63話
森の際から外に出ると、もう日暮れ近くになっていた。
「森の中で、時間をかなり使っちゃったからな」
カリは肩をすくめながら、夜に村に戻ることはないと判断し、この付近で一泊することにした。
幸いにして、近くには薪や食料を集めるのに困らない森がある。
まずは寝泊りする場所を決め、その場所にある土をひっくり返して生えていた下草を混ぜ込んで、焚火を置く場所を作った。
その後でカリは、移動するのが面倒だからと魔法で力場を生じさせると、その力場を操作して森から乾燥した枝や生きている小動物を手元へと持ってきた。
枝は火を付けてから重ねて焚火にし、小動物は仕留めてから解体した。そうして解体して得た肉に、荷物から塩を取り出して塗り込んでいく。
「焚火の上で肉を浮かべながら焼くのは、魔法だからできる芸当だよね」
肉から滴った脂が焚火へと落ち、瞬間的に火の勢いが強くなる。焼けて蒸発した脂と煙が焚火から立ち上り、空中に浮かびながら焼かれている肉に香ばしい匂いをつけていく。
カリは焼けていく肉の変化を楽しく見ながら、その味を想像して更に楽しくなる。
「もういいかな? 試しに一つ」
カリは魔法で浮かせている肉片の一つを、口の中に移動させて噛んでみた。
ちゃんと中まで焼けていて、噛むと肉の間に閉じ込められていた肉汁が溢れ出てくる。表面に刷り込んだ塩気と肉汁が合わさり、美味さが口内に広がっていく。
「美味い! 魔法を使えるようになって食事で栄養を取る必要がなくなったから、食べるなら美味しいものがいいもんね」
カリは、焼けた端から肉を口の中へと放り込んでいく。
そうやって食を娯楽として満足するまで堪能してから、焚火の側に寝ころんだ。
そしてカリは焚火の温かさを感じながら、目をつぶる。
寝ても良いのだが、カリは魔法で自身の疲労や眠気を取り払えるため、寝る必要はない。
だからカリは、地面に寝転がりながら、魔央の範囲を広げる努力を行うことにした。ある程度集中して行う必要がある作業は、暇つぶしに丁度いい。
「範囲が広がる速さは常に少しずつだけど、範囲が広がれば広がるほど早くなっていっているみたいではあるんだよね」
その少しの変化が、カリが飽きることなく魔央の拡張を続けられている秘訣になっている。
そうやってカリが、日が明けるまで暇つぶしをしようとしていると、森の中から近づいてくる存在を魔央を通して感じ取った。
「……いちいち殺すのも面倒だし、追い払うだけにしようかな」
カリが目をつぶりながら、自身の指を一振りさせた。直後、森の中に『バン』と大きな破裂音が響いた。カリが魔法で発生させた音だった。
突然異音が響いたことで、森の中の生き物たちが慌てて森の奥を目指して移動を始めた。それはカリに近づこうとしていた、なにかの生き物も同じだった。
じっと魔央を通して森の中を感じ取ってから、カリは溜息をつく。
「ふう。どうやら、こちらに来ようとする存在は居なくなったみたいだ」
平和になったと、カリは安堵する。
その後は、何かに煩わされることもなく、カリは朝が来るまで魔央の拡張を努力し続けることができた。
そうして朝になったので、カリは荷物と魔物の死体を背負ってから、村を目指して歩くことにした。




