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彼とあたしと、鉄の処女  作者: 瑞雨
彼とあたしと、ささいな日常
4/24

彼とあたしと、しりとり

残虐性は薄いです。

そしてこの作品にしては会話中心かと思われます。


「ねぇ、しりとりをしようか」

「なに、急に。別にいいけど・・・」


突然の彼の申し出に訝しげな視線を送りながらもそれを承諾する。

というよりか、承諾せざるを得ないというべきか。


彼が突然何の脈絡もなく何かを言いだすことは常だったので、それはいいのだけれど、今回は本当に突然の申し出だったので、ほんの少し驚いた。


だって、しりとりって・・・。いや、やるのはいいんだよ?でもね、でもさぁ!別に今しなくてもいいじゃん?今あたし、お風呂に入ってるんだよね?間違いなくお風呂に入ってるよね?うん、ここまではオーケー。で?それを、気にすることもなく堂々と入ってきて、体洗って、二人入れば狭くなる湯船の中につかるあたしの背後になんの躊躇いもなく体を沈めてるのは・・・う~ん、・・・・ぎりぎりオーケー?で、彼の手があたしの腹部に当然のようにまわっているのは・・・アウトォォオオ!完全アウト!!くすぐったいし、ていうかウエスト回りの余分なお肉が気になるお年頃。


「じゃぁ、僕からね」

「はいはい、どうぞ」


あたしのお肉事情なんて知ったこっちゃないとでも言うかのようなこの見事なまでのスルー。・・・いや、まぁ、うん。それより、しりとりなんて小学生以来してないなぁ。しりとりなんて遠足のバスの中とか、野外活動で山もしくは平坦な道を歩いてる時くらいしかしないから、まさかこのタイミングでするとは思わなかった。なんだ、こいつも結構子供っぽいとこがあるんだなぁ、なんて微笑ましくなったのもつかの間。勿論、彼がただのしりとりをしたいなんて言うわけがなかったのだ。


「リッサの(てつ)(ひつぎ)

「・・・え?」


一瞬彼が何をいったのが分からず聞き返してしまった。え、何、もう始まってるんだよね・・・?


「リッサの・・・え?何?」

「リッサの鉄柩」


間髪いれずに答える彼に今言うならこの言葉につきる。


なんじゃそりゃ。


「え?だからリッサの鉄柩だって」


いや、それは分かったけど、なんでいきなりリッサの鉄柩?


「しりとりの『り』から始めるのがしりとりの公式ルールじゃないか。だからそれに(のっと)って『リ』ッサの鉄柩」


にっこりと笑って答える彼。いや、勿論彼はあたしの背後にいるから顔なんて見えないのだけど。間違いなくにっこりと笑ってる。だいたいしりとりの『り』から始めるのが公式ルールって誰が決めたのよ。・・・まぁ、たいていがそこから始まるけどさぁ。普通しりとりの『り』はりんごの『り』じゃん?リンゴ→ゴリラ→ラッパまではデフォルトじゃん?むしろそっちのが公式ルールだよ。


「てか、何よリッサなんたらって」


あたしの疑問に彼はぐっと腕の力を強めてあたしの腹部をほんの少し圧迫した。嬉しそうに笑う声が弾んでいる。


「あ、聞きたい?リッサの鉄柩はね、名前の通りの鉄の柩で、体を縮めてやっと入れるくらいの大きさでね、人を中に入れた後にゆっくりと蓋をネジで押し下げていくんだ。やがては犠牲者は押し潰されて死ぬわけなんだけど、圧死までに数日間かかるほどゆっくりと蓋は下げられてね、その間は食料も水も与えられず、圧迫と飢餓つまりは身体的苦痛と精神的苦痛の両方を味わえるというすばらし「いやいやいや、もういいです!!」・・・そう?ふふ」


愉しそうに笑ってんじゃぁないわよ!!このままほっておいたら屍ができる。間違いなく、あたしという屍がね・・・!


