49話
町にいる貴族のことを知るために、住人に話を聞いて回ることにした。
カリとベティの見た目が旅人風なことを生かし、この町に移住するための下調べと理由を騙りながらだ。
「町の貴族? この町を治めてくださっている、アパルパフ家の方々のことね。そうね、普通の御貴族様よ」
「どこに住んでいるのかって。そりゃあもちろん、町中に聳え立つ大きな壁に囲まれた屋敷の中さ」
「アパルパフ家の町でどう暮らしているか? いやいや、御貴族様は御貴族様と交流するだけで、住民のような下々には拘わらないからな。よくわからん」
「税に関しては、国が決めた通りで、追加で取られるようなことはないな。その点でも、いい御貴族様さ」
「一年に一度、新年の日にお顔を見せてくださるの。たしか今は、先代夫婦、当代夫婦、そしてお子様四人と屋敷でお暮しになっているわ」
「この付近の村々から税を集める徴税官様は、当代様のご兄弟だったはずだ。徴税官様がご結婚されたとかお子様がいらっしゃるという話は、聞いたことがないな」
話を聞いて情報を集めていく中で、カリはアパルパフという名前だという貴族に対して悪印象を持てなくなった。
休憩のために入った食堂にて、食事をしながら、カリはベティに話しかける。
「話を聞く分じゃ、良い貴族らしいよ。どうする?」
カリが言外に復讐を遂げるのかと問うと、ベティは睨んだ。
「当たり前でしょ。無残に殺された、お父さまや村の皆の仇なのよ。どんな人でも、復讐を止める気はないわ」
頑なな態度に、カリは思いとどまるよう説得することを諦めた。
「それで復讐するにしても、狙う先は誰にするの。当代夫婦だけにするのか、先代も含めるのか、もしくは子供まで一家惨殺にするのか」
カリが具体的なやり方に言及すると、ベティの心に迷いが浮かんだ。
「開拓村を滅ぼす決定をしたのは当代夫婦だろうし。先代夫婦も、その決定を止めなかったので同罪。だから彼ら彼女らを殺すことは確定よ」
「子供に関しては?」
「それは、年齢を見て判断するわ」
「年齢で?」
「自分で判断できる年齢なら殺すわ。でもそうじゃないのなら――」
殺すか殺さないか迷っている様子で、ベティは明言を避けるために目を伏せる。
しかしカリは、あえて言わせるように、問いかける。
「僕の考えとしては、復讐するのなら子供も全員殺すべきだと思うけどね。幼い子を殺すのは可哀想とか、親の言葉を子供が止められるはずがないと同情するとかしないでね」
「カリって、意外と残酷なのね」
「残酷っていうより、現実的な話さ。だって殺さなかったら、復讐に来るかもしれないでしょ。現に、開拓村を全滅することができなかったから、こうしてベティという復讐者が生まれているんだし」
「後々のために、子供も殺せってこと?」
「僕の考えとしてはね。でもまあ、子供を殺さなくても構わなくもあるよ」
「なによ。どっちなのよ」
「貴族を殺したら、他の貴族に狙われることになるだろうからさ。貴族を殺せる力を持つ、野にいる魔法使い。貴族にとって、これほど怖い存在はいない。だから全勢力でもって、殺しに来るだろうなって」
今後永遠に貴族たちから狙われるという予測を聞いて、ベティは顔に不満の表情を浮かべた。
「貴族たちに追いかけ回されないよう、復讐をあきらめて大人しくしていろって言うの?」
「違うよ。やるからには、覚悟をもってやれって言いたいのさ。家族の復讐を終えても、それでベティの人生は終わりじゃないって理解した上でね」
カリは説教のようなことを口にした後で、自分が魔法使いになった日のことを思う。
カリは強大な力を得たことで、村人たちの存在がちっぽけに感じられ、今まで受けた酷い仕打ちを棚上げするぐらいの心の余裕を得た。
しかしあのとき、迫害に対する復讐心を燃え上がらせて、村人たちに魔法で仕返しをやっていたらどうなっていたのだろうか。
実際に嫌がらせをしてきた村人たちを魔法で懲らしめ、村人たちがそれで大人しく成れば平和に暮らせただろう。
しかし村人たちが結託してカリを実力で排除しようと動いたら、きっと徴税官ではなくカリが開拓村を滅ぼした犯人になっていたことだろう。
そうして誰も居なくなった開拓村で一人で暮らしたか、はたまた村を捨てて今と同じような旅暮らしを決断したのか。
カリが有り得た現実を想像している間に、ベティは復讐先をどこまで含めるかの決断を下した。
「これは復讐なんだから、全員殺すわ。それが正しいはずだもの」
ベティは吹っ切れたと、顔色を明るくして食事を再開する。
その姿を見て、カリは本当に理解しているのだろうかと、疑いの気持ちが湧く。
ベティは魔法使いになったとはいえ、八歳だ。
これから先のことについて、本当に想像が及んでいるかは怪しいと、カリは考える。
しかしカリは、ベティが決めたことについて、あれこれいう気にはならない。
なにせカリも、ベティより幼い頃から、村の戦士になることを目標に魔術の練習を頑張ってきた。そしてその頃、横から無理だとか止めろとか言われると、腹立たしく思った記憶がある。
だからカリは、ベティが本心からそう決めたのならと決断を尊重し、これから先は翻意を促すような真似はしないと決めた。




