62話
戦士の遺体の付近を、カリは藪を蹴立ててガサガサと音を立てながら歩き回る。
周囲の状況は魔央を通して把握しているが、とりたてて変化があるようには感じられない。
「うーん。考え違いだったか?」
あまりの手応えの無さに、カリは足を止めて一休みしつつ、次の方策を考えようとする。
そうやって休んでいると、魔央からある感触が伝わってきた。
ある場所が、徐々に形を変えているのだ。
その変化の具合は、感じ取った今でも気の所為じゃないかと思えるほどの、微小な変化の連続である。それこそ、周囲の木々や草花が風に揺れている状況と合わせると、変化を感じ逃してしまうほどゆっくりな変化だった。
カリは、考え続けているふりをしながら目玉だけ動かして、その変化がある場所へと視線を向けた。
一見すると、森の光景しかないように見える。
しかしカリは、魔央を通しての感触と、微細な変化を逃さないよう視覚を研ぎ澄ませることで、そこに何かがいることを察知した。
件の魔物らしき感触がある場所は、太い木の枝の上だ。その木の他の枝に比べて、ある場所の枝だけ地面に向ってしなっていて、風に揺れる幅も小さくなっている。
視認はできないものの、魔央からの感触と木の枝のしなり具合と合わせて予想できる魔物の大きさは、カリと同じぐらい。
「予想よりも小さい。ということは、攻撃の仕方に工夫があるのかも?」
仮にカリがその魔物だったとして、冒険者の頭蓋骨を割るとしたら、どんな方法を取れるだろうか。
腕力では無理。脚力でも難しい。魔法は反則。道具にしても、森で拾える枝や石を単に使うだけでは実現できない。
カリは考えながら、手にある剣に目を向ける。
「剣も押し付けるだけだと斬るのに力が必要だけど、勢いをつけて振れば枝ぐらいは斬れるようになるよね」
そのことを踏まえて考えると、石のようなものを振り回して打撃することが魔物の攻撃ではないかと、カリは考えついた。
そんな考察をしていると、魔央を通して感じていた魔物の動きが急に活発になった。
カリがギョッとして目を向けると、目星をつけていた枝の上にある風景の一部がズレていた。
ズレている形は、両手両足が極端に短い人間のようで、その形の真ん中から地面に向かって一直線にナニカが垂れ下がっていた。
形の正体が何なのかを確定させる前に、カリは身を前に投げ出した。
直後、魔物の形らしきものから垂れ下がるものが急速に動き、カリの頭があった場所を通過した。
「なんだ! 伸びたのか!?」
カリは驚きながら、形振り構っては居られないと判断し、魔法で攻撃することを決めた。
後で村人に魔物の死体を見せた際に剣での斬撃に見えるように、魔力を固めた刃を魔法で放った。
カリが攻撃を避けたことと、カリから反撃があることを、魔物は予期していなかったようだ。
あっさりと魔法が通じ、魔物の頭と胴体とが分れ、共に枝の上から地面へと落下した。
カリは仕留めた魔物に近寄り、その存在を詳しく確認してみた。
「色々な色がある毛で覆われた、毛むくじゃらだ。この毛を動かすことで、周囲の景色と同化しているみたいだね。体から垂れ下がっていたように感じたのは、尻尾だね。尻尾は引っ張れば引っ張るほど伸びるし、その先端は石のように固いや」
風景と同化して獲物に近づき、この尻尾を鞭のように振るって致命傷を与えるのだろう。
攻撃する瞬間の動きの速さを考えるに、風景に同化することを考えなければ、それなりに早く移動できることも可能なはずだ。
村の戦士という人間の肉の味を覚えたであろうことを考えると、放置していれば森の際にやってくる人を狙って襲うようになっていたかもしれない。
「とりあえず、これで依頼は達成だ。これと同じ魔物がまだ他に森の中にいる可能性は十分あるけど、そこまで面倒はみきれないかな」
カリは、討伐した証拠として魔物の死体を担ぎ上げ、戦士が死亡していた証拠として錆びた剣を拾い上げ、村へ戻るために森の際の近くまで魔法で瞬間移動することにした。




