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哀悼の栞 角山山岳事件  作者: 冨町朋和
Part 1 発端
2/3

第一章 A (1)

長らくお待たせしましたが、ようやく第一章の一話が完成です(15日かかりました)。

どうぞ、ゆっくりとお読みください。

「ここ、13x-75yだよ。なんで、27-14が41になるのか、不思議でたまらないね」

「あ、いや、そりゃさ、足し算したりする事もあるじゃん」

「フフッ」

「勝者の笑いか?」

「いや、そうじゃないよ。君の目一回眼科に見せに行ったら良い、と思ってね」

「莫迦いうな、俺は病院の類が大嫌いなんだ」

「そうだったね」

 俺はちょっと嫌な顔をした。目の前にいる嫌味な奴が口元を隠して笑っている。

 1993年5月8日。

前にいる嫌味な奴――水瀬と言う――が、部活が終わった後に、先生から呼ばれ、俺の教師をしてほしいとのお達しを引き受けている最中である。莫迦みたいに用意された数学の問題(2000問はあるだろう)をこつこつと解いている最中である。


俺が解く羽目になったのは、1ヶ月前の入学早々のテストの件だ。何気なく解いた問題が、36点。一時、50点満点じゃないか、と勘ぐりたくなったが、いかんせん『36』の右側に/100の文字があった。

 詳細な点数は翌日に発表された。

 学年320人中256位。5教科中4教科赤点相当。社会の91がせめてもの救いだったのかもしれない。悪い点数の理由としては、春休み勉強もせずに友人と毎晩誰かの家で麻雀をしていた。それが響いたのか?

 しかし、その輪の中にいたのは、俺だけではない。水瀬だって一緒に入っていた。水瀬は優等生の中でも更に優秀な優等生というイメージが強かった。今回のテストも俺が頼んだら、しぶしぶ点数を見せてくれた。学年3位。論外だ。

 その日の4時限目。昼休みになり、ぼうっとしている水瀬を俺はおどかしてみた。

「わっ」

 水瀬は一気に背筋が凍る重いだろう。しかし、

「びっくりした。どうしてそんなことをしたんだい」

 高校生らしからぬ落ち着いた態度、声だった。

「昼飯は? どうするんだ?」

 話題を無理矢理逸らす。無論、俺は理由を聞かれて答えることができなかったからだ。

「どうしようかな」

 水瀬はそう云うなり立ち上がった。俺より少し高い身長が恨めしい。

「とりあえず歩こう」

「ああ」

 ため息にも似た返事を返す。水瀬と俺は昼休みでうるさくなりそうな教室を後にした。


 俺の学校、香田高校は3つの校舎がある。1つ。通称A棟と呼ばれる校舎で学校の南側に位置している。4階建てで、1階が職員室等の教員関係の部屋に保健室、そして生徒指導室がある。1回隅にある広い会議室は裕に100人を収容できるようだ。2階は1年教室で1~6組がこの階にある。ちなみに7・8組は4階にある。3回へ上がると、そこは3年教室へと変わり馴れ馴れしい空気が漂う。3~8組が3階にあって、4階に1・2組が位置している。なぜ、そうなったかはわからないが、まぁ教室不足だろう。

 2つ。通称B棟と云われ、放課後に活気集まる学校の北側に位置する校舎だ。3階建てで他2つと比べると小さい印象を受けるが、それもそのはずだ。1階は弓道室、武道場などがあり、2,3階は特別教室で普通は使われそうに無い教室ばかりだからだ。勿論、文科系の部活はこの棟に集中しており、放課後騒がしくなる。だからと云って関知しないが。

 3つ。通称C棟。もっとも地味な棟。行きかたと云えばB棟3階からの渡り廊下か、2年生生徒昇降口程度しかない。4階建てだが、他の棟より小さい。他の棟は1階につき6,7教室はあるがC棟は4教室分しかなく、1,2階は2年生教室となっている。読書に力を入れている高校なのか、3,4階は愕く事に図書室。これでは大川村図書館と同じ大きさではないか。とも思ってしまうほどだ(後々図書館へ行ったら図書館の方が2倍あった)。ああ、図で説明した方がいい。


 外からは雨音が聞こえてきた。雨脚は深夜2,3時には弱まるそうだったので夕方はまだ降り続くと思い、傘を持ってきておいた。

「おい、どこへ行くんだ」

 教室を出た途端、急ぎ足になった水瀬を追いかける。水瀬は何も云わなかった。階段を下りて、1階へと向かう。1階へ着くと、足を止めた。ああ、疲れた。水瀬は一点をじっと見詰めている。何を見詰めているのだ、と俺も真似してみてみるとそれは雨ざらしになったA棟からB棟へ行く渡り廊下だった。

「行こう」

 一言云うと、水瀬は駆け出した。雨の中へと。

「ま、待ってくれよ」

 俺もいっしょに走り出した。渡り廊下は30mも無かったがそれでも制服は結構濡れた。俺がB棟へ駆け込んだときには水瀬は濡れそぼった髪をピンク色のハンケチで拭いていた。

「濡れたかい?」

 ハンケチを絞ると、大量の水が出てきた。水瀬はそれをじっと見詰めたまま云った。

「いや。そんなに」

「僕より濡れてるよ。ほら、これで拭いたら?」

「ああ、すまん」

 水瀬からハンケチを受け取る(水瀬が使っていたそれとは違う、水色のハンケチだ)と、濡れた箇所を頭から順に拭いていった。

「それにしても鬱陶しい」

 水瀬は振り返って、降りしきる雨に打たれ続けているコンクリートの廊下を見ていた。

「雨なんて降らなければいいのに」

 一種の願望を水瀬は云ったが、俺には心の底から願っているようには聞こえなかった。

「まぁ、そう云うな」

「うん」

 頷くと水瀬はすぐ右手にある階段を急ぎ足で昇って行った。


 水瀬の背中を追いかけていたが、スタートが遅れて見事に見えなくなった。俺はゆっくりと3階へと上がった。図書室はなんともいえない匂いで包まれていた。甘いお菓子でも焼いているようなそんな匂いだった。俺は天井すれすれまである書架を俺は感心してみていた。1冊手にとって読んでみたが、どうも俺は経済書は苦手のようだ。12,13ページ読んで元あった場所に戻しておいた。少し歩くと、ようやくテーブルと椅子が見えた。昼休みというのに、生徒の数は20人もいない。そしてその20人の中水瀬はいなかった。


 もう1階あがると、教室のプレートには『第一図書室』の文字があった。入る前に中を確認してみると先ほどとは比べ物にならない人の数だった。

 入ってみて、司書の先生(3階の図書館では見当たらなかった)に聞いたところ、

「あそこは第二図書室って云うのよ? しらなかった?」

「はい知りませんでした」

「そう。3階はみんなに喜ばれなさそうな本ばっかりだからね」

「といいますと?」

 古典とかか、と勘ぐってみる。

「たとえば、今までの卒業アルバムとか、今までの文芸部の文集とか」

 なるほど。確かに喜ばれなさそうな本だ。

「でも、蔵書数ではこっちは16000冊、向こうは20000冊よ」

 果てしない数字に俺は耳を疑った。たしかにありそうだが、本当にあるとはとても思えない。

「ありがとうございます」と軽く返事をして図書室を見回した。

 文庫コーナーへ足を進めると、奥のほうにテーブルが申し訳なさそうにあった。

 そして、そこに座る人の影。

「あっ」

 見失った水瀬が、文庫本を読みふけっていた。

まだまだ続きます。

まだ残酷描写はありません。あるとすれば、五か六章くらい?

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