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プロローグ

こんにちは!星屑まんたと申します!

今回は僕の一次創作であり、いつかフリーゲーム化する予定のファンタジー作品「セレストライブ:アセント」、通称セレトラの小説です!

ベーシックな王道物語ですが、お暇なら少し読んでいってください!

 この世界の端。世界各国の国から幻とさえ言われる大陸があった。その名も「アトラメント」。

自然も豊富で過不足なく資源も国中に渡り、不自由のない生活が約束された土地。そのアトラメント聖帝国に、一人の皇子が存在している。


「────外の世界を見てみたいな」


 塗り潰されたような青空から日光が窓を通って訪れる。

誰に聞かせるでもなく、皇子である彼──カナトリアは、自分一人の部屋で呟く。皇族らしく豪華絢爛な装飾が施されながらも、しつこさのない機能美も感じる落ち着いた空間だ。カナトリアはふわりとベッドに身を投げ出し思考に耽る。

 彼は生まれた頃からこの国から出たことはなかった。物心ついた時から王族としての生活で身についた様々な礼儀とは対照的に、抑圧された環境故カナトリアには少年の冒険心が燻っている。

彼がごろんと窓側に身体をよじった時、扉からノックの音が響いた。

「俺だ」

「! パニッシェルか! 入ってきてくれ」

皇子の声に対応して扉が鳴く。入ってきた男は二メートルは超えるだろう、筋骨隆々の大男。六十七という還暦もとうに過ぎた年齢であろうというのに、その顔に相応の皺は少ない。一言で言えば「未だ全盛期」と呼べる元英雄──パニッシェル。カナトリアの教育係であり、彼が幼い頃から自分を育てた第二の父でもある。

 

「よぉ、ご機嫌麗しゅう。相変わらず元気そうだな、皇子」

「丁度冒険のことを考えていたんだ。また話を聞かせにきてくれたのか?」

「そうしたいのは山々だが、生憎違う。陛下がお呼びだ。美味い飯とお堅い話が待ってるぜ」

 

皇族に対する喋り方でない様に見える彼だが、彼は国の重役でありながら過去皇帝と共に戦場を駆け抜けた戦友の間柄である。無論良くはないが、見逃されている…或いは彼が気にしていないかの二択だろう。


「分かった。食事の後は空いてるのか?」

「二時間程席を外す。少し野暮用と調べたい事があるんでな」

「じゃあその後また話を頼むよ。パニッシェルの話だけが楽しみなんだ」

「応よ。もう何周も話をしたって言うのに良くもまあ聞きたがるもんだな」


彼はそう言って笑い、振り向かずに手を振って部屋を後にした。彼も軽く身なりを整え、皇帝の元へ向かった。


 ※


「…遅かったな。早く席へ着け」

「申し訳ありません、父上。」

 

 鋭い声色がカナトリアを刺す。落ち着いた仕草で席へ座り、長机を通じた長い距離に居る皇帝──シュドレの瞳を見据える。

御歳七十五歳、パニッシェルとは違いその顔にはやや皺が寄っている。しかし彼の眼光は猛獣すらも射殺す程の強い光が灯っており、その無駄のない所作と隙のない歩みと合わせ老体とは思えぬ実力があろう事は容易く理解出来る。

そうした威圧を受けて尚、カナトリアは冷静であった。


「お前もそろそろ成人だ。国を任せる日も近いだろう」

「分かっております。……」

「どうした」

「…いえ」


カナトリアは今まで向けていた視線を僅かにずらした。それを見逃す皇帝ではなく、父ではない。しかし意外なことに、皇子が口篭った後それ以上言葉を掛けることはしない。


「…?」

「そうか。──今日は訓練の日だろう。聞けば槍術も上達してきたと聞いている。」

「─、はい!無論父上には及びませんが…最近は盾術も練習しています」

「お前が私にはない物を得ていく事は喜ばしい。今後も励め」

「勿体ないお言葉です。」


僅かな会話を交わした後、並べられた食事に感謝の言葉を紡ぐ。数人の召使いが部屋を後にすると、大部屋には僅かな食器の音のみが支配した。静寂に近いその空間で、暖かな料理がゆっくりと運ばれていく。それらが姿を消す頃には、時間にして約半時間程が経っていた。

シュドレは息子へ対し短く言葉を掛け、そのまま書斎へと向かった。カナトリアはふうと一息付き、食器を片付けに来た召使い達に軽く礼をする。

そのまま彼はテラスへ出て、特に何をするでもなく青空を眺めていた。


 

