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55話

 カリの一人旅が始まった。

 特に行く当てのない旅路ではあるものの、その旅路を楽しむ気概だけはある、そんな旅だ。

 カリは街道の上を歩いていて旅をして、まず思ったことがある。


「意外と、行商人って多いんだな」


 カリが住んでいた開拓村では、行商人なんて一年で数度の頻度でしか来なかった。

 しかし、カリがいまいる街道では、もう何台も荷馬車とすれ違っていた。

 カリが開拓村で育んだ常識で考えると、こんなに行違うほどひっきりなしに行商人が村に来たら、売買できる品物や金銭がなくなってしまうのではないか。


「でもきっと、僕の考えの方が間違っているんだろうな」


 商人が利に聡いことは、開拓村の子供だったカリであっても知っている事実だ。

 ならば、馬車が街道を行き来するからには、それだけ儲ける伝手があると考える方が道理に合う。

 こうして街道を行くのは、行商人と荷馬車と護衛たちばかりではない。

 カリのような旅暮らしをしていると思わしき人も、何人か出くわす。

 旅の戦士っぽい恰好の人。弓を手に街道を外れて狩りに行く人。背中に弦楽器を背負っている人。ロバに大荷物を背負わせている家族。

 様々な人生模様があるなと、カリは感慨深い感情を抱く。

 それと同時に、カリは心配な気持ちが湧いてきた。


「行商人は護衛を雇っているけど、他の旅人っぽい人たちはそうじゃないんだよね」


 戦士っぽい恰好の人や弓を持っていた人は、きっと戦えるだろうから心配はいらない。

 一方で楽器持ちや家族連れの人たちは、護衛もなく歩いて怖くないのだろうか。

 カリは、そう心配になったものの、道で行き違っただけの人を気にかけ続けるわけにもいかない。

 心配な気持ちを振り払って、カリは街道を歩き続けることにした。

 そうして朝から歩き続けて昼を過ぎた頃になり、街道脇に人が数人集まって立ち止まっている姿が見えた。

 カリが興味を持って近づくと、どうやら街道に作られた休憩場所のようだった。

 更に近づいて様子を確認すると、休憩している人の多くは近くを流れる小川に水を汲みにいっている。どうやら水分補給ができるため、休憩場所として活用されている場所のようだ。

 そこにいる人の中には、この場所で寝泊りすると決めた様子で、造りが簡単なテントを設営している人もいた。

 カリは、魔法で栄養や水分は問題なく補給できるし歩き疲れてもいないため、この休憩場所を通り過ぎることにした。

 そして少し歩いて、カリは広く展開している自身の魔央を通じて、ある存在を感じ取った。

 カリは目に魔法をかけて遠くを見通せるようにすると、感じた存在を視認するべく目を向けた。


「草むらに隠れて、休憩場所を監視している人がいるな。武器を持っているようだし、盗賊かな?」


 流石に休憩場所を保全する監視院ではないだろうと、カリは結論付ける。

 ではあの人を盗賊と仮定したとして、カリはどうするのか。


「圧縮せずに展開している魔央の範囲内だから、それなりの魔法を使うことはできる」


 それこそ、開拓村で外壁に近づいた魔物相手にしたように、魔法の力場で握りつぶすことはできるだろう。


「怪しいからと殺すのも、どうかっていう考えもあるな」


 見逃してしまったところで、襲われるのは休憩場所にいる人たちであって、カリではない。

 だから殺さなくても、カリ自身が襲われる心配はない。


「ベティが生きていたら、迷わず倒してしまおうって提案してきただろうけど」


 しかしカリには、それぐらい積極的に人助けをしようという気は起きない。

 カリは色々と考えて、とりあえず自分がすべきと思ったことをやる事にした。

 隠れている人を殺すのではなく、その目的を尋ねようと。

 カリは、魔央で周囲の状況を把握し、自分を見ている人は居ないことを知り、即座に瞬間移動で草むらに隠れている人の背後に出現した。


「ねえ、ここで何をしているのかな?」


 カリの声に、草むらに居た男性が驚愕で目を見開いて振り向く。そして手に持っていた短剣で攻撃してきた。

 問答無用の襲撃だったが、カリは落ち着いていた。


「残念。盗賊だったか」


 カリは自分の身にナイフの刃が届く前に、目の前の男を魔法の力場で上から圧し潰した。

 ぐしゃりと潰れて果てた男は、地面へと血の染みを広げるだけの存在になった。


「この人が監視役だとすると、近くに仲間がいそうなものだけど」


 カリは魔央を通じて、周辺の状況を探る。

 カリの魔央は住んでいた開拓村を覆える範囲まで広げているが、殺した男の仲間らしき存在は感知できなかった。


「少し遠くに居るのかもしれないな」


 カリは球形に展開していた魔央の形を長方形へと変化させ、街道から離れた方向に差し向ける形で重点的に探っていく。

 すると程なくして、数人集まっている場所を感知した。

 その人たちが普通の人でないことは、彼らがどこにいるかで証明されている。


「平原に穴を掘って、そこに隠れ住んでいるのか。普通に探したんじゃ、見つからないだろうなあ、これは」


 カリだって、魔央を変化させた上で探る様に動かすことで、ようやく感知できたぐらいだ。

 遠くから目で見るぐらいじゃ、隠れ場所を見つけるなんて不可能。もしかしたら付近を通ったとしても、あると知ってなければ横を通り過ぎることだってあり得る。それぐらい見事な隠匿の仕方だった。

 そんな身を巧みに隠せる賢い盗賊だと判明したからには、討伐しておくべきだろうと、カリは判断することにした。

 

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― 新着の感想 ―
ゴミ清掃ボランティア、カリくん
思考が少し物騒ではあるけど、特にしがらみもなく気ままな旅をするのがカリには合ってるんかね まあそんな存在に(未遂だけど)手を出そうとしたっぽい盗賊の運の尽き、ということで
盗賊もカリみたいな野良魔法使いに見つかるとか運のない
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