39話
早速、ベティは魔法を使って遊び始めた。
いま開拓村の中は、カリとベティ以外は無人で、作物も収穫し終わったので畑に何もない状態。それになにより、もうこの村は廃村が確定している。
そんな状態なので、魔法の威力を遠慮する必要がないとばかりに、ベティは自分ができるありとあらゆる魔法を試している。
「あはははっ。すごいすごい!」
土が材料の巨人を何体も生み出すと、それを標的に魔法攻撃を当てる。
巨人は、火で燃え爆ぜ、高圧の水で削られ、上空からの風で圧し潰され、石の槍で貫かれ、魔力の拳で殴り壊される。
そんな光景を、カリは空き家から拝借した椅子に座りながら観察している。
カリはベティの魔法行使を目で見ながら、自身の魔央を通して感知も行う。
その際に分かったのは、ベティの魔央の広さは開拓村の半分ほどであることと、ベティがどんな魔法を使うかをカリが魔央を通して察知できるという点だった。
「……氷で足元を凍らせてから、火で爆発させる」
カリが口にした予想の通りに、ベティは魔法を行使した。
こうしてカリが事前に察知できる仕組みは、ベティの魔央をカリの魔央が覆い被さっているから。
例えば、ベティが水の魔法を発動しようとすると、ベティの魔央の中にある魔力が水を作ろうと動き始める。その魔力は、カリの魔央も触れているものでもある。だから魔力が水に変わろうと動くと、カリの魔央は魔力が水に変わろうとしていると察知することができる。
これは逆も言える。
カリがベティの魔央の範囲内にある空間で魔法を使おうとすれば、ベティはその魔法発動を事前に察知することが可能だ。
そのため、カリがベティに魔法の行使を悟らせないようにするのなら、カリの魔央の内でありながらもベティの魔央の外の空間で魔法を使う必要がでてくる。
そう考えついた後で、カリは別の方法があるんじゃないかと予想した。
「徴税官と戦ったとき、僕は徴税官に近い空間に魔法を出現させることができなかった」
徴税官は自身の周りを、濃い魔央の魔力で囲んでいた。その濃い魔力は、当初のカリの魔法を受け付けない壁としても機能していた。
それに対抗するために、カリは自身の魔央の範囲を圧縮することで濃い魔央の魔力を実現させた。
その事実を考えると、濃い魔央の魔力の内に取り込まれると、薄い魔央の魔力は魔法を使えなくなるのではないか。
カリはそう考え、少し実験してみることにした。
やることは単純だ。
ベティの魔央内の空間が魔法に変じようとした際、カリがその空間に圧縮した自身の魔央を生み出すだけ。
幸いなことに、ベティは魔法を連発しているので、試す機会はすぐにやってきた。
「タイミングを計って、いま!」
ベティが空中に魔法の滝を生み出そうとした瞬間を狙い、その滝が生まれるはずだった空間に、カリは自身の魔央を圧縮して出現させてみた。
その瞬間、不思議なことが起こった。
魔法で滝が作られかけたが、カリの圧縮魔央に覆われた瞬間、すぐに元の状態に戻ってしまった。それに加えて、その空間にあったベティの魔央が、カリの圧縮魔央に抑え込まれた。
その抑え込んだ/抑え込まれた感覚が魔央を通じて、カリとベティに同時に起こる。
カリは狙い通りの現象に納得し、ベティは楽しく魔法を使っていたのを邪魔されて怒った。
「ちょっと、カリ! 変な邪魔しないでよね!」
「いや、この実験はもの凄い重要なことだよ。だって、こうしたら、ベティは魔法を使えないってことなんだから」
カリは、開拓村を覆い尽くせるほどに広がっていた自身の魔央を、ベティの魔央を覆えるギリギリの広さまで圧縮した。
するとベティは、ベティの魔央がカリの圧縮魔央に抑え込まれ、どう念じても魔法が使えない状態になったことを悟った。
「カリ! また変なことをして!」
「変なことじゃない。これと同じことを、僕らを狙う魔法使いたちがやってくるかもしれないだろ。対応策を練習しないとダメだ」
「僕ら、って。魔法使いに狙われているのって、カリだけでしょ?」
何を言っているのと言いたげのベティの態度に、カリは残念ながらと首を横に振る。
「あの徴税官は、貴族でない魔法使いのことを、悪の魔法使いと言っていた。なら僕だけでなく、魔法使いになったベティも、他の貴族たちに狙われる存在であるってことだろ」
「ふーん、なるほどね。まあいいわ。遅かれ早かれだし」
「遅かれ早かれって、なんのことだ?」
ベティが貴族に狙われる理由が既にあるのかと、カリは疑問を抱く。
そしてベティは、あっけらかんと理由を口にした。
「だって私、お父さまや村人たちを殺された復讐をするつもりだもの。復讐で貴族を殺したら、他の貴族に狙われることになるでしょう?」
「復讐って、徴税官は僕が殺したけど?」
「私はお父さまから教わって知っているけど、徴税官なんて貴族の使い走りなの。この村を滅ぼすって決定は、徴税官一人じゃできないの」
「つまりベティは、徴税官に開拓村を滅ぼせって命令したであろう、その上の貴族に復讐するってこと?」
「その通りよ。カリが徴税官を殺せたんだから、魔法使いになった私にだって貴族を殺せるはずだわ」
「つまりベティが魔法使いにしてと言い出したのは、その復讐を果たすために必要と思ったからだったわけだ」
「そうよ。いけない?」
カリはここで、同じ魔法使いであっても、ベティとカリの精神には違いがあるのだと理解した。
カリは、魔法使いという強大な力を手に入れた瞬間、今まで酷いことをしてきた村人たちへ抱いていた復讐心が大きく減じた。少し魔法を使えば殺せるような相手に対して、復讐心という怒りの感情が持続できなかったからだ。
これから先の人生で貴族に狙われる生活が待っていることを知っても、降りかかる火の粉を払うことはする気ではいるものの、進んで貴族を排斥しようという気にはなれない。
一方でベティは、魔法使いになっても復讐心を抱けている。むしろ、復讐するのだという強い意志を持っている。
それこそ、狙われる前に襲い掛かかるべきと、貴族たちを打倒する相手と認識している。
この意識の差が、これから先どんな影響を起こすかは、いまのカリとベティには分からないことだった。




