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8話

 カリが七歳になって変わった点は、神殿での魔術学習の場にもあった。

 村長の娘が五歳になり、神殿に通い始めたのだ。

 神殿で魔術を学ぶ子供社会において、村長の娘は序列一番。

 農家の子であろうと、戦士の子であろうと、小作人の子であろうと、誰もが村長の娘――ベティをおだてて持ち上げる。


「教もベティちゃんは可愛いね」

「流石はベティちゃんだ。キレイなお服でうらやましい」

「そうでしょう、そうでしょう」


 子供たちから口々に褒められて、ベティは大変に嬉しそうな顔をしている。

 そんなベティに一番ぞっこんなのは、子供の中で一番の力持ちになった、アフだ。

 アフの肉体は、さらに成長して体格が大人顔負けになり、その肉体の力を持て余して乱暴者になっていた。

 アフはその乱暴さをベティには向けずに、ベティに取り入ろうとする他の子たちへと向ける。


「おい、あんまり近づくな!」


 アフは大きな手で子供たちを押し飛ばし、物理的にベティから距離を取らせる。

 そうやって追いやられた子供たちは、避難がましい目をアフへ向ける。しかし睨み返されると、視線を外してしまう。

 そんな傍若無人なアフについて、ベティはどう思っているのか。

 ベティは、その小さな手でアフの背中を、ぺチリと叩く。そして不機嫌そうな声を出す。


「ベティは、みんなと仲良くしたいの。ケンカをする人、キライよ」

「ご、ごめんよ、ベティ。そんなつもりはなかったんだ」


 惚れた弱みからか、ベティに嫌われたのではないかと、アフはおろおろしている。

 その様子を見れば、ベティはアフのことを他の子たちと同じ、友達の一人としか思っていないとわかる。

 アフもそう思われている自覚があるからこそ、他の子たちを遠ざけることで、ベティの一番に成ろうとしちるのだろう。

 そんなベティを中心とした子供たちの輪の中に、カリは入ることを拒否していた。

 カリは、今は魔術を学ぶための時間という神官の言葉と、実際に魔術を使って働いて糧を得た経験から、ベティの機嫌を取るという他所事に構っている暇はないと判断したからだ。

 そうやって人の輪から外れて魔術の訓練に集中している、カリの存在は目立つ。

 しかし子供たちは、カリを輪の中に入れようとしない。

 なにせ、ベティに取り入る人が少なければ、その分だけ自分に目を向けてもらえる確率があがる。

 それに加えて、いま神殿で学んでいる子たちの中で、カリが一番魔術に長けている。その事実に対する嫉妬から、輪の中に入る仲間にしたくないという気持ちがあった。

 そんなカリと子供たちの思惑が重なって、この日までは両者は平和に棲み分けが出来ていた。

 カリが三つ目の攻撃魔術――強風で多くの敵を転倒させる魔術の発動を成功させた、この日までは。


「『風の神よ。その御背の、翼の羽根を、お貸し、ください。その御口を、我が敵へ、御向けください。その息吹でもって、我が前を、大きく広く、吹き飛ばし給え』」


 正しい発音と正しい文言で呪文が完成し、カリの体内の魔央にある魔力を消費し、掲げていた両手から強い突風が吹いた。

 カリの前にある地面の広い範囲にて、転がっていた小石が、折れた枝が、そして土埃が風で吹き飛ばされた。

 その風の威力は、この魔術の効果範囲にいれば、大人であっても転倒は免れないと思わせる威力があった。


「よしっ。三つ目、成功だ」


 これでまた一つ戦士に近づいたと、カリは喜ぶ。

 そんなカリの耳に、興奮したベティの声がやってきた。


「あなた、すごいわね! いまの、どうやったの?!」


 子供たちの輪から抜け出して、ベティがカリに近づいてくる。

 そんなべティの背中を追いかける形で、他の子たちもついてくる。その顔には、ベティの興味を奪ったカリに対する嫉妬が浮かんでいた。

 カリは、なんで自分が恨まれているのか分からないものの、近寄ってきたベティに返答することにした。


「今使ったのは、風の攻撃魔術だよ。どうやったのかは、正しい発音と正しい言葉で呪文を唱えれば、誰だってできるはずだよ」

「そうなのね! ねえ、その呪文を聞かせて!」


 ベティのお願いに対して、カリは困ってしまった。

 攻撃魔術の呪文を教えるのは、神官の役目なのだ。

 もっと言えば、どの魔術を練習するかの許可を出すのは、神官だけの役目だ。

 ここでカリが魔術の呪文をベティに教えることは、神官の役目を取り上げることに繋がる。

 カリにとって神官は、この村で唯一まともに会話をしてくれる、味方のような存在だ。

 だから神官の不評を買うような真似は、カリはしたくないと思った。


「ねえ、早く教えて?」


 ベティが再び呪文を強請ってきたので、カリは神官に顔を向けた。

 すると神官が近寄ってきて、ベティに優しく声をかけた。


「ベティさん。攻撃用の魔術の呪文は、とても長くて複雑です。生活用の魔術を使えない間は、攻撃用の魔術の呪文を教えてもらったとしても、魔術を使うことはできませんよ」

「そうなのね! なら、生活の魔術というのをやるわ! 教えて、神官様!」

「分かりました。ではこちらでお教えしましょう」


 やる気を漲らせるベティと、微笑んで教育を施し始める神官。

 カリは、厄介ごとが去ったと安堵するが、それは早合点だった。

 ベティの興味はカリから魔術の練習に移ったが、ベティを取り巻いていた子供たちの嫉妬はカリから外れていなかった。

 取り巻きの代表者のように、アフが大柄な体を揺らしながら近づき、カリの腹を殴りつけてきた。


「ぐはっ――」


 急な暴力に、カリは腹を押さえて蹲る。

 そんなカリを、アフは更に足で蹴りつけてきた。


「多少魔術が仕えるからって、調子に乗るなよ。小作人の子供のクセに」


 カリは地面に倒れながら、アフがこうも苛立っている理由が分かった。

 アフは呪文の詠唱が不得手で、カリと同じ七歳だというのに、生活魔術の一つも使えないのだ。

 だからベティが魔術に興味を持ったいま、魔術が使えないアフはベティの興味を引く最大の手札がないことになる。

 一方でカリは、ベティに取り入る気はないにも関わらず、魔術巧者であるからこそ勝手にベティの興味を最大に引き付ける存在になった。

 その二つの意味で、アフはカリが気に入らないのだ。

 そうやってカリに内心を見抜かれたことを、アフは感じ取ったのだろう。

 アフはカリを掴んで引き起こすと、カリの顔を殴打した。


「身のほどをわきまえろよ!」


 アフは怒声をカリに浴びせてから、神官から一対一で教えてもらっているベティへと歩き寄っていく。

 ベティを取り巻く子たちも、殴られて倒れるカリに、ざまあみろという目を向けてから、アフの背を追っていった。

 カリは顔の痛みに顔を顰めながら立ち上がり、アフと他の子供たちを睨む。


「いつか見てろよ。僕が戦士になるんだ」


 カリは目標をしっかりと見据えて、再び魔術の練習に戻る。

 その練習の中で、殴られて痛む口だと上手く呪文が発音できないという新たな気づきを得て、より呪文の発音を正しくする意欲を高めていった。

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― 新着の感想 ―
「教もベティちゃんは可愛いね」 推敲、というか読み直しをした方がいいのでは? …と思う程度に誤字が多いです…。
救いは有るのか?
そこで魔術の練習を頑張るのではなく暴力に訴えるのが小物よねえ
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