「じゃぁ、次は君の番。リッサの鉄柩だから『ぎ』ね」


やっぱり止めない?なんて言えない。こんな時に否応なく発揮される負けず嫌いの血が恨めしい。ていうか、いきなりハードルが高すぎない?このしりとり・・・。


「・・・ぎしき」

「飢餓のマスク」

「・・・・・・」


ふふ、と小さな笑い声をたてる彼の今回の遊びはどうやらただのしりとりで終わらす気はないようだ。・・・・こんなことだろうと思ったけどね。でもここでやめたら負けるわけにはいかない。今回は単純にしりとりだし、頑張れば勝てる!・・・・はず。


「くりすます」

「スコットランドの深靴」

「異議あり!単語じゃない!」


しりとりは単語でするのがルールじゃん。『~のなんたら』なんてやってたら一生終わらないわよ。


けれど、あたしの無言の抗議もむなしく彼はあっけなくあたしの異議を棄却した。


「はい、却下。立派な単語だよ。だってスコットランドの深靴で一つの名前だもん」

「え、なにそれずるい」

「靴の形をした鉄性の足枷で、火あぶりにするんだよ。ほら次、『つ』」


さりげなくグロいこと言ってんじゃないわよ・・・!


「つるぎ」

「ギャグ」


律儀に「ぎ」から始まる言葉で返してきたのが悔しい。たいがい濁点ついてたら濁点とってもいいってのが通常ルールだからね。てかぎゃぐって・・・。なんか普通?


そんなあたしの考えを読み取ったらしく、彼はぴちゃんと水を弾いた。っぷ、顔にかけないでよ。


「ギャグって言っても冗談のギャグじゃないよ?立派な拷問器具の一つ。木の棒とか鉄の棒を咥えさせるんだよ。まぁ猿轡と似たような感じかな」

「・・・・・あ、そう」

「ほら、次『ぐ』だよ。ちゃんと『ぐ』で返してね?」


くそー、わざと濁点つけて答えにくくしたの見抜かれてたか。しかも自分からふっかけたから濁点で答えれないなんてできない。


「・・・・ぐみ」

「水責め椅子」

「すいか」

「革手錠」


何も言わないよ。革手錠って何なんて聞いてやんないんだから・・・!!気になるけど、気になるけど・・・・このままではやつの思う坪だ!スルースキル発動!!


「・・・うま」

「魔女のくさび」


また濁点かよ!


「び、び・・・・ビー玉」


どうだ「ま」返し!


「魔女の針」

「りんご」

「五寸釘」

「ぎ、ぎ、ぎ・・・・」

「ふふ、降参?」

「誰が!ぎ、ぎ、ぎ・・・・義手!」

「揺篭。あ、揺籠って言っても中に無数の棘が突き出してる鉄の檻のことね」

「・・・あ、そう」

「ほら、『ご』だよ」

「ご、ご、ご・・・って!さっきから濁点ばっかりぃいい!」

「君から仕掛けてきたんじゃないか。ほら、たくさんあるでしょ?」

「むぅ~~、ご・・・ごうかく!」

「クエマドロ。煉瓦製の巨大な窯の中でゆっくりと燻すやつね」

「いちいち説明しなくてもいいよ・・・っ!」

「だって説明しないとそんなのないって駄々こねるじゃないか。ほら『ろ』」


子供じゃないんだから駄々なんてこねないよ。


「さっきこねてたの誰だっけ?」


うぐぐ・・・・


「ロック!」

「クヌート。鞭打ちにつかうやつ」

「・・・とまと」

「トルコ式拷問器具」


はぁ?なにそれ。国名ついてるとか反則じゃん。


「ぎゃっ、なにすんのよ!」

「いや、君が疑うから実践してあげたんじゃないか」

「なにが実践よ!人の胸つかんでんじゃないわよ!この変態め」

「・・・・ハニー?それ以上口が悪くなると塞いじゃうよ?」


・・・・・ごめんなさい。


はい、そこのあんた!塞ぐって口付けとかそんな甘いものを期待しちゃだめよ。彼が口を塞ぐって言ったら、間違いなく猿轡とかの口を塞ぐ拷問器具を出してくるんだから・・・っ!!それもきっちり説明をして下さりやがって、思わず引くくらいそれはもう素晴らしい笑顔付きでね!!スマイル0円?はぁ?金貰ってもいらないわよ、こんな毒々しい笑顔。瘴気が発生してんじゃないの?ほら、心なしかお湯の温度が高くなってきた・・・。


「トルコ式拷問器具はね?・・・こら、ハニーちゃんと聞かないと・・・痛いよ?ふふ。うん良い子。それでね、長い板を2枚組み合わせたもので、女性の乳房を挟んでネジで締めていくんだよ。今は板がないから僕の手で実践。分かった?」

「・・・・分かった」


ええ、そりゃぁもう、身に染みてね!!本当に痛いんだよ、掴まれたら・・・・!!何この色気のない感じは・・・。いやここで発情されても困るんだけどさぁ。なんかもう・・・ぐすん。泣いてもいいですか。


「はい次『ぐ』だよ?」

「・・・・・・・・・・ぐそく」

「ぐそく?・・・あぁ、具足か。よくそんなの知ってたね」

「長宗我部・・・・」

「あぁ、一領具足か。ハニーの長宗我部元親好きも困ったもんだねぇ。嫉妬しちゃうよ、ぼく」

「・・・・いいから!次!具足の『く』だよ」


故人にまで嫉妬してんじゃないわよ。あたしの癒しまでとられたら困る。この猟奇的変態男から救ってくれる心のオアシスは貴方様しかいませんのよーー!!