「やや、今日もですか!?」

「ああ、すまないが頼む。」


 カナトリアが交渉しているのは"居留守"である。カナトリアは気分が向かない時、稀にではあるが訓練をサボって外へ出向いている。とは言っても今日は一昨日ぶり二回目で、昨日は勉学を学ぶ日であった為連続になる。


「じゃあ、早速始めよう。今日も三人で構わないよ」

「陛下に見つかったら何と言われるか…次の訓練日は必ずちゃんとしてくださいね!」

「分かってるよ。」


 立てかけられた訓練用の木槍に手を伸ばす。カナトリアが慣れた手つきで其れを構えた。彼の目の前には各々剣、槍、弓を持つ三人の兵士が同じく構えていた。


「始め!」

「行くぞッ!」


別の兵士が開始の声をあげると、即座に木槍が美しい軌道を描いた。根元を持って薙ぎ払う形で振られたそれは剣兵に向かって勢いを増して接触しようとする。何とか受け止めようとする剣兵だったが、衝撃を流し切れずに体勢を崩した。

仲間の隙を埋めるように、後方から矢が放たれる。カナトリアは身体を捻って回避し、即座に持ち手を中腹程度に持ち替える。回転の勢いを利用して横から立ち向かってきた槍兵に攻撃をヒットさせる。

飛んできた二発目の矢もステップする形で避けると、再び根元まで手をズラす事で槍最大のリーチという利点を活かして突く。弓兵は武器を飛ばされ、転倒した。

体勢を立て直した剣兵が横に凪ごうと得物を振るも、カナトリアは槍を立てて防ぐ。咄嗟に目線がそちらへ注目したタイミングで足払いを掛け、転び掛けた兵士の肩を掴んだ。


「勝負あり、だな」

「いやあ、もう皇子にはすっかり敵わなくなりましたね」

「本当に!陛下にも勝てる日は近いですよ!!」

「嬉しいけど、それは本当にないね。想像でも父上やパニッシェルに勝てる未来が見えないし。…じゃあ、言い訳は宜しく」


歩きながら手を振るカナトリアの顔には年相応の笑顔が滲んでいた。倒された兵士達もやれやれといった様子でありつつ、皇子と似た表情と一礼で応じる。先刻は引き締まった空気感でありながら、直ぐにこうした和やかなものになる辺り、彼がどれほど民に信頼されているかは感じ取れるだろう。


 ※


 透明な屋根を通して柔らかな日差しの差し込む植物庭園。城の人間にバレないようこっそりと移動するカナトリアは、遠くの方で重い音を聞きつける。

気になって近付いてみると、それは確かに戦闘音であった。訓練部屋でもないというのに室内から聞こえるソレが気になって、周りを確認しながら僅かに扉を開き、覗く。


 開いた部屋はかなり大きな部屋だった。庭園と同じく手入れされた花や木が在り、水路が循環し奥には滝のようになっている。滝側半分が硝子張りの、もう半分には白い天井がある。そんな部屋の中、おおよそ中心部に人影がある。

見ればパニッシェルの姿と、見知らぬ黄髪の幼い少女の姿があった。年齢で言えば五〜六歳程度で、その顔には無邪気な笑顔がある。服装は白を基調として金の装飾のある、言ってしまえば位の高い兵士やカナトリア自身が着ている服装に近い。

そして何よりも目を引くのはその腕。吸い込まれそうな程に暗い青に、転々と光る小さな白。夜空そのものの色彩を持つその手は彼女自身の肉体の三分の一程の大きさであった。

少女は重そうなその巨手を軽々と振り回し、にこにことパニッシェルに襲いかかっていた。当の彼はと言うと、特に焦った表情もなく、普段通りの緩んだ表情で素手で彼女の相手をしていた。彼はカナトリアの視線に直ぐに気付き、飛び込んできた少女の巨手を避け、その勢いのまま腕に抱えた。

 

「おや皇子様、今日はサボりか?」

「……バレたか。流石にパニッシェルには誤魔化しは効かないな。その子は?」


パニッシェルは少女を肩車し直し、カナトリアの元へと歩いてくる。きゃっきゃと喜びながら腕を振り回しているが、彼の凄まじい体幹がブレることは無い。


「テラフィスって名だ。詳細は省くが、要は拾い子でな。有り余る体力とかなりの怪力を持つ娘でな、面倒を見れる奴も中々居ないもんで俺が育てる事になってる。野暮用ってのはコレだ」

