77話
待ち構えていた貴族たちを殺し尽くすと、カリは空へと飛び上がり、そして都へ向けて移動を再開した。
あれほど大量に貴族を殺したからには、ここから先は邪魔者は出てこないだろう。
そんなカリの予想は、裏切られることになる。
都の姿が上空から確認できる位置に到着すると、カリの進行方向――つまり空に邪魔者たちが待ち構えている姿を発見した。
「またか」
カリは対応が面倒くさいと感じ、魔法で白炎を投射した。
待ち構えていた貴族たちは即座に方々の空へと散開したが、何人かは咄嗟に飛んで逃げることができなかったようで白炎に飲み込まれた。
カリは白炎を消すと、白炎が通った場所が、ぽっかりと空に空いた道になっていた。その道を通り、カリは待ち構えていた貴族たちを通り過ぎることに成功した。
しかし貴族たちも、回避した先でカリへの対応を開始していた。
「追え! 都に入れるな!」
「奴の狙いは王だ! 身を投げ出してでも仕留めるんだ!」
貴族たちは、空を飛んでカリを追いかけながら、魔法を連発し始める。
カリは、貴族たちに狙いを定まらせないように、上下左右に飛ぶ位置を変更しながら都を目指して飛び続ける。
そんなカリと貴族が移動している都の近くの土地は、都に住む人達のための食料生産場所になっているようで、広大な畑がある。
貴族たちが放った魔法が、カリに当たらずに通り過ぎて、その畑へと着弾している。
岩や水や風の魔法であれば被害は限定的だが、火の魔法が当たった畑では火事が発生して黒煙が上がり始めている。
「僕一人のために、周辺地域に被害を出すなんて、ダメじゃない?」
カリが疑念を持つが、しかし貴族たちは魔法を放つ手を止めようとしない。
貴族も魔法使いだから、カリと同じで魔法で栄養を作りだせるので、食料を必ずしも要るとは限らない。
だから都近くの畑が丸焼けになったとしても、貴族たちは困らないから攻撃を止めないのかもしれない。
「もしくは、畑を全て犠牲にしてでも、都にいる王を守ることの方が大事だったり?」
あちら側の事情はどうあれ、カリにとって今一番大事なことは、カリの身の安全を確立するために、都に入り王とその家族を殺し尽くすこと。
カリは飛翔する速度を上げて、間近に迫っている都の上空へと急ぐ。
あと少しで都に入れるという地点に差し掛かると、今度は都の外苑からカリに目掛けて魔法が飛んできた。
カリは全ての魔法を飛翔の機動力で回避しながら、新たに飛んできた魔法の射手を見るために、魔法で視力を上昇させた。
「ご丁寧に、都の回りにまで貴族を配置しているわけね。それだけじゃなく、都の中にある建物の屋根にも」
およそ全ての貴族を都に集めているんじゃないかと思えるほど、カリを待ち構えている貴族の人数が多い。
カリは、数多くの貴族を相手してはいられないと、先に王が住んでいそうな場所に目星をつけることにした。
建物の屋上や屋根に陣取っている貴族たち。その彼ら彼女らが厚く守っている地点があり、その周辺が王の住居であると目算を立てた。
「あそこへ向かう!」
カリは都の内に進入すると、飛ぶ高度を下げて、立ち並ぶ建物の屋根よりギリギリ上を飛翔し始める。
低く飛び始めたカリを狙って、貴族たちは魔法を放つ。
空を飛びながら追いかけている貴族たちは、空高くへと飛ぶ位置を変えて、上からカリを狙う。
屋根や屋上に陣取っていた貴族たちは、カリを狙って水平射に近い形で魔法を放つ。
上空から放たれた魔法は、高速移動するカリを捉えきれずに都の建物に当たり、次々と建物が魔法で圧し潰される形で倒壊する。
水平に放たれた魔法も、カリに当たらないままに他の建物の側面に当たり、大穴を空けたり炎上させたりしている。
こんな貴族の暴挙に対して、都に住む一般人たちは知らされていなかったのか、破壊の音を聞くや建物の外に避難に出てきた。
「なんだ、何が起きているんだ!?」
「貴族様たちが、なにかしているぞ!」
「なんで都で、魔法を!?」
混乱する人々の声が耳に入りながらも、カリは王がいるであろう場所へ向かって飛び続ける。
その進行方向に待ち構えている貴族たちから、カリを押し留めようとするように、大量の魔法がやってきた。カリを狙い定めたものではなく、カリが進む場所を面で塞ぐための、威力よりも数を優先した魔法だ。
「これだけの量になると、流石に避けきれない」
カリは抜け出す隙間がないと分かると、魔法で障壁を作って、近づいてくる大量の魔法に対処した。
大粒の雨が屋根に当たるような音を奏でながら、障壁へと魔法による攻撃が衝突し続ける。
威力よりも数を重視した貴族の攻撃と、限界圧縮した魔央で生みだした障壁とでは、障壁の方が勝っていたようだ。
カリは障壁が割れることなく、待ち構えていた貴族たちの包囲網を突破した。
そしてカリが目を付けた建物に到着すると、貴族たちからの魔法攻撃が止んだ。
まるで、この建物だけは攻撃を当ててはいけないと、そう弁えているかのように。
しかし貴族たちは、カリの排除を諦めたわけではないらしい。
「奴を捕まるぞ!」
「ここからは接近戦だ! 武器を携えろ!」
都の方々にいた貴族たちが、この建物に目掛けて集まり始めている姿を、カリは見た。
「どうやら本当に、この建物に王がいるみたいだ」
カリは、自分の見立てが間違いなかったことを知ると、建物の中に侵入した。




