66話
次の町に到着しようとする直前に、カリの魔央がある感触を受けた。
他の魔法使いの魔央と接触した感触。しかも同時に複数。
「何人もの貴族が、村にいるってことか?」
カリは、貴族が治める町ならともかく、村の一つに貴族が複数いることに疑問を抱いた。
そこでカリは、上空高く飛び、件の村の様子を視力を魔法で強化したうえで確認することにした。
周囲に人が居ないことを確認してから、カリは魔法を使って上空へ飛翔した。
「村の規模は、開拓村の二倍はありそうだ」
あの規模だと、あと少しで町の仲間入りをしそうだなと、カリは感じた。
魔法で視力を強化し、さらに詳しく村の中を探っていく。
すると、すぐに貴族らしき人たちの姿を発見した。
豪華な服を着た人が五人。その周囲を囲むように、甲冑戦士が二十人。
その人たちは、誰かや何かを探している様子で、大通りを行き来する人を捕まえては質問をして解放している。
「一体、何を探っているんだろう?」
カリがそのまま見ていると、何かの情報を掴んだのか、貴族の一団が居場所を移動し始めた。
何処に行くのかを確認すると、村の宿屋らしき場所へと入っていった。
それからすぐ、宿屋の壁を突き破って、人が飛び出てきた。
歳が二十代ほどに見える男性で、剣と鎧を体に装備していることと、その装備があの村の戦士の物とは違う点から、旅の戦士だと分かる。
壁を破って飛び出てきたのは、恐らく貴族から魔法で攻撃されたのだろう。
あの旅の戦士が貴族に目を付けられるほどの悪さをしたのだろうかと見ていると、宿屋から貴族たちが出てきた。
しかし貴族たちは、探している人物とは違ったのか、あの戦士を放置して先ほどまでいた場所へと戻っていってしまった。
「何がしたかったんだ?」
それからカリはしばらく様子を見ていたが、貴族の一団は村から出ていくことはせず、夜近くになった頃に村長宅やその周辺住宅へと分かれて入っていった。
「貴族が泊りがけで探すなんて、よっぽどのことだ」
そしてカリが考えつく事柄の中で、貴族が執着し得るよっぽどのことは、野良の魔法使いしかない。
加えて、宿屋を突き破って出てきた人物の格好が旅の戦士だったことを考えると、貴族の一団がカリの発見を目的にしているのではないかと予想を付けることができる。
「でも僕を探しているにしても、僕があの村に行くってことが分かってないと泊りがけで探そうだなんてしないよね?」
カリが魔法使いであると知る人物は、カリ自身以外にはいないはず。それなのに、どうして貴族たちは村で待ち構えることができているのか。
「話を聞く必要がありそうだ。でも、貴族を生かしたまま捕らえるのって、結構危険なんだよなぁ……」
カリの頭に浮かぶのは、不意の魔法攻撃で頭を吹き飛ばされたベティの姿。
ベティは、彼女の甘さで殺さなかった貴族の子供によって、死ぬことになった。
その二の轍を踏まないようにするには、貴族は確実に殺すべきだ。
しかし殺してしまっては、どうして待ち伏せすることができたのかを知る機会を失ってしまう。
カリにとって一番大事なことは、自分の生存だ。
情報を知りたいが、生存の危険がある真似は冒せない。
「……一人だけ生かそう。それで攻撃の意思を持ったままなら、その一人も殺してしまおう」
情報を得られたら幸運だという気持ちで、カリは貴族に待ち伏せされている村へと向かうことにした。
魔央を最大まで圧縮した臨戦態勢で。




