67話
朝を待って、村の中に入った。
その際に村の出入口を守っている戦士が、カリを恐ろしいものを見る目を向けてきた。
いまのカリは、魔央を極限まで圧縮している。
そして極限圧縮された魔央からは、強力無比な魔法を放つことが可能になっている。
だから戦士は、そのカリの魔央の危険さを直感して、警戒しているのだろう。
カリは、戦士から異様に警戒されていることを知りながら、村の中に入った。
(あの戦士が、村にいる貴族たちに伝えるはずだ。怪しい旅の戦士が村に入ったってね)
カリはそう考えながら、昨日上空から見て把握していた食堂へと入る。
「なにか食べられるもの」
銅貨を机の上に十枚置きながら注文すると、すぐに女性店員が寄ってきた。
「すぐお持ちしますね」
店員は、さっと銅貨を回収すると、腑に落ちないような表情で料理を持ちに去っていく。
多分、見た目が子供なカリに対して、どうして恐れを抱いているのか理解できていないのだろう。
先ほどの戦士とこの店員の差を見るに、限界圧縮した魔央が発する威圧感は、感じる人によって受け取る差があるようだった。
新たな気づきを得た後で、カリは配膳された黒パンと根野菜ばかりのスープを食べていく。
味気ない食事をぺろりと平らげて席を立とうとする直前、食堂にドカドカと足音を立てて入ってくる存在が現れた。
カリが視線を向けると、昨日上空から視認した、例の貴族の一団がいた。
貴族は五人全員いるが、甲冑戦士は全員が食堂に入って来れなかったようで七人しかいない。
その五人の貴族たちは、食堂の中を一瞥してから、カリに視線を固定してきた。
誰何が始まるかと思いきや、貴族たちの一人がいきなり魔法を放ってきた。
目的の人物じゃないかもしれないという疑いを持っているようで、使用してきた魔法は強力な風で相手を吹き飛ばすという殺傷能力が低い物だった。
カリは急に攻撃されたことに驚きつつも、限界圧縮したままの魔央には通用しないと判断して、あえて反応を返さなかった。
貴族が放った風の魔法は、カリから拳一つ分の空間を囲っている限界圧縮された魔央に弾かれて二つに割れた。そしてカリの背後へと過ぎ、食堂の壁を叩いた。
「いきなり、何をしてくるんだか」
カリが呆れ声を放ちながら立ち上がる。
すると貴族たちは、魔法が防がれたことに対する驚き顔から、獲物を見つけたという歓喜の顔にかわる。
「とうとう見つけたぞ、悪の魔法使い!」
「隠れもせずに、間抜けなやつめ!」
「大人しくすれば、苦しまないように殺してやる!」
「さっさと殺して、帰らせてもらうわ」
「五対一ですよ。観念してください」
カリは、勝手なことを言ってくる魔法使いの顔を、一つずつ確認する。
男性三人に、女性二人の内訳。
男たちの顔は自分は強者だという、傲慢な認知から歪でいる。
女性の片方も、面倒なことをやらされていると考えていることが丸わかりの、うんざり顔だ。
最後に言葉を発した女性だけは、任務を果たそうとする真面目な顔をしていた。
この中の一人を生かして情報を得る場合、誰を残した方が良いのか。
「とりあえず、性格が被っている男。そのうちの二人は殺していいかな」
性格違いを一人ずつ残した後で考えようと、カリはつい自分の考えを口に出してしまった。
その発言が聞こえたようで、貴族の男性たちが揃って怒り顔に変わる。
「やはり悪の魔法使いは、すぐに殺すべき存在だ!」
「俺を舐めたな!」
「楽に死ねると思うな!」
その三人が魔法を使ってきた。二人が火を放ち。一人が石を打ち出してきた。
カリはその魔法を見て、火を放った片方を最初に殺すことに決めた。
「まずは一人」
カリが片手を大きく振るいながら、カリの全身を覆える障壁を魔力で形作った。
貴族側が魔法で作った二つの火と一つの石は、その魔力の障壁に当たって砕け散る。
カリはすぐに次の動きに入る。自身が作った魔力の力場を魔法で操って高速移動させ、火の魔法を使った男の片方に衝突させた。
高速の力場で叩かれたことで、その男性貴族は全身の厚みが半分になって死んだ。
一瞬にして、魔法三つを防がれ、貴族の一人が死んだ。
この事実に、残り四人となった貴族たちに驚きの表情が浮かぶ。
「な、なんだ、こいつの魔法は」
「悪の魔法使いの魔法は、我々より強力だとでもいうのか」
「絶対違うわ! いま結果は油断していたからよ!」
「建物から出ましょう。戦士と協力して、確実な対処を」
生き残り四人のうち、真面目そうな女性だけは冷静な判断をしている。
カリは、あの女性を生き残らせる一人に選ぼうとする。
(いや真面目だからこそ、僕に情報を渡さないという判断をするかもしれないな)
最終的な判断は保留としつつ、外へと出ていった貴族と甲冑戦士たちを追いかけて、カリも建物の出入口へと向かうことにした。