「テラフィス、か。宜しくな」

「?───…わあ!」


少女は一瞬頭を傾げたあと、カナトリアの差し出した手を握った。怖いもの見たさで握手をした彼はやはり悶絶し、生娘のような呻き声を上げる。


「いひゃあっ!」

「ハッハ!お前よくさっきのを見て握手する気になったな、ほらテラ、離してやれ」


パニッシェルが優しく手を開くと、テラフィスの込められた力が抜ける。新しい人を見て気分が上がっているのか、彼女は先程よりも嬉しそうに見える。


「わ〜い!」

「いっててて……話通りだな…。でもそれ以外は普通の子供か」

「ああ、折角握手したなら仲良くしてやってくれ。元々喋れない奴だったらしくてな、まだ言葉が教え切れていないが…まあなんとなく理解はしてくれるだろう。」

「ぱぱ…」


テラフィスは一転して柔らかい声になっていた。恐らく動き疲れて眠くなったのだろう、パニッシェルの肩を緩く掴み、瞼が落ち掛けている。

 

「おっと、昼寝の時間だ。じゃあなカナトリア、サボりは程々にな」

「見逃してくれるのか?」

「今回だけはな。可愛い娘の世話がある」

「ふふ、父親姿けっこう似合ってるぞ」


カナトリアの言葉に彼は目を細め、再び部屋奥へと去っていった。


 ※


 深い霧に包まれ切り立った崖。見渡す限り濃霧に支配された視界の先には大海がある筈だが、水平線すら見渡すことは出来ない。

 

「……今日も見えない、か。」


カナトリアは時偶ここへ訪れる。

この"濃霧の断崖"は濃密な魔素の霧に包まれた、大陸の外側に最も近い場所であった。閉鎖的な環境の要因として、この霧は外側からこのアトラメント大陸を見つけることが困難である。魔素の流れが方向感覚を狂わせ、気付かないうちに通り過ぎていたり戻っていったり。少なくとも、カナトリアが生きてきた十八年、外界から訪れた旅人は存在しない。

内側から出ることは可能であるが、この国は満ち足りているのだ。そもそも外国と貿易を行う必要がなく、資源は国内だけで賄うことが出来る。故に、この国で生まれた人間はこの国で一生を終えるのが殆どだ。

しかし。


「──外の世界」


 カナトリアは、冒険に憧れた。

パニッシェルは元々、他の国からやってきた冒険者であったという。英雄と伝えられているのはその為だ。彼の話を聞くと、どうやら様々な国を駆け巡って依頼の解決や旅を行っていたらしい。

後に現在のようにこの国へ訪れ、当時の皇子シュドレの元へ落ち着いた。彼と皇帝がどんな親交を経て今の関係になったのかは分からないが、それから"邪竜戦争"が勃発。武勲を上げ、英雄となったのだという。


