47話
次の町に、徴税官と関係のある貴族がいるかもしれない。
そう予想してから、カリとベティは街道を外れた場所に移動して、ベティの魔央を圧縮する特訓を行うことにした。
「徴税官が展開していた魔央を貫けるぐらいの魔法が使えないと、危険だからね」
カリに言われて、ベティは自身の魔央を圧縮するべく練習を繰り返していく。
しかし一日二日では、ベティは魔央を圧縮することができなかった。
「なんで、カリはあっさりと出来ているのに!」
ベティが苛立ちから声を荒げるが、カリは慰めることはしない。
「開拓村の出来事なんて忘れて、貴族と関係のない場所で暮らすことを選択すれば、魔央を圧縮する技術を身に着ける必要はないけど?」
「お父さまや村の皆を殺された恨みを忘れろっていうの!」
「恨んだまま、復讐することだけを諦めるって選択もあるよ?」
「そんな選択はしないわ!」
ベティは言い返し、練習に戻る。
その諦めずに練習を繰り返す姿に、カリは呆れの気持ちが湧く。
カリは魔法使いになったとき、魔法という強大な力を手に入れたことで、それまで開拓村の人たちから受けた酷い仕打ちに対しての恨みが矮小な物に変わったように感じた。それこそ、今すぐに仕返しするのではなく、次に迷惑をかけられたら反撃しようと思えるぐらいに。
そんな風に自分自身が受けた屈辱でも取るに足りないと感じ方が変わった。
こうした心情変化の経験からカリは、ベティが魔法使いになってからも親族や顔見知りを殺された恨みを持ち続けられていることが、信じられずにいる。
死んだ他人のために命懸けで貴族に復讐しようだなんて、馬鹿げていると感じてしまう。
(でも生い立ちを考えるのなら、僕よりもベティの考え方が真っ当なんだろうけどね)
カリは、自身の家庭環境に問題があった自覚がある。その家庭環境から、自身の物事に対する認識が普通と違っているという自覚もある。
そしてベティの復讐心こそが一般的だろうと予想がつくからこそ、カリは彼女の対抗心を煽るような言い方で練習に向わせているのだ。
ベティの訓練は日数をかけて続けられた。
訓練は実を結び始め、徐々にベティは魔央を圧縮することができるようになってきた。
しかし、まだまだ圧縮率が低いため、カリは駄目だしをする。
「その魔法じゃ、徴税官を倒せないよ。証明のため、僕に魔法を撃ってみなよ」
「そう言ったからには、覚悟することね!」
ベティが火の魔法を放ち、カリは徴税官のものと同程度まで自身の魔央を圧縮する。
火の魔法がカリを包んだ。しかし、カリが自身の魔央内に軽く魔法の風を吹かせただけで、その火の魔法はカリから逸れてしまった。
「ほらね。もっと圧縮して、僕が本気で魔法を使って止めるぐらいにしないと、仇の貴族に魔法は当てられないと思うよ」
「むぅ! 分かったわよ!」
ベティは更に魔央を圧縮するべく訓練に戻る。
こうして二人が一ヶ所に留まって騒がしくしていれば、呼んでもいない存在が近づいてくるもの。
例えば、腹を空かせた肉食獣だったり、人を見かけたら襲ってくる魔物だったりだ。
そんな存在たちの登場は、ベティの訓練の邪魔になる。
だからカリは、魔央の範囲を少しずつ広げる魔法を使いつつ、ベティに気付かせないように密かに魔法でそれらを駆除することにしていた。それで出た死体は、魔法で遠くに吹っ飛ばすことで、証拠隠滅をしておくことも忘れない。
そうしたカリの心配りもあって、この場所で十日を過ごした後に、ベティは徴税官を倒せる程度まで魔央を圧縮することが出来るようになった。
「これで良いわね! じゃあ、件の町へいくわよ!」
目標を達成して気分が高揚している調子で、ベティが宣言する。
カリは唯々諾々と従いつつ、この十日の間に情勢が変化しているかもしれないなと危惧を抱いていた。




