83話
建物を出て正門へ。
すると、多数の貴族たちが待ち構えていた。
「僕は出ていくところなんだけど、それでも邪魔するの?」
カリへの返答は、貴族たちからの多数の魔法の投射で行われた。
カリは溜息を吐きたい気分になりつつ魔法を行使し、迫りくる貴族側の魔法を全て迎撃した。
「限界圧縮した魔央を持つ、僕に勝てないって理解してもいいのに」
カリは貴族の一人に指を突き付ける。そして、その指から魔法による光線を照射した。
光線は瞬く間に命中し、当たった貴族の胸に穴を空け、そしてその肉体までもを炎上させる。
カリは同じ魔法を何度も使って、次々に貴族たちを穿ち炎上させてく。
「この、悪の魔法使いが!」
貴族の一人が、遠距離戦は不利だと考えたのか、剥き身の剣を手に特攻してきた。
その判断について、カリは一言告げたくなった。
「僕は、接近戦を挑む貴族ばかりの建物から生還しているんだよ。それなのに、どうして接近戦を選ぶかなぁ」
カリは両手に魔力の刃を作ると、近づいてきた貴族の剣とその頭を順に両断した。
遠距離でも近距離でも分が悪いと分かったのだろう、ここで貴族たちの戦い方に統一感が失われた。
ある者はカリから遠ざかろうと下がり、ある者はそれでもと接近戦を挑んできて、そして優柔不断な者はその場にとどまって魔法を放つことを続ける。
カリは、接近してきた貴族たちの頭を潰して殺し尽くし、殺した貴族の体を盾にして遠距離攻撃を防ぎながら前進し、狙いやすい位置に至った貴族たちを魔法を放って殺していく。
貴族側の数があっという間に減っていき、やがて閉じられた正門の前で遠距離攻撃を続ける数名が残った。
カリは、盾に使ってボロボロになった死体を横に投げ捨てながら、正門へと手を向ける。
「閉じているんだから、仕方ないよね」
ここでカリは、限界圧縮した魔央による最大火力を試してみようという気になった。
その理由は、もの凄く強い魔法を使って見せれば、貴族の腰が引けて復讐に来る人数が減ると判断したからだ。
「さて、やってみようか!」
カリが伸ばして手の先に、目を突き刺す光を放つ光の玉が生じた。
この光の玉が危ないことを察知したのだろう、正門前にいる貴族が半狂乱になって魔法を放ってくる。
しかしそれらの魔法が到達するより先に、カリが光の玉を解放する方が早かった。
「消し飛べ!」
カリの言葉と共に、光の玉から狭い放射状に光が放たれた。
光の奔流とも呼べるそれは、門前の貴族たちを飲み込み、そして正門へと到達する。
万物を隔てるはずの正門は、しかし一瞬にして光の中に消失した。
カリの手の前にある光の玉が消失し、光の奔流も消え去る。
その後に残ったのは、まるで最初からなかったかのように、カリが立っている場所から百歩分先の距離にある全ての建物が消失した光景だった。
恐るべき景色だが、カリは納得がいってなかった。
「範囲にある全てが消え去っているのは良いけど、その範囲が狭いな。僕の想像力が欠けていたのかな?」
魔法は、願ったものを叶えてくれるもの。
逆を返せば、カリが想像し得ないものは、自身が使用する魔法では実現しえないということでもある。
カリは、これ以上の魔法とはどういう者かを想像しながら、建物が消失した空間へと足を踏み入れ、その先へと進んでいった。