「ぅぐぐぐーーー!!痛い!いたいぃぃぃいいっ!!!」

「ハニー?僕以外の男のことなんて考えたらだめだよ?その、脳がどこに入ってるの?ってくらい小さな小さな頭の中に入れていいのは僕という君の愛しいダーリンだけだよ?」

「分かった・・・っ!分かったから掴むのやめれぇええ!!」


ぅぅうう。胸が、胸が・・・・。あたしの可愛い可愛い御胸ちゃんが可哀想なことに・・・。


なにが、君ぐらいの胸の大きさならトルコ式拷問器具も使用し甲斐があるね?よ!!もうその話は終わったでしょー!?


「さ、続きしようか。なんだっけ?・・・あぁそうそう具足の『く』だったね。ふーんさっきから「く」ばっかり。今度は「く」返しで責めるの?ふふ、甘いね。首枷」

「せんたく!」

「苦行用ベルト」

「トック」

「苦悩の梨」

「シルク」

「釘抜き」

「キック」

「口の洋梨」


うぐぐぐぅぅ・・・。


言えども言えども即座に返される。拷問器具で責めてる彼より絶対にあたしの方が有利なはずなのに、この屈辱感・・・!!なんなの!どこまで拷問に命かけてるわけ?・・・いやいや命かけられてるのこっちですけど。ていうか、


「・・・・あの、もうやめない?」

「なに、もう降参するの?」

「そうじゃなくて、その、熱いんですけど」


かれこれ1時間はお風呂に入ってるから、もう茹であがりそう。ただでさえわけの分からない拷問器具の連発と彼とのやりとりで加え、熱い風呂に1時間浸かりっぱなし。脱水しそう。彼とお風呂に入ってるだけで身体的拷問と精神的拷問がもれなく味わえます。いまなら先着1名様ごあんなーい。


「あぁ、もうそんなに経ってたの。でも今やめてもいいの?」


だって今やめないとあたしもうだめ。のぼせる。たかがしりとりで湯あたりとか間抜けすぎる。


「もう、だめぇ~。あつ、い・・・・」

「でも今やめたらハニーの負けだよ?ほんとにいいの?」


いいから、いいからあがらせて・・・!!負けでいいから!


「負けたら罰ゲーム、っていうのは相場だよね?」


罰ゲームでもなんでもいいから、ほんと許して。水、水ちょうだい!!

今のあたしは、水があるのにオアシスを求める砂漠のガゼルのようよ・・・!!


ていうか、もうすでに罰ゲーム受けてる気分。熱湯地獄・・・・。

なんか昔熱湯に入る番組あったよね。あたしがこれを我慢したところでどこにも何もCMできないけどね・・・。


彼はあたしの力無い頷きを目にし、ふふ、と意地悪気に笑うと、あたしの腹部でがっちりと結んだ手を離し、ぐったりと湯船に座りこむあたしを引き上げた。もはや朦朧とした意識の中のあたしは立ち上がる気力もなく、彼になされるがままに風呂場を後にし、彼に支えられて水を飲むと、ふらふらとベッドへと倒れ込んだ。そしてぼーっとする頭の中で彼が囁いた言葉を処理することもできないまま、夢か現実かも分からない世界に堕ちていった。


『可愛い可愛い悲鳴、聴かせて、ね?』


あなたはどっちがお好みですか?

快楽に溺れる悲鳴と苦痛に脅える悲鳴。


あたしが選んだ悲鳴?


ふふ、

それは彼とあたしだけの、


ヒ・ミ・ツ。



今回の教訓。

『遊びといえども死ぬ気でやれ』




ハニーの口調と性格がだんだん悪くなってますね。これもダーリンの愛の賜物です(笑)


会話にでてきた拷問器具。すべて説明してませんが、興味があるものはぜひ検索してみて下さい。

ハニーの言った『トック』は韓国・朝鮮半島のうるち米のお餅です。スープに入ってて超美味。


ちなみに長宗我部元親が好きなのは私です(笑)

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