第二章 動き
レノがカフェを出たちょうどそのころ、警戒態勢の研究所から遠く離れたマンションで男3人が一つの段ボール箱を囲んでいた。
「目的のものは手に入れた。」
男の内、一人が言う。彼は3人の中では一番背が高い。
「ああ、まさに、完全犯罪だね。」
この男は一番背が低い。そして、眼鏡。
「では、作戦開始と行きますか。」
二番目に背の高い男は3人の中でもリーダー格の存在。首を左右にゴキッと一回ずつ鳴らすと、電話を取った。ゆっくりと番号を押す。1、1、0。
「はい、こちら警察です。どうかされましたか。」
緊急通信センターの職員は電話を取り、事件の地域を判別し、一番近くの警察へと連絡を入れる。
「あの、どうされましたか。」
職員が何度か応答したが、相手からの返事はない。しかし、電話はまだつながっている。
「警察ですか。」
電話の相手は男。男は、110番にコールした事を確かめるように言う。それに対して「はい、そうです。」と言うのと同時に、
「爆弾だ。」
と一言。何かの間違いではないだろうか、そう考えた職員は「よく聞こえないのですが。もう一度お願いします。」と電話の相手へ。その瞬間、緊急通信センターと電話の向こうとの会話は切断された。プーップーッという悲しい音が職員の耳元で鳴っている。職員はすぐさま記録室へ向かい、先ほどの電話の録音データを警視庁へ送った。
午後5時ごろ、杉下は刺殺死体の見つかった例の研究所にいた。滝川透が殺された部屋である。滝川はすでに検死を終えており、彼の家族のもとへ遺体は渡されていた。杉下は、部屋をゆっくりと見回しながら、一歩一歩歩いて行く。研究所自体はそう大きいものではなく、いくつもの実験室からなっていた。杉下がこの部屋に来るまでの廊下には様々なポスターが貼ってあったが、爆発物に関するものは一つもなかった。その不自然さと杉下の推理がリンクする。
「この研究所では、爆発物に関する実験は行われていたのでしょうか。」
ぽつりと独り言を漏らす。この部屋は、大きな窓があり、外からも内からもお互いを見る事が出来る。待合室のような作りになっているせいか、研究所という雰囲気を保ってはいない。研究所の出入り口には見張りの警官が交代でついているため、人の気配がなくなる事はなかったが、この研究所の職員たちはもう自宅へ帰された。担当刑事の許可が下りたのである。担当刑事、杉下から見れば、犯人を中川と決めつけたのは早すぎたように思えるが、現に中川はまだ行方不明である。何とも言えない状況の中で、担当刑事を説得できるだけの情報は杉下も持ち合わせていなかったため、研究所職員を自宅へ帰してしまったのである。
「では、僕はこれで。」
見張りの警官に一言告げたのち、杉下は現場を後にした。