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《速報》村がダム化決定しました。

作者: 瞑狩り

「師匠、村がダム化するようです」

 ここ数年、正面から見られなかった顔を見ることが出来た。それだけでこの話は価値がある。笠を被った男は、暗い照明で顔を見ることが難しいが、興味がそそられたのか。

「ガセ、ではないらしいですが、詳しい情報を見て参ります」

 ばっと、敬礼のポーズをとれば、ばいんばいんと胸が揺れる。きゅっと締まった腰をなまめかしく揺らしたが、それは師匠の興味を損なわせたようだ。師匠は机のシミを見ながら、指を折りはじめる。相変わらずのコミュニケーション障害。人格破綻者である。世に言う危なげな占い師からもお墨付きを受けた男の言動は、……しかしなんて、光り輝くのだろうか!

「師匠、私がにゃんにゃんなんて事態になったら、白馬の王子の如く見参して――――痛い!」

 先ほどまでシミを数えていた食卓用の机を投げつけられた。痛かった。



 ブルドーザーが空を飛んだ。

 投げた男は額に血管を浮かべ、ふーふーと子どもを守る獅子の如くうなり声を上げている。いきなりの凶行に、きっちりと背広を着込んだ薄眼鏡の男が顔を青ざめさせているのがわかった。しかしここで引き下がるのは、上位互換の中央組織の名折れ――――――――と思っているのかどうか知らないが、まぁ彼らを守る迷彩柄の軍が控えているのを見ると、被害者の考えなしな突発的暴走に対応できるくらいには、事前準備は整えられているのだろう。

「俺たちは、絶対に、ここから離れない!」

「離れない!」

「お前らが出てけ!」

 薄眼鏡の男は、落ち着いてください、と拡張期で声を張り上げているらしい。聞こえない。あくまでそれがわかったのは、遠くからの双眼鏡による読心術の結果だ。読心術は便利である。いつか本を出版した暁にはフェアを開催してもらいたい。それとか、偉そうな批評家の批評に取り上げられて印税を稼ぎたい。

「皆さんの、生活は、依然と、変わりないことは、確実に、保証します!」

 ぶつ切りにしつつ、必死にかすれ声を上げ続ける男には、涙を誘うものがあったが、被害者村民は何のその。気にはしない。彼らは自分の居場所を守るのに必死なのだ。

「絶対に、俺たちは、立ち退かない!」

 村民のその唱和を聞き、一匹の黒猫がにゃーとその場を走り去った。




「師匠。もうほとんど決定事項みたいです。一部の反対派だけが過激に反対しているみたいです。ほとんどの村人は、もうなんだかんだ悟っているみたいです」

「そうか」

 黒猫の背がぎゅるると、骨を擦るような音を立てて伸びた。痛々しい音を伴いながら、猫の髭はぶわりとした髪の毛が溢れ、つり上がったアーモンドの目は常人より遙かに大きい黒目に変化する。大きな瞳はまるで子どものようだ。しかしその顔を支える肢体は、成熟し、曲線が美しい女性の身体だ。細指が顔にかかった髪を払う。

「もう少し、観察して参りますね。師匠、ところで机買ってきましたので、姑見たく窓際のさんを擦らないでください」

 男は笠をくいっと上げ、朝七時台の子どもが見ていそうな戦う魔法少女のステッキのスイッチを入れた。




 電動のこぎりが中に飛んだ。それががしゃーんと窓ガラスを突き抜け、空き家の木材やら鉄くずやらをぶった切った。鉄くずを無理矢理に切ると、刃こぼれするのに、と黒猫はただただ思う。猫の姿はいい。可愛くにゃーと泣けば、気持ち悪い顔の人間がおいでおいでと手を招く。期待を持たせるように近づき、ひっかいて光の速さで逃げ出せば相手は追ってこられない。肉付きのいいおしりに相手が見とれているうちに、相手は歯ぎしりするのだ。

