70話
貴族たちと戦った村を脱出した後で、カリは王都を目指すことにした。
王がカリの居場所を貴族に伝えているという情報を得て、自分の平穏を保つために、その王を殺すことにしたからだ。
道の上を歩きつつ、王を殺すにはどうしたらいいかを考えていく。
「まずは王が何処に済んでいるのかを知らないとね」
地理に詳しい人物というと、カリは行商人しか知らない。
しかし行商人であっても、全員が王が住んでいる場所を知っているとは限らないんじゃないかと、カリは考えた。
「開拓村に来た行商人の口から、王が住んでいる場所で流行っている物だって売り口上を聞いたことなかったし」
きっと王様が使っていると売り文句を言われていたら、村人は挙って買ったことだろう。
それを言わなかったってことは、あの行商人は王のことを良く知らなかったに違いない。
そう判断を下してから、カリは王の居場所を知る行商人に、どう知り合えば良いのかを考えていく。
「小さな村にいる行商人よりも、発展した町にいる行商人の方が知ってそうだよね。となると、その町にいくのが先決かな」
目的が出来たのなら、移動は早い方がいい。
カリは、魔法で上空へと飛翔すると、空の高い位置から地上を見渡すことにした。そして遠くに見える、建物が多く立っている場所を、魔法で視力を上げた目で確認していく。
「うーん。なんか大きく発展して居そうな町は、ここから見える範囲にはないみたいだ」
カリが想像した通りの大きな町は見当たらなかったが、見つけた中で規模が一番大きな町を一先ずの目的地にした。
そしてカリは、上空にいるのだからと、その町を目掛けて魔法で一直線に飛翔することにした。
地上に敷かれた道を無視して、最短距離を飛んでいく。
視線を地上に向ければ、人が居ない手つかずの原野が広がっていて、そこには野生動物や魔物の姿もある。
人の居住地から離れれば離れるほど、動物も魔物も見たことのない種類を目にすることができた。その魔物の中には、一目で強そうだと感じるものもいる。
「ああいう強い魔物が出てこない土地を選んで、人が住んでいるのかもしれないな」
カリが順調に空を飛んで進んでいると、やおら近づいてくる存在を魔央を通して察知した。
カリが顔を向けると、大人の三倍はあろうかという体長を持つ、巨大な鳥がいた。
「野生の鳥? それとも魔物?」
初めて見る存在に、カリはどっちだろうと迷いつつ、巨大な鳥の近くに音だけ大きな爆発を魔法で発生させた。
ばごんっと音が鳴り、その大音に驚いた様子で、巨大な鳥はカリから離れていった。
そうやって巨大な鳥を追い払ったカリだったが、その大きな音は地上にまで到達してしまったようで、地上にいる動物や魔物の視線が上空を飛ぶカリに向いた。
その視線の内の殆どは、自分には関係ない存在が発した音だと判断したようで、すぐに地上を見るために視線が移動した。
しかし幾つかの動物や魔物の視線は、上空高くを飛ぶカリに固定したままだ。
「見られているけど、ここまで上がってくる手段はないはずだし」
カリは気にせず飛翔を続けようとして、魔央から伝わってきた感触に警戒感が起き、進行方向を斜め前へと変えた。
すると直後に、カリが飛んでいた場所を掠めるように、石や矢が飛んできた。
カリが視線を地上に向け直すと、筋骨隆々な人型の魔物が、手に持った石を投げつけてきたり、細い丸太をそのまま改造した弓で矢を飛ばしている様子が見えた。
「こんな場所まで石や矢を届かせるなんて、すごい筋肉をしている魔物だ」
カリは感心する気持ちが湧いたが、飛翔する速度を上げることで、その人型魔物の攻撃範囲から離脱することに成功した。
そうやって空を飛んで移動することしばらくして、目的地にした町の近くへとやってきた。
カリは上空で一度止まると、その町へ接続する道を上空から探す。そうやって見つけた道へ、その場所と近くに人が居ないことを確認してから、下りた。
今度は歩きで町を目指しながら、カリはどうしたものかと腕組みする。
「さっき空から下りてくるときに、街道に止まっている馬車を見つけたんだけど……」
ちゃんとは確認していなかったが、あの馬車は荷馬車で、横に転倒していたように見えた。
そしてカリは、五人の貴族と戦った村に至る前の道にて、旅人や行商人は道の上にある転倒した馬車には近寄らないようにしているという常識を学んでいた。
その常識に照らして考えると、転倒した馬車の横を通り過ぎるのが最善だろう。
「でも、もし転倒したばかりの、行商人が乗っていた荷馬車だったら、この周辺の地図を持っているかもしれないんだよな」
もし地図があったら、その地図に王がいる場所が書かれているかもしれない。
カリは、転倒しているように見えた馬車の近くに至るまでに決断しようと考えながら、街道を歩いて進んでいく。




