60話
現在のカリの魔央の展開範囲は、努力して日々少しずつ拡張してきたこともあって、当初の二倍近くまで広がっている。そしてカリは、自身の魔央を展開する形を変化させることが可能だ。
加えて、魔央の特性として、魔央の圏内に入っている物体のことを触感に近い形で知覚することが可能だ。
だからカリが村の外に出て、魔央を自身の足元から身長をやや超える程度の高さの円筒形にしてから最大展開して、視認可能な範囲以上の部分を魔央を通して知覚する。
しかし知覚した物体のなかに、魔物っぽい存在はない。
過日の盗賊よろしく地下に隠れているかもしれないと、魔央で索敵する範囲を変更する。
地下に住む動物はいるが、魔物らしい存在は確認できなかった。
「普段は、村から離れた場所にいるのかも?」
カリはそう予想を立てて、村を中心にして、そこから少し離れた場所を一巡してみることにした。
カリが歩いて進んでいくと、しばらくして村の戦士二人と出くわした。もちろん展開している魔央から伝わる感触から、カリは二人の存在を先に気付いてはいた。
この戦士たちは村の周囲を巡回していたからか、カリが呼び止められた。
「こんな場所で何をしている?」
一人が質問し、もう一人が武器を構えて向けてくる。
カリは、敵意がないことを身振りで示しながら、村長に用事を頼まれた事情を語った。
「村一番の戦士がいなくなり、それが魔物の仕業である。その魔物を討伐して欲しいと頼まれたから、発見しようと巡っているわけ」
「戦士がいなくなった……ああ、あの件か」
「対応してくれと村人たちから要望があったが。そうか村長は、君に頼んだのか」
二人の戦士の顔は、こんな子供に頼んで解決できるのかと不安げだ。
「あの件に出てくる魔物なら、進む方向が違う。話の戦士が進んでいったのは、こことは村を挟んで真反対の場所だぞ」
「村人たちが言ってくる被害についても同じ方向だから、他に移動したとは考えなくていい」
「そうなんだ。有用な情報、ありがとう」
カリは二人に一礼すると、教えてもらった方向へと歩を進めることにした。
戦士二人に言われた方へ進んでいきながら、魔央を広く展開して周囲を探っていく。
少し先へ進んでいくと、急に動物や魔物の存在が多く知覚できる場所が現れた。
カリが目をすぼめて平原の先を見ると、地平線から頭を出す形で、平原の中で育った森の先端があった。
「あそこにいそうだな」
カリは、他に目ぼしい場所もないからと、その森を目指すことにした。
森の手前に到着すると、ここに人が通っている生活感があった。
切り倒した後で水分を抜くために放置されている樹木が何本もある。森の手前側の茂みは切り払われていて、それでも残っているのは山菜や木の実がなるものだけ。その山菜や木の実にしても、不自然なほど少量しか残っていない。少し奥へと目を向ければ、括り罠やトリモチで捕まって動けなくなっている小動物たちの姿も見えた。
「あの村では、この森に薪や食べ物を取りに来ているんだな」
カリは、罠を踏み荒らさないよう気を付けながら、森の中へと入っていく。
森の手前側は、かなり人の手が入っていた。だが奥へ進めば進むほど、自然な森の状態へと移っていく。
下草は繁茂し、木々が生存権を確立しようと根をせり出させ、野生動物が茂みや枝の間から縄張りを守るために周囲を伺っている。
カリは、生命溢れる様相となってきた森を歩きながら、どうしたものかと首を傾ける。
「野生動物も沢山いるけど、それと同じぐらい魔物も多そうなんだよなぁ」
カリが魔央を通して感じ取っただけでも、魔物の数はあの村に住む人と同じぐらいはありそうだった。
そんな数多い魔物の中で、どれが村人を害している魔物なのかを知る方法を、カリは持っていない。
「見つける端から魔物を仕留めていけば、件の魔物も殺せるんだろうけど……」
そんな力技で解決することを、カリは面倒臭く感じた。
「特定の魔物だけ狙うのなら、方法は二つだ」
一つは、村人を襲っていることを考えるに、件の魔物は村人が立ち入る森の際に出てくるはず。ならカリも、森の奥へ向かうのではなく、森の際に滞在して襲われるのを待つ。
もう一つは、魔物を狙って森に入ったであろう、戦士の死体を探す。死体から何がしかの魔物の痕跡が見つかるだろうし、もしかしたら獲物を奪われたと誤解して魔物が来るかもしれない。
カリは、二つの方法のどちらが良いかを考えて、一つを選択した。




