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彼とあたしと、鉄の処女  作者: 瑞雨
彼とあたしと、ささいな日常
5/24

彼とあたしと、譲れないもの

今回は短め。

しかも残虐性はありません。けれどやっぱりダーリンとハニーの会話なので・・・はい。


一つ言わせていただきますが、私にだって人並みに譲れないものっていうのがあるんです。

いつもいつも彼に言いくるめられている私にだってどうしてもっていうものがあるんです。


それはシュークリームのクリームはカスタードと生クリームをミックスしたものじゃないとだめだとか、鞄の中には絶対飴を入れておかないといけないとか、その飴の種類は多種のフルーツ味とミルク味は欠かしてはいけないとか、チークの色はオレンジとピンクを混ぜて使うとか、それなりにこだわりがあるんです。


けれどそれを人におしつけようとは思わないし、時と場合によって生クリームだけのシュークリームを食べる時はあるし、鞄に飴がないときもある。チークをオレンジ色だけでつける時だってあるんです。状況に応じて臨機応変対応できるくらいの譲歩はできるんです。



だけど、だけども、やっぱりこれだけはどうしても譲れないものっていうのがあるのは、私が頑固だからだとかではなくて、それもこれもすべて彼が原因だと思うのです。





「ほら、ハニーいつまでも我儘を言わないで」



我儘ではないんです。


決して、決して!これは我儘と称されるような可愛いものではないんです。我儘であったらどんなによいものか。


だって、だって・・・・だってこんなにも言っているのに。何度も何度も言っているのに。



「ハニー、僕はもう、『いや』という言葉は聞き飽きたんだ」



こんなに言っても分かってもらえないんて、という言葉はダーリンではなく、あたしが言うべき言葉だと思うんです。




「ねぇ、ハニー。いつになったら『イエス』と言ってくれるの?ねぇ、明日?明後日?ねぇ、いつ?」




まるで子供のように繰り返される質問に、彼の望む返事を返す日は例え世界が終ろうとないと思うのです。


もしも、もしも日本が戦争をすることとなって、ダーリンが徴兵することになったら考えるかもしれません。


外国兵に銃を突きつけられて、殺されそうになったら少しは考えるかもしれません。


けれど今はまだ、あたしの周りが平和である内は冗談でもその言葉を言うわけにはいかないのです。

今はどんな鋭い刃物よりも『イエス』という言葉の方が恐いのです。



「僕、もう待つのは嫌なんだ」



それもまた愛故と思えば耐えられるはずです。

あたしがそれを着用する前に、あなたが耐える方がいいと思うのです。


きっとあなたなら耐えられるはずです。これも拷問の一つだと考えればいいのです。ほら、放置プレイ。いや違うな、我慢プレイ?・・・とにかく精神的拷問にかけられていると思えば耐えられるはずです。拷問好きなあなたなら、あたしからの素敵な精神的拷問というプレゼントに耐えられるはずです。


だから、もう言わないで。あなたの言葉は聞きたくないの。




「ほら、君の為につくったんだ。ちゃんと君のサイズでつくったし、材料だって古いものなんて使わないで新しく作ってもらった。デザインは勿論僕がしたし、今までの古いデザインを生かしながらもちゃんと改良して綺麗に見えるようにしたんだ。このウエストからまるく広がった膨らみも、足先まで覆うところも、すべて君を綺麗に見せるためのものなんだ。あとは君次第なんだ。ねぇ、お願いだ、ハニー」




まるで最新のドレスを愛する人のために作らせた貴族のように言うけれど、いえいえ違うのです。決してこれはふんわりとした柔らかな、煌びやかなドレスなどではないのです。


彼がこれをドレスと呼んでも、あたしはこれをドレスと認めてはいけないし、ドレスとは到底思えない代物なのです。ドレスと称してもよいものではないのです。




例え彼が捨てられた子犬のような瞳をしようとも、


(そ、そんな目したって駄目です・・・っ!)




仕事に行く母親を見送る幼子のようなさびしげな声色を出そうとも、


(・・・うっ、そんな声で、そんな声であたしを呼ばないで・・・っ!!)





・・・決してあたしは首を縦に振ってはいけないのです。




「ねぇ、ハニー」



今日だけは、今日だけはその問いかけに惑わされてはいけないのです。



「お願いだから」



例え『お願い』などという可愛らしい表現をつかおうと、可愛く小首を傾げようと、


本当に今日ばかりはダメなのです。譲れないのです。



「どうしてもダメなの・・・?」



だめです。





「せっかく、せっかく君のために・・・、」


『鉄の処女』のレプリカ作ったのに・・・・ハニーの我儘、ぐすん。







恨めしげにあたしを睨む彼に言いたいことが4つほど。



『どうやって作ったの?ていうか作ってもいいものなの?鉄の処女に入らないことは我儘じゃねぇーよ!!男が『ぐすん』なんて口に出して言ってんじゃないわよー!!可愛いんだよ、こんちくしょーーーっ!!!』


以上(あ、5つだった)。





実際にこれ(美しい聖母マリアから飛び出す鋭い棘付き鉄の処女レプリカと、小首を傾げたうるうる涙目付き可愛いダーリン)を目の前にして『イエス』と言ったらあたし、まじで貞操のピンチ?(2つの意味で)




あぁ、愛が痛い。




今回の教訓。

『死んでも首を縦にふるな』



可愛いダーリン。

たとえ変態でも・・・。

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