儚い理想と予想外の現実
4月7日 16時40分
俺は学校の教室で椅子に縛り付けられている
何故こうなってしまったのか。
それは俺の目の前で腕を組み、偉そうに踏ん反り返っている女子生徒のせいだ。
そもそも俺はなんでこんなことになっているのかというと三十分前に遡る。
俺、松永涼は6限目終了のチャイムが鳴り、学校への帰路につこうと鞄を持ち、教室を出た。
そして、下駄箱で靴を履き替えるために靴を取り出した。
その時一通の手紙が俺の靴箱から落ちてきたその手紙を読んでみると、ありきたりな愛の告白が書いていた。
なんともベタな展開だ。
こんなことは現実にあるはずがない。
あったとしても何かの嫌がらせだろう。と分かっていた、分かっていたのに
俺の足は手紙が指し示す場所へと歩み始めていた。
手紙の場所は屋上だった。
何から何までベタな展開だ。
しかし一縷の望みをかけてヤケクソ気味に屋上へ飛び出した。
そこには一人の女子生徒が立っていた。俺の中の僅かだった期待感がおおきくなった。しかし喜ぶのはまだ早い、目の前の女子は罰ゲームで仕方なく来ている可能性もゼロではない。実際に世の女子高生の間では、モテない男子へそういった仕打ちをする者もいると聞く。そんなこと実際にされた日には俺のガラスハートが粉々に砕け散ってしまう。
そんな事を考えている間に女子はこちらに気づき、振り返った。
その女子は清楚という言葉がぴったり当てはまる外見だった。でも俺はこの女子を知っている。たしか2組の広隆寺さんだ。成績優秀で可愛く誰にでも分け隔てなく優しいので男子からの人気が高い。でもどうしてそんな高嶺の花である広隆寺さんが俺を呼び出したのか?
「松永くん、だよね」
広隆寺さんは少し頬を赤く染めていた。
「そうだけど、この手紙は広隆寺さんが?」
「うん。 ごめんなさい、迷惑だった?」
広隆寺さんの口調には、照れ臭さが感じられた。
ヤバイこんなに純真そうな天然少女が現実に存在するなんて!しかしまだ彼女が俺を貶める為に来たという可能性もある。
「それで広隆寺さんは俺に何か用?」
「実は私、前から松永くんのことが気になってたの」
沈黙が流れる。何を言われたのか理解するのに一瞬時間がかかった。
おい本当にこんな展開があるのか。
学校の屋上で告白ってフィクションの中だけの話だろ。
「付き合って下さい」
耳を疑った。それほどまでにありえない言葉だった。
松永涼、生まれて初めて言われた言葉だ。それも相手は学年でも指折りの女子である広隆寺さんから聞くことができるなんて
これは現実か
「松永くん、大丈夫?」
広隆寺さんが俺の顔を覗き込んできた。
「大丈夫、大丈夫、気にしないで」
少し不自然な反応をしてしまった。
「じゃあ、返事聞かせてもらってもいい?」
その言葉を広隆寺さんが言った瞬間、目の前の彼女がとても愛おしく思ってしまった。
そして俺は彼女と一緒にこの教室まで来て何故か今に至る。
「さぁ松永くん、私達とお話する気になったの?」
そう目の前で腕を組んで俺に話しかけているのがさっきまでと全く違う印象の広隆寺さんだ。
他にも男子生徒が2人と女子生徒が1人、俺を含め5人の人物がこの教室にいる。
俺はこの教室に入った瞬間、ここにいる奴らに取り押さえられ、現在進行形で椅子に縛られている。
つまり
「俺は騙されたんだな」
当然といえば当然だ。俺みたいな平凡なやつが相手にされるわけなかったんだ。
「騙されたって何いってるの、私は嘘なんか言ってないわよ」
この状況から見て誰もが俺は騙された哀れな奴と思うだろう。
「あなたは付き合ってもらうわよ、私に、私の部活にね」
広隆寺さんは含みのある言い方をした。