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55話

 平原の地下に穴を掘って隠れ住む盗賊たち。

 カリは、その穴の近くまでやってくると、改めて地下にいる盗賊たちの様子を広げた魔央で持って確認する。

 人数は七人。それなりの広さがある部屋が四つ連なった空間にいる。

 問答無用で全員を魔法で殺すことは可能だが、カリは盗賊たちが地下に作った隠れ家の様子を目で見たくなった。


「眠らせるか」


 カリは魔法を発動させ、強烈な眠気を起こす空気を地下に充満させた。

 効果は覿面で、魔央を通して感じる地下の盗賊たちが、バタバタと床に沈んでいく。

 すっかりと寝入ったのを確認してから、カリは出入口を塞いでいた草のムシロを取り払って、地下に侵入する。

 土を削って段々に整えた階段を下りていくと、器に入れた油に差した草に火を付ける、そんな灯りが点々と並んでいた。

 しかし弱々しい火の光は、地下空間を全て照らす力はないようだ。


「暗いな。灯りを」


 カリが願い、魔法が発動。

 カリの頭の上に光る球が出現し、周囲を眩く照らしだした。

 そうやって見えた地下の部屋は、なかなかに立派なものだった。


「丁寧に土を削ってから、壁や床や天井を押し固めたんだな」


 この最初の部屋は、カリなら悠々と立ってられる、大人でも軽く腰をかがめれば立てる高さがある。幅も人が五人は並んで横になれる広さがある。

 壁の片方には腰をかけられる段が一直線に作られていて、その反対側には大きな横穴が空いている。そして壁と壁の間には、草を編んで作ったゴザがかけられた、土を盛って固めて作ったテーブルがある。

 ちなみに横穴は、中に鍋と、それを置くための平たい石が三つ、燃え残った薪、そして空気穴が外に伸びていた。どうやら竈のようだ。

 そんな竈の前に、男性の大人が寝倒れている。土剥き出しの地下に暮らしているためか、全体的に薄汚れている。

 カリは、寝ている男性の衣服の内を検めて情報を探る。しかし、懐に隠していた武器以外、めぼしい物は持っていなかった。


「念のため、首の骨を折って殺しておくか」


 カリが手を捻ると、その動きに連動する形で魔法が行使され、寝ていた男の首があらぬ方向へ曲がって首の骨が折れる音が響いた。

 推定食堂の空間を通り抜けて、カリは次の部屋に侵入する。

 こちらは先ほどとはうって変わり、真ん中に一直線に細い通路があり、左右には平たく大きな寝床が広がっていた。

 寝床は、干し草を先に敷き、その上に草のゴザを被せたもの。

 片方の寝床に、二人の男性が寝ている。どうやら、複数人で一つの寝床を共有して生活しているようだ。ちなみに二人とも服を着て寝ているので、恋人同士という線はないはずだ。

 カリは、その二人の首の骨も魔法で折って殺すと、更に先の部屋へと入った。

 この部屋は、壁際に複数の椅子や机を土で作ってある空間だった。

 机の上は、場所によって、地図が広がって居たり、食べかけの料理が入った器があったりと、様々。

 カリは地図を拾って眺める。


「この拠点から、近くの休憩場所までを書き込んだものだね。この地図をつかって、どう襲うかの作戦を話し合っていたんだろうな」


 カリは、机に突っ伏して寝ている男性に近寄ると、衣服の内を検める。

 こちらも最初と同様に、特にめぼしい物は持っていなかった。


「この作戦室っぽいところにいるからには、盗賊の頭目だと思ったんだけど、違うのかな?」


 カリは、この男も首を折って殺し、最後の部屋へと向かおうとした。

 しかしここで、地下空間に入って初めて扉が出てきた。

 木の板を組み合わせて作ったような粗末な扉だったが、部屋と部屋を区切る役目は十二分に果たしている。


「なるほど。一番奥の部屋が、頭目の私室ってことか」


 カリは、扉で空間が区切られていたので、もしかしたら睡眠を誘う空気が入りきれていない危惧を抱く。

 扉を開いて中に入ろうとしたら、その扉の影に人が隠れて不意打ちをしてくる可能性だってある。

 カリは、魔央から伝わる感触で、最後の部屋にいる人が動いていないことを確認してから、扉を開けて中に入った。

 最後の部屋の様子は、最初に入った部屋とよく似ていた。

 部屋の片側には腰かけられる段差が一直線にあり、中央には土を固めて作った円筒形の机がある。

 違いがあるとすれば、竈を置く穴が作られていないことと、部屋の片隅に盗み集めたであろう品々が積み上がっている点だ。


「机に突っ伏している一人と、段差に二人。これで感じ取っていた盗賊は全員いることになるね」


 頭目は、おそらく机で寝ている方。金属製の鎧で上半身を守っているし、机に立てかけている剣も作りが良い。懐を検めると、宝石が入った小袋が二つ出てきた。

 カリは、立て掛けられていた剣も手に取り、鞘を払って剣の全体を確認する。

 飾り気の少ない、両手持ちの長剣だ。


「実用向きの実直な剣だ。室内や地下空間で使うのに適した剣じゃないことを考えると、もともと頭目が持っていたものではなくて、休憩場所を襲って殺した旅する戦士から奪い取ったものだろうね」


 カリは良い剣だったので、自分のものにすることにした。

 ただ、剣帯で腰に吊るすには、十歳であるカリの身長では足りない。

 そのため、斜めに剣を背負う形で、胴体に剣帯を巻くことで対応した。


「うん、動ける。けど、この地下空間から出るまでは、手に持って移動しよう」


 壁や天井に剣の先が当たるので、カリは長剣の剣帯を体から取り払うことにした。

 そして改めて、眠っている三人に目を向ける。

 先ほど調べた頭目は、用が済んだので首の骨を折って殺す。

 最後の二人はと目を向けると、部屋の段差の上で重なっていた。それも全裸で。しかもよくよく見れば、妙齢の女性たちだった。


「この二人も盗賊なのか。それとも盗賊に攫われた被害者なのか」


 カリは判断に迷い、この二人については放置することにした。


「盗賊の一員だったとしても、他の全員が死んでいるんだから、活動は続けられないだろう。被害者だったとしても、この部屋の隅にある略奪物は置いていくから、それを使えば逃げ出せるだろうし」


 自分が助ける必要はないと判断して、カリは頭目から奪った宝石が詰まった革の小袋二つを手に、地下空間から外へと出ることにした。


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― 新着の感想 ―
実に静かに全滅させたもんですねー 盗賊の末路としては苦しまずに死ねただけマシかなあ
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