3/3
第一章 A (2)
これもまたゆっくりと書いていきます。16日完成予定。
「探したぞ」
水瀬と向かい合って座る。テーブルは一緒にA4のノートを4冊広げて勉強するのにちょうどいいほどの広さだった。
「ああ」
一度はこっちを向いたが、云ったまま再び文庫本に目を落とす。
「面白いか? それ」
「まぁ。恋愛ものだよ。君には全く似合わない」
「お、俺だって恋愛はするもんだよ」
「ええっ。そうかなぁ。僕にはそうは見えないな。例えばスポーツに熱中する少年、ってのが最もお似合いだけどな」
文庫本に栞を挟んで閉じ、テーブルの端に置いた。ちょっとした揺れで落ちそうだった。
「そうか? そもそも、お前たとえがヘタだな。もっといいたとえがあっただろう」
「残念ながら、僕は想像力が豊かでなくてね。こういう小説でしか想像ってものができない」
云うなり水瀬は、下を向いて暗そうな表情を浮かべた。そうなると、俺は間が悪くなってしまう。前もこうだった。俺が何も云わなくなって、数分の沈黙。その後に向こうが帰ると云って帰った。ああ、厭な記憶を呼び起こした。