53話
頭部に魔法を食らって、ベティは廊下に倒れた。
カリは、すぐに我に返り、倒れたベティに駆け寄った。
ベティの頭は左半分が吹き飛んでいて、その内容物が零れ出そうになっていた。
「くっ。間に合うか?」
カリは、極限まで圧縮していた魔央を生かし、最大威力の魔法でベティの怪我を治そうと試みた。
ベティの失われた頭部は、カリの魔法による治癒を受けて、みるみるうちに元の状態に復元された。
これで見た目は元通りになった。
しかしカリは、ベティの見開かれた瞳に感情が浮かんでいないことに気付く。そして呼吸をしていないことも。
「まさか」
カリは、ベティの平らな胸に顔を置き、耳で彼女の鼓動を確認する。
全くの無音。
心臓の音も、肺が膨らむ呼吸音もない。
「いや、治ったはずだ!」
カリは、再びベティを治そうと魔法を使った。心臓を動かし、呼吸するようにと願いながら。
その魔法は効果を発揮した。
ベティの心臓は鼓動を始め、呼吸も行い始めた。
しかし、カリの魔央の圏外にベティの体が位置すると、途端に心臓も呼吸も止まってしまう。
いやそもそも、鼓動や呼吸を再開しても、ベティの目に意識の光は戻っていない。
ここまでやって、カリは理解するしかなかった。
「ベティは死んだ。僕の魔法じゃ生き返らない」
魔法は願えば叶うのならば、魔法で死人を生き返らせる方法はあるかもしれず、いまのカリには死人を生き返らせる願い方を知らないだけかもしれない。
だがどちらにせよ、ここでカリがベティを生き返らせることが出来ないことは、曲げようのない事実だった。
カリは、ベティが死んだという受け入れがたい事実を納得しようと努力しながら、廊下の先から魔法を放ってきた人物が誰かを知るために目を向ける。
そこには、カリが見た記憶のある、カリとベティよりも幼い子供がいた。
「最初に入った部屋で寝ていた子供か。ベティが幼いから見逃すって判断した結果がこうなるなんて」
ベティのお陰で生き延びた子供が、アパルパフ家全員の殺害者であるベティを魔法で殺した。
現実の皮肉さに、カリは笑い出したい気持ちになる。
「ふふっ。虐殺を生き延びた子が復讐を果たす。ベティもあの子も、同じってわけだ」
カリは、最後にもう一度ベティに生命反応がないことを確認してから、この屋敷で唯一の生き残りである幼児に向き直った。
その幼児の目は、少し前ののベティと同じように、復讐に燃える感情に満ちていた。
「みんなをかえせ!」
幼児は成長途上の喉を精一杯振るわせて咆哮し、カリに魔法を放ってきた。先ほどベティを殺したものと同じ魔法だった。
成功体験からの選択か、それともこの魔法しか使えないのか。
どちらにせよ、魔法で攻撃してきたからには、あの幼児はもうカリが仕留める敵でしかなくなった。
「せめて、苦しまないように殺してやる」
カリは手を掲げ、魔法を行使した。
幼児が放った魔法はカリに至る前に、吹き飛ばされたロウソクの火のような呆気なさで消えた。
カリは続けて魔法を行使。目に見えないほどの速さで魔法で生み出された小石が飛び、幼児の頭部へ。
幼児は、また魔法を放とうとしていたようだったが、それより先にその頭部が高速で移動してきた小石によって吹き飛ばされた。頭部の上半分を丸々失って、幼児は絶命した。
「ふぅ。結局、この屋敷の中にいた全員を殺すことになったな」
すっかりと静かになった屋敷の中で、カリはどうしようかと考える。
この場所にいる理由は、ベティが復讐を望んだから。
そしてベティは復讐を果たし、そしてベティ自身も命を落とした。
だからカリは、この屋敷に居る理由がなくなってしまった。
しかし、用がなくなったからと、すんなり帰るのも気が乗らない。
「多少の金銭や宝石を貰っていこうかな。旅暮らしには必要だろうし」
カリは、自身の魔央の展開範囲で屋敷全体を包めるぐらいまで、自身の魔央の圧縮を緩める。
そうやって広げた魔央の感覚を通して、屋敷のどこに金銭や宝石があるかを把握する。
「当主の部屋の中に、隠し金庫があるみたいだ。そこから拝借しようか」
カリは魔法合戦でボロボロな部屋に戻ると、隠し金庫がある壁掛け絵画の前に立つ。
絵画は壁から外れるようになってなく、その内側にあるはずの隠し金庫を露出させることすら難しい様子だ。
本来なら、ここから金庫を開けるために、あれやこれやと手順を踏まないといけないのだろう。
しかしカリは、自身の魔央を金庫の中に繋げると、その中身を瞬間移動で手元に呼び寄せた。
「金貨十枚と小粒の宝石が詰まった革袋一つ。これぐらいなら、盗んでもバレはしないだろう」
カリは収集したものを懐に入れると、廊下に出てベティの遺体を担ぎ上げた。そして瞬間移動で、屋敷の外――いや町の外へと出た。
それから更に人が近寄らないであろう場所まで瞬間移動すると、その場所でベティの遺体を魔法で燃やして灰にした。
その後でカリは、ベティの灰を魔法で生みだした風に流していく。
「開拓村の人たちのために復讐を遂げたんだ。死んだ者が向かう先で、その皆に褒めてもらうといいよ」
全ての灰が風に乗って消えたのを確認してから、カリは宿に残した荷物を回収するため、もう一度瞬間移動で町の中に戻った。




