44話
結局、カリとベティは宿に泊まることにした。
兄妹と思われたこともあって、同じ部屋で寝泊りすることになった。
とはいえ、カリは十歳でベティは八歳。
大人な関係に進むはずもなく、二人はベッドの上で熟睡して、翌朝に目覚めた。
宿屋の食堂で朝食を取りながら、ベティがカリに話しかける。
「ベッドの寝心地、どうだった?」
「ぐっすり眠れたけど、それが柔らかい寝床だったからなのか、それとも安全な場所だからかは判断が付かないかな」
「ええー。よく眠れたのは、絶対ベッドのお陰だって」
会話をしながら朝食を取り終えて、二人は宿を出て、村の外へ通じる道を歩いていく。
「それで次はどこに行くの?」
「僕らが入ってきた場所から出て、その先へ行くよ。出入口を守っていた戦士の口ぶりからすると、そっちの方向に村があった後で、大きな町があるみたいだからね」
「村があるって言っていた覚えはないけど?」
「この村に来るよりも反対側の町の方が、って言っていただろ。なら、この村とその町の間に、僕らが住んでいると勘違いされた村があるはずでしょ」
二人が歩きながら会話をしているように、周囲にも似たようなことをしている人たちがいた。
その人たちが喋っている内容が、二人の耳に入ってくる。
「徴税官様が戦士を連れて行った村、どうなったんだろうな」
「あれだけの手勢を連れてのことだ。きっと全滅にされただろうさ」
「魔法使いを騙った人物が現れたって噂を出したってことだが、馬鹿な真似をしたもんだ」
カリとベティは顔を見合わせると、耳に入ってきた雑談をしていた人たちに近づいた。
「あの、いま魔法使いって聞こえたんですけど」
「どういうお話か、教えてもらってもいいかしら?」
二人が小さな子供だと見て、雑談をしていた人たちが声を潜めながら会話内容を教えてくれた。
「徴税官様がな多数の戦士を連れて、ある村に討伐に向かったのさ。その村は、魔法使いがいるって伝えてきた村なんだ」
「魔法使いがいるって初めて聞くけど、それってそんなに悪い事なの?」
「俺らもつい先日まで知らなかったんだがな。この村に立ち寄った徴税官様の配下が教えてくれたところによると、王や貴族が住むお膝元の街だと、子供が冗談でも魔法使いを名乗ると罰せられるらしい。それほど魔法使いを騙ることは許されないことなんだとさ」
「村が全滅しただろうって言ってたよね。それほどの罰なの?」
「これも、その配下の人が教えてくれたんだが。偽の魔法使いに毒された人も殺害対象なのだとさ。それに魔法使いが現れた場所が開拓村で、そこは重要な土地じゃないから、徴税官様は詳しい取り調べをせずに真っ新にする気なのだと」
カリとベティは、教えてくれた人たちにお礼を言って別れた。
次の目的地へと歩みを進めつつ、二人は小声で意見を交換し合う。
「真帆使いを名乗ったり、魔法使いだと知られると、とても危険そうだね」
「そうね。下手に人の集まる場所で見破られると、関係ない人達に迷惑がかかりそうだわ」
「他の貴族を引き付ける撒き餌に使えそうではあるけど?」
「私が復讐したいのはその通りよ。でも、無実の人まで犠牲にする気はないわ。狙いは、あの徴税官と繋がっていた貴族だもの」
魔法使いとバレないようにしようと、二人は同意した。
「バレないようにするためには、魔央を広げたままなのはダメかもね」
「カリが前に見せてくれた、魔央の範囲を圧縮する方法ね。あれをすれば、見破れないの?」
「こちらの魔央が、他の魔法使いの魔央に触れなくなる分、知られる確率は減るんじゃないかなってね。本当にそうかは、検証が必要だけどね」
その検証を行うためにも、この村の外に出るべきだと結論を出す。
二人は、不自然にならない程度に急いで歩みを進ませて、昨日入ってきた場所から外にでた。
街道の上を歩いて進み、周辺に人影がない事、二人に注意を向けている人がいないことを確認すると、瞬間移動で街道を外れた場所へと移動した。
魔央を圧縮した状態を留め慣れる訓練をするためと、魔央を広く展開する方と圧縮展開する方で違いがあるかを検証するために。




