
脳内の処理能力を越えている。
なめくじ男は……存在しないよね。
逃げる子供は……存在するよね。
逃げる子供。
ヤバイじゃないか!
なめくじ男、未知の生物だが仕方がない。
「コンビニーズ!」
私は店内に駆け込む。
ありったけのソルトを、リュックに放り込む。
「シロ、走るよ!ムキムキ怪力娘ーっ。スーパー体力バカー!」
走りながら叫んでパワーアッブする。
「モモちゃん待って……」
「シロごめん。先に行く」
シロを置いて私は駆け抜ける。
こんなに俊足だったか?私。
ドン亀返上だ。
韋駄天の称号は私の手中に!
土手を越えた二つ先の丘で、幼女が必死で逃げている。
あのビローンとした巨大なゼリーのようなのが、なめくじ男?
スライムじゃないの?
あ、なめくじ男、手足があるわ。
ヌメヌメ這っている伸びたゼリーの間から伸びた手足もぬめっていた。
リュックから、塩袋を取り出しながら近づく。
「この聖塩を受けてみよーっ!」
なめくじ男に投げつける。
「ギャーキーッキー」
奇声をあげながら、なめくじ男が萎んでいく。
「これでどうだー!」
なめくじ男は半分に縮む。
「コイツメ!コイツメ!コイツメ!」
ビローンと伸びてしまったなめくじ男に最後のひとふりをかける。
なめくじ男は地面に粘膜振り撒いて溶けかけている。
うねうねと最後の粘りで動きながら溶けている。
あ。興奮してやり過ぎたかな。
死んじゃった?
戦わずして勝つ!
このモットーでいきたかったのに……。
消滅しかけのなめくじ男の姿に、私はちょっぴり凹んでいた。
「ありがとうございます。」
ポニーテールの赤いほっぺの女の子がペコリと頭を下げた。
可愛いいな。
「大丈夫だった?怪我はない?」
「あ、はい。大丈夫です」
そう言う女の子のワンピースから覗いた膝小僧が、ちょっと擦りむけている。
リュックに消毒液を入れてある。
「膝のとこ見せて。治療しておこう」
「あ。あの、なめくじ男が元に戻る前に、移動した方がいいです」
「え?このなめくじ復活するの?」
「まだ粘膜が残ってるから、多分元に戻ります。」
「モモちゃーん」
ハッハッと舌を出しながら、シロが追い付いてきた。
「ひどいよーモモちゃん。おいてかないでよー」
「ごめんね。シロ」
ワシワシ頭を撫でる。
「モモちゃーん。ボク疲れちゃったよ。のどかわいたよ」
「良かったら近くにある私の村に行きませんか?私はミーナと言います」
可愛い子ちゃんからのお誘いを誰が断ろうか。
村?
モチロン行きますとも。
ありがとう、ミーナちゃん。
サラバなめくじ男。
あ。でも、ミーナちゃん。
シロが喋るのに驚いてないよね。
この世界では当たり前のことなの?
「私はスズキモモ。よろしくね」
「ボクはシロ」
「よろしくお願いします。モモさん。シロさん」
うん。普通に会話してるよね。
「草原を真っ直ぐ行くとある、タタ村っていう小さな村なんです」
ミーナちゃんの話を聞きながら、私たちはタタ村へ向かった。
なめくじ男の気配がサーチ出来なくなった辺りで、ミーナちゃんの膝小僧を消毒した。 ペットボトルの水をかけ、洗浄してから消毒する。
ひどい傷ではないから、このまま空気にさらしておいた方が良いだろう。
手当てしながら、私はミーナちゃんの服とサンダルに釘付けだった。
青い木綿のワンピースに、皮で編み込んだシンプルなサンダル。
今の私には、超絶羨ましい姿だ。
「村にはお店とかあるの?」
「お店はありません」
「え?無いの?じゃあその服は?」
「叔母さんに作ってもらいました。靴はお父さんです」
ミーナちゃんが嬉しそうに言う。
自給自足なのか。
ヤバイな。
お金を所持していない、この不審者ルックスで受け入れてくれるかな?
私にも作ってくれるかな。
頬被り取っとこう。
髪もとかさねば。
「この先がタタ村です」
ミーナちゃんの指先に広がるのは、煙突の突き出た石造りの四角い箱のような家が、何軒か建ち並んでいる小さな村だった。
よし今の私の目標は、洋服と靴を手に入れること。
頼むよタタ村。
期待してるよ。
さぁシロ。タタ村入村だ!




