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74話

 地図を片手に持ちながら、上空を都へ向けて一直線に飛んでいく。ただし全速力ではなく、それなりに緩い飛行速度で。

 どうして全速力を出さないかというと、地図に場所を特定する目印が書かれているのだが、街道の分かれ道にある石や木などの目印だと上空を高速飛行すると見逃してしまうから。

 だからカリは、飛行速度を落として目印を見失わないようにしながら、上空を移動しているわけである。

 そうこうしている内に、次の目印となる村の存在が見えてきた。

 魔法で視力を上げて村の様子を確認してみれば、その村にも貴族が数人いることが分かった。

 貴族が複数人で待機しているということは、その狙いがカリであることは間違いない。


「僕が貴族を殺した村からは大分離れているはずだけど?」


 全ての村々に貴族を配置しているのだろうかと、そんなことができるほど人数が多いのだろうかと、カリは首を傾げる。そして、そんなことはないはずだと結論付けた。


「僕の居場所がわっている。少なくとも、いる方向ぐらいはわかっている、ってことかな?」


 都にいる王は、質問すれば全て教えてくれる存在だという。

 カリが殺さないと約束したから逃がした、あの女性貴族。

 あの彼女が都に戻って、王にカリの居場所を質問して教えてもらい、それを他の貴族に教えたのではないか。


「そう考えるにしても、対応が速いように感じるんだけど?」


 カリは疑問が晴れないまま、目を向けていた村の上空を通過した。

 ともあれ、カリの進行方向にある村や町には、貴族たちが待ち構えていると考えた方がいい。

 そしてカリは戦闘狂ではないので、避けられる戦いは避ける気でいる。


「その王と、王と同じ能力があるかもしれない王の家族を殺し尽くせば、僕の居場所は分からなくなるはずだしね」


 自分の平穏のために、罪のない王とその家族を殺すことに、心が痛まないのか。

 カリが貴族たちに命を狙われているのは、在野に現れた魔法使いを殺害することが王と貴族が決めたことだから――いわば国の方針で殺されそうになっているからだ。

 だから王と家族を殺すことは、いわば生存のために必要不可欠な正当防衛である。

 それがカリの認識であるため、心を痛める理由がない。


「そもそも貴族以外の人物が魔法使いになったら、その人を貴族の仲間に入れればいい。そうすれば、殺し殺される必要ないはずだし」


 同情に値しないと、カリは王とその家族と邪魔してくる貴族たちを殺すことを決意し直しながら、空を飛び続けた。



 上空を飛翔する旅は、誰にも邪魔されない快適さはあるが、全て順調というわけでもない。

 カリが気楽に飛翔していると、空飛ぶ魔物に突然襲われた。

 魔物は昆虫型で、ペン軸のような体に羽が八枚生えている、見るからに飛行に特化した体の造りをしていた。

 その魔物は、高速で飛翔しながら、カリに体当たりをしかけてきた。

 カリは魔法で飛び方を変更し、魔物の体当たりを回避する。

 しかし魔物は諦めず、通り過ぎた先で身を翻すと、再び突撃してくる。


「邪魔だ!」


 カリが魔法を使い、魔力を固める。それは、体の大きさを超える拳の形になった。

 その巨大な拳を、突撃してくる魔物に正面衝突させた。


「ギツチ!」


 魔物は声というよりかは音に聞こえる断末魔を上げて、バラバラに爆散しながら地上へと落ちていった。

 これで一息入れられると、カリは思った。

 だが、そう簡単にはいかなかった。

 バラバラの魔物の死骸が地上に到達した瞬間、同種の魔物が複数匹飛び上がってきたのだ。


「仲間の復讐か!?」


 カリは驚きながら、巨大な拳を振るう魔法を再び使用した。

 しかし仲間がやられる姿を見ていたのか、新たに来た魔物たち全てに避けられてしまう。


「知恵を付けたってか!」


 カリは、時間差で突撃してくる魔物たちを視界に入れ、その全てを急旋回で回避する。

 カリは魔法で反撃しようとするが、魔物がバラバラな方向に逃げたため、一網打尽にできそうにないと理解する。


「せめて一匹は!」


 カリは、ある一匹に狙いをつけて、魔力の刃を放った。真っ二つに斬られて、その個体は地上へと落ちていく。

 そうやって一匹倒したところで、他の個体たちに攻撃の耐性を整えられてしまう。


「逃げる――いや、それは面倒だ」


 カリは飛行を一時止めて、上空で静止した。

 すると、止まったカリに目掛けて、全ての昆虫魔物が突撃してきた。

 上下左右から全く同時に着弾することを狙った、逃げ道のない攻撃の仕方だった。

 しかしカリにとって、その攻撃は、むしろ有難かった。


「暴風に巻き込まれて、粉々になれ!」


 カリは魔法を使用し、自分の体の周りに、とてつもない強風を巻き付かせる。

 竜巻と化した魔法の風は、突撃してきた魔物を全て飲み込んだ。

 もの凄い風に流されて、魔族同士が竜巻の中で衝突し合う。衝突した衝撃で脱落した昆虫の殻が破片となり、その破片が風で高速回転して刃となり、魔物たちを傷つけて新たに殻の破片を生む。

 やがて魔物たちは、仲間同士での衝突と殻の破片での斬り裂きとで、ボロボロになって絶命した。

 カリが魔法を解除すると、絶命した魔物たちは地上へと落ちていき、地面に落下衝突した衝撃で破裂した。


「ああもう、予定外に時間を食った」


 カリは、今日明日のうちに王とその家族を殺す必要はないんだからと、自分の心を落ち着かせた。


「ふう。よし、移動再開だ」


 カリは落ち着きを取り戻すと、都を目指す空の旅を再開させた。

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― 新着の感想 ―
虫魔物の前世は◯斗の拳の読者だった説
この速度で対応されてるとなるとふつうに王様に逃げられそうですねー
王や貴族からしたら管理外の魔法使いとか厄介事でしかないんやろなー
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