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41話

 旅の用意が整った。

 カリは、関節部に補強が入った服を着て、革製の靴を履き、布のマントを背にまとった。そして、徴税官が連れてきた甲冑戦士の鎧の一部を魔法で形を整えて作った、胸鎧を体に装備。甲冑戦士の短剣を腰に吊った。そして背嚢には、手鍋や日持ちする食料を入れた。

 ベティは、衣服についてはカリと同じだが、鎧も武器も背嚢もない。その代わり、帳面や書きつけ小物と小銭が入った肩掛け鞄を持った。

 この二人を傍目から見ると、戦士見習いの男子と、それに守られる少女といった風だ。

 カリは背嚢を背負ってから、ベティに顔を向ける。


「これから二人で旅をするわけだけど、僕は独り立ちで村から出た男子で、ベティは家族と折り合いが悪くて僕に勝手についてきた子ってことにするから」

「私たち顔が似てないし、兄妹じゃなくて名前で呼び合うでしょうから、本当の兄妹ではなく従兄妹ってことにしましょう」


 軽く設定を決めたところで、二人は開拓村を出た。

 これで開拓村は無人になり、廃村となった。

 カリが先頭を歩き、ベティがそれに続く。

 二人は軽快に歩いて、開拓村に唯一続く街道を進んでいく。

 子供二人旅となると、安全面と体力が心配になる。

 しかしカリとベティは、魔法使いなので野生動物や魔物に負けない戦闘力があるし、体力に関しても魔法でどうにかなってしまうので心配は要らない。

 それに二人が歩いて移動しているのだって、街道を歩いて移動するという体験を楽しんでいるというだけ。

 歩き移動に飽きたら、カリが主導して魔法で瞬間移動する気でいるのだ。


「道の上に轍が残っているよ。きっと、村から出ていった人達が乗った荷馬車のものだろうね」

「昨日一日で、どこまで進んだかしら?」

「さてね。空に飛びあがって周囲を見回してみたら、意外と近くにいるかもね」

「確認してみる?」

「いや、いいよ。目的地もない気楽な旅なんだから、ゆっくりいこう」


 カリはのんびりとした気持ちで、周囲の景色に目を向けながら、ゆったりと歩いていく。

 ベティは、早く貴族に復讐したいという気持ちを押さえつけて、カリと歩調を合わせて移動していく。

 そうして移動しながら歩いていると、カリがある地点で指を横に向けた。


「あそこに野生の野菜があるけど、収穫しておく?」


 ベティは、カリが示す方へ眼を向けるも、平原に雑草が茂っているようにしか見えなかった。


「どこにあるか、よくわからないわ」

「ちょっと取ってくるよ。待ってて」


 カリが道を外れて藪に入り、しばらく収穫作業をしてから、戻ってきた。その手に、身が細い根野菜と、十個ほどの黄色い豆、顔を隠せるほど大きな葉を五枚を掴んだ状態で。


「これらが野生の野菜なの?」

「どれも煮て食べるものだよ。僕らは魔法が使えるから、簡単に調理できる」


 カリが魔法でお湯を出し、全ての野生野菜を煮て食べられるようにした。

 ベティが口にすると、根野菜はカブの根と葉っぱで、豆はホクホクとした口当たりで、大きな葉っぱは青臭さい苦みがあった。


「この大きな葉っぱは、苦くてキライ」

「じゃあ他二つは渡して、葉っぱは僕が食べるよ」


 分けた食べ物を口にしながら、二人は道歩きを再開する。


「食べ歩きなんて、初めての経験だわ」

「言われてみれば、僕も初めてかも。道の上で食べた経験はあるけどね」

「それって、村の中でってことよね?」

「そうそう。食べ物を家に持ち帰らせないために、その場で食べろって言われてね」


 会話をしながら、道草を収穫して食べながら、二人は楽しく道を進んでいく。

 こうして二人は言葉もなく、今日ぐらいは道を歩いて進んでみようという共通認識を抱いた。

 やがて日が暮れ始め、普通なら野営場所を探す必要がでてくる時間帯になった。

 しかし二人は、魔法使い。

 魔法で治すから体力切れはないし、魔法で夜目が利くようにできるため、夜間に旅を止める必要がない。

 日が地平線の下に潜り、完全な夜がきた。

 二人は、真っ暗な平原の中、街道にそって歩き続ける。

 歩くこと自体は問題ない者の、暗くなって色調が乏しくなったことで、周囲を観察する楽しみが減った。

 楽しみが減ったことで、歩く気力も萎えてくる。


「もうちょっと歩いたら、瞬間移動でズルしようか」

「暗い中を歩いても面白くないし、仕方がないでしょ」


 どこから瞬間移動を始めようかと考えながら、二人は歩いていく。

 もうそろそろ良いかなと二人そろって思い始めたところで、街道上に異変を見つけた。


「あれは、布袋だよね?」

「そうね。うちの倉庫に入れていた、作物を入れていた袋に似ているわ」


 二人が布袋に近づくと、その布地が破れていて、中の作物が見えていた。

 そんな布袋は、一つだけでなく、先にも二つ落ちていた。


「荷馬車から落ちた、にしては落ちた数が多いし、回収もされていない。それに袋の中の作物の幾つかには、明らかに齧った跡があるね」

「何かに襲われたから、これを囮にして逃げたって感じじゃないかしら?」


 二人はそれぞれの魔央で、周囲を再確認する。

 カリは村一つ分を超える範囲を、ベティは村半分の範囲を、魔央でもって探れる。

 しかし二人とも、荷馬車を襲ったであろう何かの姿を、魔央を通じて把握することはできなかった。


「この近辺にいないとなると、馬車を追いかけていったのかな?」

「袋の作物は、口が合わなかったのかしら?」


 カリとベティは首を傾げ合ってから、落ちている袋を回収することにした。

 破れた布地は魔法で修復し、齧った跡のある作物は捨て、無事な作物だけを残した。

 カリが袋を二つベティが一つ持つと、カリが主体とした魔法の瞬間移動で道の先へと素早く移動していくことにした。

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― 新着の感想 ―
あらあら、逃げた村人達の安否が危ういみたいですねー 何に襲われたのやら
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