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58話

 魔法使いだと見極められるのは、感の鋭い人と魔法使いだけだと判明した。

 目立つ魔法さえ使わなければバレる心配がなくなったので、カリは大手を振って街道を旅することにした。

 やがて次の村が見えてきたので、この日はその村に滞在することを選んだ。

 村の中には、旅人や行商人向けの宿屋があり、カリもそこに宿泊することにした。


「一泊、銅貨二十枚。一食付けるのなら、その度に十枚追加で貰う」


 宿屋の受け付けで簡単な説明を貰って、カリは銀貨を一枚渡しながら言う。


「夕食と朝食付きで一泊」

「銅貨十枚の返しだ」


 釣銭と番号のタグのある鍵を貰って、カリは宿の部屋へ。

 部屋の内装は、ベッドと椅子が一つずつあるだけだった。

 カリはベッド横に背負っていた荷物と、二つある剣のうち盗賊から得た両手剣を体から外して置いた。そして空気を入れ替えるために、窓の木戸を開ける。

 人が通り抜けられないほどの小さな窓ではあるが、そこから涼やかな空気が部屋の中に入ってきて、カリは気持ちよさを感じた。

 その流れで窓の外に目を向けると、ある一軒の家の前で人がたびたび立ち止まる姿が目に入った。


「ん? 立て看板がある?」


 どうやら道行く人達は、その看板を見るために足を止めているようだった。

 その看板に何が書かれているのか気になり、部屋を施錠してから、カリは腰にある剣を供に外に出ることにした。

 目的の立て看板は、村長宅の前に置かれていた。

 そして看板の木板には、直接インクで文字が書き込まれていた。


「なになに。ザヒルの町を治めていた、アパルパフ男爵家が一家惨殺された。その下手人の情報を広く集めている。有益な情報には金貨一枚を約束する。マザブート伯爵」


 カリはこの看板から、あの町がザヒルという名前であること、アパルパフ家が男爵だったこと、そして情報を求めているのがマザブート伯爵であることを初めて知った。

 そして同時に、この看板の真の意味を、こう理解した。


(アパルパフ家を殺した犯人は、開拓村に現れた魔法使いだろうと予想はついている。けれど、それがどんな人物かは情報が全くないんだろうな)


 そうでなければ貴族が情報に金貨一枚を払うはずがないと、カリは考える。

 一方で、この看板の文面を知った他の人たちは、金貨一枚という報酬に色めき立っているようだった。


「貴族様を一家まるごと殺したなんて、なんて奴だ」

「でも貴族様は魔法使い様なんだろ。そんな方々を殺せるのって、魔法使いじゃないと有り得なくないか?」

「貴族と貴族が殺し合ってたりしてな。つまるところ、他の貴族がどう動いたかの情報が欲しいってことだろうさ」

「旅人に話を聞いて回ったら、もしかしたら良い情報があるかもしれないぞ」


 村人同士で話し合っている様子を耳に入れながら、カリは宿屋に戻ることにした。

 看板の情報は現状把握に役立ったが、同時に貴族たちに狙われ続けている身の上を思い出すことにも繋がった。


「必要以上に隠れる気はないけどね」


 カリは、不必要に目立つような真似はしないが、必要とあれば魔法も使用する心構えを改めて固める。

 そのとき、ちょうど取った部屋の前に到着した。

 鍵で開錠しようとして、扉が開いていることに気付いた。

 施錠をしたことを、カリは覚えていた。

 もしかしてと、カリは用心のために腰から剣を抜き放ってから、部屋の扉を開けた。

 部屋の中は、ベッドと椅子が一つずつ。そしてカリが部屋に置いた荷物を漁る、男性の盗人がいた。


「おい、なにしてる!」


 カリが声をかけると、盗人は驚きの表情を浮かべながら振り返ってきた。

 村暮らしでは考えられない、薄汚れた肌と衣服から、この男も旅人だとわかる。

 そして恐らくは旅費が尽きて、宿泊客から金目の物を盗もうとしたのだろう。

 盗人は、声をかけてきたのがカリ――十代の子供だと知ってか、表情を驚きから覚悟を固めたものへと変えた。


「見られちまったからには」


 盗人は懐からナイフを取り出し、カリに襲い掛かってきた。

 大人と子供で、体格差は歴然。普通なら子供であるカリが負けてしまう場面だろう。

 しかしカリは、子供であっても、魔法使いだ。

 カリは迫る盗人に目を向け、そして体を動かせなくなる魔法を使用した。

 すると盗人は、前かがみで片足を上げた状態で、停止した。

 全く動けないことに、盗人の顔に困惑が広がっていく。

 そんな盗人に向かって、カリは持っていた剣を突き出す。剣先が盗人の胸元に滑り入り、心臓を一突きにした。

 カリは剣を引き抜き、魔法を解除する。自由になった盗人は、しかし胸に致命傷を受けたことで床に倒れ込んだ。

 あとは死を待つばかりの盗人を前に、カリはどうしたものかと後ろ頭を掻く。


「とりあえず、宿の従業員に事情説明しないといけないよね」


 死に行く盗人は、カリが借りた部屋で倒れているのだ。

 カリが真摯に盗人が部屋に入り込んでいて、それを返り討ちにしたのだと弁明すれば、聞き入れてくれる可能性の方が高い。

 その可能性を信じて、部屋の状態を別の誰かに荒らされないように施錠してから、カリは従業員の元へと急ぐことにした。


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― 新着の感想 ―
魔法使いってバレそう
前作に比べて登場人物がめっちゃ少ない、唯一の同行者も居なくなって、ボッチになってしまってこれから仲間は増えるのだろうか?
カリにその気がなくともトラブルの方から寄ってくるかあ 盗人相手とはいえ殺しに対してなんかあるかなあ
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