82話
カリは、王にまつわる様々な方法を知って、決断した。
「なら、仕方ないか」
カリは王に背を向けて、部屋を出ていこうとする。
そこに初老の男性が待ったをかけてきた。
「どうした。王を殺すのではなかったのか?」
カリは歩くのを止めて、初老の男性へと顔を向ける。
「最初はね。でも、それをしても意味がないことが分かったから、もういいやってね」
「意味がないとは?」
分かっていなさそうな初老の男性へと、カリは肩をすくめてみせた。
「あの王を殺したところで、僕に対する貴族たちの恨みが晴れることはない。そうでしょ?」
「王からの情報がなくなろうと、貴族たちは貴様を狙い続けるだろう。その命尽きるまで」
「僕が王を殺そうとしたのは、王を殺せば、これから先の人生で貴族たちから命を狙われなくなると考えたからだよ。そうじゃないとわかったのなら、王の命を取る必要がないよね」
「貴様への貴族の恨みが、王の命を保ったと?」
「言っておくけど、僕はやたらめったら人を殺したいなんて思ってないからね」
カリがそう言うと、初老の男性は視線を扉の向こうにある廊下の惨状へと向ける。あの有り様を生み出しておいて、よく言うなと言いたげである。
「王までの道を素通りさせてくれていたら、あの人達だって殺したりしなかったよ」
「狼藉者を王の下に届かせるなど、貴族としては受け入れがたい事象だ」
「そう意地を通すから、僕が殺すことになったんじゃないか。それにあんたは生きているよね。それだけで、僕が理由もなく殺し回っているわけじゃないことは証明できそうなものだけど?」
「王にまつわる情報を知るために生かしたのではないか?」
「その理屈なら、その情報を得た今、僕はあんたを殺してしかるべきでしょ。それなのに、生きたままでいる」
初老の男性は、カリの論理を受け入れると身振りしてから、話を元に戻しにきた。
「王を生かしても殺しても、貴族に狙われることになる。だから王を生かす選択をしたと?」
「王の命というより、人々から魔術を奪わない選択をしようと考えたからだよ。まあ、王を殺せば貴族も魔法が使えなくなるというのなら、僕は王を殺したかもしれないけどね」
「そんな事実はない。貴族は王がいなくとも、魔法を使える。それは曾祖父の時代から証明されている」
「ともあれ、僕が王の命を取ると、取らないよりも混乱が酷くなりそう。それが、僕が王を殺さないことにした理由だよ」
もう話は終わりかと、カリが視線で問いかける。
初老の男性は、まだ何かを聞きたい顔をしていたが、言うことはないと首を横に振ってきた。
それならと、カリは部屋の外へ出ようと、大扉を潜り始める。
そして体が完全に廊下に出たところで、振り返りながら攻撃のために魔法を使った。
カリの背中に向けて魔法を放とうとしていた、初老の男性。その体がカリの魔法によって千々に切り裂かれた。
「折角命を拾った状態だったんだから、そのまま生き残っていればいいのに」
どうして初老の男性が急に魔法を放とうとしてきたのか、カリには理解できなかった。
そして、知る機会はもうないのだからと、カリは細切れになった初老の男性と椅子に座ったままの王に背を向けて、廊下を歩き始める。
死体と血の川を踏み越えて、カリはこの建物の外を目指して進む。
その道の途中途中で、まだ生き残っていた貴族が襲ってくるが、それらの命を魔法で狩り取りつつ進んでいった。




