84話
王が暮らす都から、カリは脱出することができた。
「貴族の襲撃がなければ、都の観光とかしたかったけど」
残念に感じながら、カリは都から離れる方向へ街道を進むことにした。
「出くわす端から貴族は殺してきたから、追っ手は少なくなったと思うけど」
王と共にいた初老の貴族の話から、これから先もカリは貴族たちに狙われ続けることが確定している。
カリが王を殺さない判断をしたため、カリの居場所も貴族たちに筒抜けのままになっている。
わざわざ都を襲撃したというのに、カリの状況は以前と全く変わっていない。
むしろ、貴族を殺したことで、その親族たちに恨まれて、より一層身を狙われることになったことを考えると、状況は悪くなったと言えなくもない。
そんな状況にもかかわらず、カリは将来を楽観している。
「貴族たちは、魔法では僕に敵わないんだ。撃退しなきゃいけない点は面倒くさいけど、貴族たちが待ち構えているのは、基本的に人が住んでいる場所だけみたいだったし」
カリがこれまでの旅路で体験した中では、貴族たちは村や町などの人の集落に集まって待ち構えていた。
それを考えると、カリが野宿を中心にして集落に立ち寄らなければ、貴族たちに襲われる心配は少なくなるのではないか。
「別に、この国に居なきゃいけないってわけじゃないしね」
初老の貴族の話によると、大昔には、この国は他の国と戦っていたという。しかも三つの国とだ。
つまり、他にも国が存在している可能性がある。
「貴族が戦力の主力だっていっていたから、他の国でも貴族が幅を利かせてそうだけどね」
そう考えると、他の国に行っても平穏な生活はできそうにないなと、カリは残念な気分になった。
「この国に留まるのも他の国に行くのも大した差がないんなら、この国を観光し尽くしてから他の国に行こうかな」
カリは方針を固めると、魔法で飛行して都から少し離れた場所まで素早く移動した。そして地図を広げて、都周辺を確認する。
「都近くには、大きな町が幾つかあるようだけど」
観光目的で旅をするのなら、大きな町に寄って色々と見るのは面白い事だろう。
しかし都で大暴れした今すぐに行くと、生き残りの貴族たちが追いかけてきて大変なことになりかねない。
カリは、今日一日で沢山の貴族を殺したので、しばらくは戦いかいから離れたい気分だ。だから、大きな町を観光することは後回しにしようと決めた。
「地図の端の方に文字があるね。なになに」
この地図は、地図を買った町から都までの範囲しか描かれていないもの。
しかし地図の端の余白のところに、この地図の先には何があるかが、文字で書かれていた。
「あの町から都までの方向のまま、更にその先に進むと海がある。そう書いてあるね」
興味をそそる文字に、カリの心は浮足立つ。
カリのように、地図に書かれた文字を読んで、地図の先にある景色を想像する者は多いだろう。
そして、地図の先が気になった者の中から、地図の先の場所が描かれた地図を購入する者も現れるだろう。
つまるところ、地図の端に書かれた追加情報の文字は、顧客に次の地図を買わせるための宣伝文句に違いなかった。
カリは、その事実に気づきながら、もしかしたら海の向こうが他の国なのかもしれないなと、海のある方向へ進むことに決めた。
「新しい地図が欲しいところだけど――いや、急ぎの旅じゃないんだから、いく方向で出くわした人に海のことを聞けばいいか」
カリはそう結論付けると、都を迂回しながら海のある方向へ向かうために、空を飛ぶ向きを変えたのだった。