「あなた、もう決まっちゃったことなのよ……。私たちは実家があるんだから、そちらに引っ越しましょう」

 妻はのこぎりを投げた夫にそう告げる。言葉はしおらしく聞こえるが、実態を見ると駄々をこねている夫の代わりに荷造りを開始しているしっかり者の妻である。子どもに声をかけると、子どもがはさみを宙に浮かす。浮かせたハサミをこちらに引き寄せ、ビニールひもを切った。

「おまえは! 俺たちがあっちでうまくやっていけるとは限らないだろう!」

「電気の問題なら大丈夫だわ。あなたは元々の量が少ないけど、私なら仕事としてやっていけるくらいにはもう電気もあるんだから。ここを去るのが嫌なら、あなたは残っていたら?」

 妻は胸に手を当て、夫がとばした電動のこぎりを手を使わずに持ってきた。どちらかというと浮かせてきたというのが正しいかもしれない。そう、女がどうとか男がどうとかというのは別問題。あくまで優先されるのは生まれ持った生命エネルギー――――俗称電気――――の貯蔵量。そして希少価値。妻は希少価値としてはゼロに近い浮遊エネルギーの使い手だが、貯蔵量はそれなりにあるのだろう。実際、デモの時に男はブルドーザー一つ飛ばすのに危なげだったが、妻は何十もの荷物、刃物、夫が飛ばした道具を集め、子どもに的確な指示を出している。確かに、彼女は一人でやっていける。

「くそっ、くそっ、くそっ……」

 男は結局、妻の尻に敷かれることになるようだ。




「師匠、今日村が沈むらしいです。て言うか、住所の届けだしてないとはいえちゃんと家の所在確認しないなんて私たちみたいな隠れ住んでいる人はどうなるって言うんでしょうかね。あ、動きますか」

 ステッキをくるくる振り回している男。灰色の地味な服に、ピンクのステッキは全くと言っていいほどに合わない。派手さとか、明るみとか、何もかもすべて。

「師匠、私信じております」

 ふわりと黒猫に変化する。男のステッキにするりと飛び乗った。猫の体重すべてが、ステッキの上に乗っているにもかかわらず、ステッキの軸はぶれることはない。どころか、男はふっと手を離した。ステッキが宙に浮く。猫はステッキの、ことさら派手なイミテーション宝石がついている先端に乗った。赤とピンクの花が開き、猫の生命力によって開いていく。ビカビカと明るく光るその花の飾りに、猫がすーっととけ込んだ。猫の姿が消える。

 残ったのは浮かんだステッキのみ。まるで空間に縫い止められているかの如く、動かないステッキをぐっと握り込み、男が笠を上げた。

 ずどぉんと、腹に響く爆音が響く。男はこれまで、銃弾、爆発、毒物飛び交う戦場にいたこともあったが、それすらも大したことはない。人間自らの手によって行われたことは確かでも、これからやってくるのは大波。水という壁だ。洪水が災害に認定されているのでわかるとおり、水の壁はすべてを殺す。人も植物も物も。

「お前が杖に入ると重いな」

 猫の唯一の避難場所であると理解しても、杖が重くなるのは面倒なことだ。

 村が水に沈む。そのすぐ直前、男の杖が光り、水を割った。




「師匠、近くの村が飛び火したみたいです。死者は112人。問題はないレベルですね」

「よかった。疲れた。眠い。どっかつれてって」

 細指が男にふれる。男を巻き込みぎゅぎゅるとぞうきんを絞るような音を立て、一度腹がいびつな猫の姿をしたかと思うと、しましまのワンピースを着けた一人の少女が現れる。真っ白な空洞の目をしたまま、少女が前ポケットに手を突っ込む。

「師匠、今回の師匠のおかげで、2000人の人を救えましたね」

なんか、何も考えないで書いちゃった息抜きです。

いろいろ書ききれなかったので反省。

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