そうして、話を聞いたカナトリアは冒険に夢を抱く。

こうして濃霧の断崖に足を運ぶのも「ごく稀に霧が揺らぐ時、海の向こうの景色が見える」という都市伝説じみた噂を信じているから。

じっと霧を見つめて一時間が経つ。

カナトリアは小さなため息を付いて腰を上げ、城の方向へ振り向いた。そんな時だ。


「っ…!」


強風。よろける程ではないにしろ、カナトリアは目を瞑る。何となく風の行き先を探して振り返る。


「──────────」


そこには、一瞬だけ晴れた霧。何処までも続きそうな地平線と、緑の豊かな大地が僅かに見えた様な気がしたのだ。

確信はない。カナトリア自身が願いを夢に見ただけだったのかもしれない。

それでも───


それでも。


カナトリアの冒険心に、夢に、全てに。

火をつけるのには充分だったのだ。


 ※


「荷物は…最低限しか持っていけないか。数日分の食料…乾燥して日持ちしそうなものがいいのか?あとは何がいるんだろう…」


 ガサゴソと身支度をする。本棚の裏に隠してあった、街で見つけた冒険のガイドブックを見てあれだこれだと試行錯誤していると、扉からノック音が聞こえる。


「不味…!しょうがないがこれくらいでいいか…!」

「皇子〜!夕食の準備が出来ましたよ〜!起きてらっしゃいますか〜!」


カナトリアは皇族の服から着替え、街の一般的な服と深くフードを被る。旅の荷物としてはかなり不安な量ではあるが、この際道中で調達する事にした。

窓を開け、思い切って飛び降りる。この時間帯は事前に調べていた通り奇跡的に兵が居ない時間帯であった。

上から召使いの叫ぶ声が聞こえた。バレることは時間の問題だが、まだ見つかるまでは猶予がある筈。彼はそう考え、急いで城を走った。


訓練場で居眠りしている一人の兵士を横に、適当な実践用の槍を手に取る。本当はもっと強力で重みのあるものが良かったが、残念ながら時間とリスクで一般的な物しか選ぶことができなかった。

遠くで自分を呼ぶ声が聞こえる。

兵士達だろう足音も響き、全力で走る、走る、走る──。


 街まで辿り着いた頃には辺りは真っ暗になっていた。路地に身を潜ませ、ほっと息を吐く。ここまで来れば大丈夫だろうとタカをくくっていたカナトリアであったが、真横の街道を兵士が横切り思わず声を上げかけた。

なんとか口を抑えたものの、彼本人もここまで早く騒がれるとは思っていなかった。とは言っても、よくよく考えればあの眼光鋭いシュドレの兵であれば直ぐに考え着きそうなものではあるのだが。

 街の土地勘はあまりなく、視界が拡がる光景で囲まれたと察するカナトリア。


「(流石に無理か……)」


そう小声で悪態をついた時、突然肩を掴まれた。完全に注意不足で背後を取られたと察し、恐る恐る振り返る。


「(シィ〜ッ)」

「(パニッシェル!?)」


そこには見慣れた教育係の姿があった。その身体でどうここまで注目されずにやってきたのかは分からないが、それなりの荷物を抱えた彼は"着いてこい"と言わんばかりのジェスチャーを行った。

捕まえる気は無さそうな様子にカナトリアは正直に彼へついて行くことにした。

路地を抜け、街を抜け、小さな森を抜け、やがて海岸に着く。カナトリアの目の前には小さくはあるが、それなりにしっかりとした小船があった。


「あれを使え」

「…いいのか?父上に知られたらとんでもない事になるんじゃ…」

「夢見る少年が勇気をだして一歩踏み出したんだ。背中を押してやるのが先輩ってモンだろう?」

「…今はただ、感謝する!」

「言葉遣いが丁寧すぎるぜ。もっと若者っぽい言葉と立ち振る舞いを練習しておけ。あとは偽名もな」


くつくつと笑う彼は一瞬、どこか遠い目をする。かつての冒険を思い出しているのだろうか。直ぐにカナトリアに向き直り、持っていた荷物を投げた。 


「ッと」 

「これも持っていけ。それなりに使える道具だ。その船には魔法式を組んである。ここから一番近い大陸に着くルートを進んでいくだろうさ。──行ってこい」

「……ありがとう!!いってきます!」


急ぎ、船に荷物を乗せる。ググッと後ろから舟を押し、波に乗ったタイミングで彼は飛び乗った。背後で手を振るパニッシェルへ、カナトリアは全力で手を振り返した。

そうして、一国の皇子の夢にまで見た旅路が遂に始まった。苦難も多いだろう、挫折もあるだろう。しかし、それ以上に、─────この旅は楽しいものになる。

そう、カナトリアは確信していた。


後に「セレストライブ」と呼ばれるパーティの物語が今、始まる。





「──止めなくて良かったのか?陛下」

「……」


 カナトリアを見送った後、パニッシェルは振り向かずに問い掛ける。背後には皇帝の姿がある。


「私に、カナトリアを止める資格はないと思ってな」

「くっくっく、そりゃあそうだろうな。アイツがやってる事はまさにお前の若い時と同じだろうよ」

「…」

「珍しくあの時みたいに笑ってるじゃねえか。皺は増えても性格は変わらねえな」

「フ、対照的にお前は変わらんな。私とそう歳も変わらんと言うのに」

「そりゃあ鍛え方よ」


パニッシェルとシュドレ。かつて共に冒険者として戦い、肩を預け合った者達。英雄と呼ばれた者達。彼等は見えなくなった青年の方をじっと見つめ続ける。


「血は、争えんな」

「違いねえ」

閲覧ありがとうございます!

気が向いた時にちょくちょく自分用に投稿していこうと思っているので、もし良ければ続きをお待ちください!

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