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73話

 折角大きな町に来たのだからと、カリは宿屋に泊まることにした。

 カリが体験した中では、村では宿屋は一つあるかどうかで、町でも高級宿と安宿の二種類が数件あるだけだった。

 この町では、高級と安価の間に値段設定された、いわば中級宿と言える宿屋が存在していた。

 カリは、地図を買って軽くなった財布の中身も考慮に入れて、この中級宿に泊まってみることにした。

 中級宿の受け付けでどういう宿かを尋ねたところ、高級宿の縮小版という触れ込みで経営しているらしかった。


「高級宿と、どう違うだ?」

「お部屋の大きさを一回り小さくし、お出しする食事については使う食材もありふれた物を使っております。そして調度品は品良く見えるのに手に入り易いものを使っております。それ以外については高級宿と同じものとなっております」

「それ以外となると、ベッドのシーツとかってこと?」

「食器や従業員もでございますね」

「従業員も同じって、高級宿から連れてきたってこと?」

「いえ。こちらの宿は、高級と呼ばれている宿の系列店ですので、従業員は共通でございますよ」


 なるほどと納得し、カリはこの宿屋に部屋を取った。

 部屋までの通路の景色、そして部屋の中の光景を見て、カリは一人納得する。


「ぱっと見じゃ、なにが高級宿と比べて安物を使っているのか、さっぱりわからないや」


 通路も部屋の中も綺麗に掃除されていて、調度品も高級そうな艶やかさを持っている。

 受け付けにいた従業員が言うには、それら調度品は手に入り易い物とのことだった。

 しかしカリの目を通して見ると、自分で使うには気後れするほどの高級品でしかない。


「使うのが怖くなるけど、壊さないように使えばいいだけだし」


 カリは意識を切り替えて、部屋の中でくつろぐことにした。

 ベッド脇にある椅子に座り、小さな丸い天板の机に肘を置く。

 その小さい机の上には、焼き菓子数枚と小瓶に入った酒らしき液体、そして一枚のメモ書きが添えられていた。


「軽食と寝酒です、か。すんすん。なんか度数が高そうな酒だな」


 カリは、焼き菓子に興味は引かれたが、酒を口にしようとは思わなっ太。

 十歳という年齢的な感覚からか、それとも魔法で栄養を作れる特性から必要ないと判断したかは、カリ自身にも判別が付かない。


「シーツが綺麗すぎて、この状態で飛び込むのに気後れするなぁ」


 カリは自分の旅装束を見て薄汚れていると感じ、魔法で装束を全て綺麗にしてみることにした。

 魔法は、願えば叶うもの。

 一瞬にして、カリの衣服や装備が新品同然に綺麗な状態になった。


「ちょっとやり過ぎた感じがあるけど、これだけ綺麗にしたらいいよね」


 カリはベッドの上に寝ころぶと、その柔らかな寝心地に驚いた。


「全身を包み込んでくれるみたいに柔らかいや。ああ、なんだか、ゆっくり眠れそうな気がする」


 カリが試しに目を閉じると、すとんと落ちるように眠りにいざなわれてしまった。



 夕食時に従業員が呼びにきて、カリは起きた。そして、ありふれた食材を使っているとは思えないほど、美味しい料理を堪能した。

 その後は再び部屋に戻り、寝心地よいベッドで惰眠を貪ることにした。

 そしてあっという間に朝が来て、朝食も美味しくいただいてから、宿屋を後にした。


「いやー、いい宿だったね」


 中級宿でこれほど満足なら、高級宿に泊まったらどんな感想を抱いてしまうのか。

 カリは、将来必ず高級宿に泊まってみようと考えながら、町の外を目指して歩き出す。

 そしてあと少しで町の出入口だというところで、カリは最大に広げていた魔央を限界まで圧縮した。


「チッ。この町に貴族が近づいていてる……」


 これほど大きな町に貴族がいなかったことが不思議だった。

 だが貴族が複数人で町に近づいてくると感じたことから察するに、どうやら家族総出で外に出かけていて、いま戻ってきたようだ。


(出かけていた理由を知りたいけど、この町近辺で出くわすのは拙い)


 この限界圧縮した魔央があれば、カリは貴族たちに魔法で負けることはない。

 しかしこの町は、地図を買えたり、中級宿に泊まったりと、いい思い出がある。

 貴族との魔法合戦で壊すには忍びないため、カリは貴族たちと合わない判断を下した。

 カリは町の出入口から外に出ると、街道を外れた平原へと踏み入る。出入口近辺にいた人たちから変なものを見る目を向けられるのを背で感じながら、人の視力では視認が難しい距離まで駆け足で移動した。

 十分に距離が離れたと確信できた地点で、カリは魔法を使って上空へと高速で飛び上がった。魔央を限界まで圧縮して強力な魔法が使える状態になっていたため、高い場所に到達するまで一瞬だった。


「ふぅ。これで見つかることはないかな」


 カリは魔法で視力を上げて、町の出入口へと近づいてきている貴族たちへと、上空から目を向けた。

 貴族たちは馬車三台に分乗しているようで、その馬車の回りには甲冑を着た戦士たちが付き従っている。


「僕が先日殺した貴族たちと同じ組み合わせだ」


 だからあの貴族たちの目的も、在野に現れた魔法使いである、カリの抹殺なのだろうと予想がついた。


「いちいち相手にしていられない。地図が手に入ったからには、都とやらに直行しよう」


 カリは地図を見て現在地を把握し、目的地である都がある場所へと顔を向ける。そして魔法で空を飛ぶことで、移動を始めることにした。

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― 新着の感想 ―
王様からの託宣で追ってきているんだろうなぁ。 託宣→政府(王宮)→高位貴族→討手 で、それぞれ格式高く呼び出しては命令してるんで動きは遅いんだろうなぁと。 やっぱり領土内は王様の魔央で覆われてるんじゃ…
魔法使い狩り部隊?はカリがどの街辺りにいるかまでは分かっても魔央で感知して追ってきたりはしないかあ
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