76話
カリは空を飛びながら移動し、途中途中で野営を挟み、あと一日で都に到着する地点へと差し掛かった。
ここまで来れば、地図を見なくても都まで一直線に移動することができる。
地図を仕舞ってから最大速度で移動を開始しようとして、地上から火の柱があがってきた。
カリは飛行方向を変えて回避すると、視力を強化して地上を睨んだ。
地上には多数の貴族が集まっていて、空を指しながら仲間を呼び集めている様子があった。
「流石に、空を警戒していたか」
貴族たちの視点で考えれば、ここ数日の間はカリの居場所を事前に察知していたのに、何時の間にか通り過ぎられてしまっていた状況だ。地上で標的に出会えないとなれば、その目が空に向かうのは自然の流れと言える。
カリは見つかったことに肩をすくめながら、飛んで通り過ぎることができないかを試そうとする。
しかし、それより先に貴族たちから魔法が多数打ちあがってきた。
「遠慮なしに!」
現在のカリは自身の魔央を限界まで圧縮してあるので、貴族たちの魔法は通用しないはずではある。しかし、貴族からの魔法を何発も直撃して耐えられるものなのかは、試していないため分からない。
だから万が一を考えると、カリは貴族たちの魔法から回避せざるを得ない。
カリは空を縦横無尽に飛びながら回避し続け、でもそうしてばかりもいられないため、反撃に多数の岩を降らせる魔法を放った。
カリが魔法で生み出された岩たちは地上に向って落下していき、やがて貴族たちが放った魔法に迎撃されて粉々になった。
「僕が圧縮した魔王から強力な魔法を放ったとしても、数が多いと対応されちゃうか」
それでもカリは、空からの遠距離攻撃で貴族たちを撃退できないかと試す。
貴族たちは協力して、カリの魔法を迎撃し、無傷のまま。
この段階に至り、カリは貴族たちを直接迎撃しないと、先へ進めそうにないと判断した。
カリは空を飛ぶことを止めて、一路地上を目指して降下する。
だが、ただ単に空から降りるのでは面白くない。
カリは、地上で魔法を放っている貴族の一人に狙いを定めると、その人物目掛けて高速で飛翔した。数舜でカリは目当ての場所に到達し、下りるために伸ばした足が狙った人物に命中した。
高空から凄い速さで落下した物体にぶつかったのだ。カリに狙われた貴族は、頭を踏み砕かれる形で即座に死亡した。
唐突に降って湧いた形でカリが現れたからだろう、貴族たちの反応は鈍く、その多くは未だに上空へと顔を向けたままだ。
「隙あり!」
カリは、掛け声とともに魔法を放った。魔力を刃の形に固めたものが、カリの周囲に撒き散らされる。
カリの近くにいた貴族たちは、大した反応ができないまま、魔力の刃に体を細切れにされて絶命した。少し居場所が離れていた貴族も、仲間が死体となる際に威力が減衰した魔力の刃が当たり、体に大きな傷を作ったり手足のどこかが斬り飛ばされたりした。
「ぐああああああ! いつの間に!」
「ここだ! ここに現れた!」
「みんな邪魔だ! 魔法が放てない!」
混乱する貴族たちとは裏腹に、カリは次の魔法を放っていた。
限界圧縮された魔央が生み出す、超高温の白炎の魔法を。
魔力の刃で傷を負った貴族たちが、その白炎に飲み込まれ、一瞬にして炭になり灰へと変わる。
しかしカリの居場所から距離が離れるに従って、対応が間に合った貴族が多いようだ。
「僕を攻撃するんじゃなくて防御を選んだ人は生き残ったみたいだ」
魔法は願えば叶う。そして魔法使いは頭を潰さないと、魔法で体を治しかねない存在だ。
つまるところ魔法使いを殺す一番の方法は、何かを願う前に頭を潰すこと。
「なら、接近戦が一番楽ってことだ」
カリは、白炎で生みだした灰を踏みながら、生き延びた貴族の一人へと肉薄する。そして腰から剣を抜くと、その貴族の頭に目掛けて振るった。
しかし貴族とて、易々と死ぬつもりはないらしい。
「舐めるな!」
その貴族は障壁の魔法を展開し、カリが振るう剣を防ごうとする。
剣は障壁に当たり、そして簡単に斬り裂いて、貴族の頭部に到達した。
「なん、でぇ――」
末期の声を残し、頭を両断された貴族は死亡した。
カリは即座に次の獲物を探すために視線を巡らし、一番近い一人に狙いを定めた。
「ひぃ!?」
怖気づいた悲鳴を上げて、カリに狙われた人物は、自分の周りを魔法で作った岩で覆った。
これで剣が届くことはないと思っただろうが、カリの手にある剣は岩ごとその人を両断した。
剣が岩を斬り裂いたことで、貴族の誰かがカリが行っていた仕組みに気づいたようだ。
「あいつ、剣に魔力の刃を纏わせているんだ! だからこちらの魔法が切れる!」
「ご名答!」
カリは正解を告げた人物に称賛を送りながら、正解の褒美として魔力の刃で覆った剣を味わわせた。
ここでようやく、貴族側から魔法による反撃が来た。
「残念。狙いが甘い」
カリは飛翔の魔法を使用し、地上に居ながら体を高速移動させ、次の獲物に肉薄する。狙いを失った魔法が、あらぬ方向へと飛び去った。
そこから瞬く間に三人が、カリによって頭や首を両断されて死亡した。
その死体が地面に倒れ込むより先に、さらに二人が頭を半分にされて死んだ。
まだまだ貴族の生き残りはいるが、この状況を見れば、もはや勝負はカリの勝利で決したようなものだった。




