表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/86

50話

 ベティが復讐で貴族一家を全滅させると決意した、その日の夜中。

 すっかりと住民たちが寝入ってしまっている中を、カリとベティは移動していく。

 警邏の戦士が町中の道を巡回しているが、二人はそれに見つからないように貴族の屋敷――アパルパフ家の住処がある町中の壁へと近づく。

 貴族、すなわち魔法使いの屋敷を囲う壁ではあるが、普通の石材で組み上げられた壁だった。

 この場所に着いて、カリが最初に感じたのは、アパルパフ家の人たちが持つ魔央について。

 屋敷の至る部屋から外へと展開される形で、それぞれの魔央が存在している。そして、それらの魔央は大きさがバラバラにもかかわらず、圧縮具合――魔央が圧縮された際の濃度といえるものが、どれも一定だった。

 この、魔央の圧縮濃度が一定な点に、カリは強い疑問を抱いた。

 魔央を圧縮する技術によって、それぞれの魔法使いの魔央の圧縮濃度に差がでると、カリは認識していた。

 事実、カリとベティでは、カリが限界まで魔王を圧縮できるが、ベティはまだまだ圧縮できる余地を残している。その技術の差が、魔王の圧縮濃度の差となって現れる。

 しかしアパルパフ家の魔法使い全員の魔央の圧縮濃度は、魔王の展開範囲に差があるにもかかわらず、判を押したように一定だ。そして、この圧縮濃度は、開拓村に来た徴税官が展開していた魔央も同じだったと、カリは思い出した。

 この圧縮濃度について、カリはとても奇妙に感じた。


(アパルパフ家だけでなく、もしかして他の貴族たちも、この圧縮濃度にしているとか?)


 疑問は残るが、今は屋敷に侵入することが先決だと、カリは意識を切り替える。

 カリはベティの手を取ると、外壁の内側へと、魔法で瞬間移動した。

 壁の内側の光景は、芝生と植え込みで作られた庭園が広がっていた。その庭園の先に、アパルパフ家の面々が寝ているであろう、白亜の屋敷がある。

 庭園に、巡回して安全を司る守衛のような存在は確認できない。

 どうやら、壁に囲われている貴族という魔法使いの住処に不埒者が入ってくるとは、アパルパフ家は考えなかったのだろう。

 カリはベティに肩を寄せて、彼女の耳元に口を寄せて小声を放つ。


「屋敷に散らばって寝てる。先ず誰を狙う?」


 ベティは真似して、カリの耳に口を寄せて答える。


「当主を一番最初にしたいわ。居場所分かる?」

「残念だけど、ここから僕が自分の魔央を広げて感じ取れるのは、ぞれぞれの魔央の大きさぐらいだよ。その魔央のどれが当主かとかは分からない」

「じゃあ、一番大きな魔央の持ち主を狙うわ」


 きっとそれが当主だろうというのが、ベティの見解だった。

 それならと、カリは屋敷の一室に目を向ける。その部屋から出ている魔法使いの魔央が、他のものより一回り大きい。


「あの部屋の主の魔央が邪魔で、直接中に瞬間移動はできない。その魔央の範囲ギリギリまで移動してから、自力で移動するしかない」

「分かったわ。あ、でも少し待って。いま出来る限り魔央の範囲を圧縮するから」


 ベティは目をつぶって集中すると、周囲に展開していた彼女の魔央の範囲を狭めていく。

 それならとカリは、ベティと同じ程度まで魔央を圧縮しつつ、移動先へと魔央の一端を伸ばしていく。

 やがてベティの準備が整ったので、カリはベティと手を繋いで瞬間移動した。

 移動した先で、二人は狙いを付けた部屋のバルコニーへと顔を向ける。


「魔法で飛んで、部屋に突入するよ」

「わかっているわ」


 二人は魔法で地面から飛び上がると、部屋のバルコニーに足を着けた。

 そこですかさず、ベティは魔法を使ってバルコニーと部屋を隔てる窓を開錠して開いた。

 流入する外気ではためく薄手のカーテンを、カリとベティは潜り抜けて、部屋に侵入した。

 ベティは部屋の主を殺すために、一目散へベッドへと足を向ける。

 一方でカリは、他に人が居ないかを確認するために、周囲に目を向ける。

 部屋の中には、天蓋付きの大きなベッドの他に、何十着も入りそうな大きな衣装箪笥、真新しい机と筆記具、椅子の上で眠る女性使用人。

 カリは使用人の姿を認めた瞬間に、魔法で使用人を翌朝まで何があっても目覚めないほどの深い眠りへと落とした。

 これで一安心だと安堵して、再び部屋の中を見回して、あるものを見つけた。

 それは馬を模したロッキングチェア。それも、十歳のカリがギリギリ乗れるかという、小さいもの。

 明らかに子供用の玩具に、カリはこの部屋の主が当主でないことを直感的に理解した。

 カリが視線をベッドの方へ向けると、ベティが天蓋の布を捲った姿で動かなくなっていた。

 カリが移動してベッドの中を確認すると、ベティよりも若いと分かる子供がすうすうと寝息を立ててていた。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
最初に狙う相手が大人であれば躊躇ったりしなかったんでしょうけどねえ 無防備に寝る幼子を手に掛ける事が出来るのかどうか
さあ心変わりするのか、修羅の道におちるのか。 8歳の少女にそんな道を歩んで欲しくはないが少ない経験はそうするしかないと思い込みそう。 主人公はどうでも良いと思ってそうだしね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