35話
カリは瞬間移動で出現した場所から徴税官に走って近づきながら、徴税官の配下である甲冑戦士に目を向ける。
甲冑戦士たちは武器を振り上げながら、村人の背を追っている。
カリは、徴税官の魔央の範囲から外に出た甲冑戦士数人に狙いを絞り、魔法を発動した。
選択した魔法は、圧縮。
カリがぐっと手を握り込むと、甲冑戦士の頭部が兜ごと潰れた。
仲間が一瞬にして不可解な死に方をしたからか、他の甲冑戦士たちは狼狽えて村人を負う足を止めた。
その直後、甲冑戦士たちは背中を突き飛ばされたように前へ――カリの方向へと吹っ飛んだ。
「この村の住民は皆殺しだ。足を止めるな」
そう命令したのは、徴税官。
甲冑戦士たちは命令に従い、一斉に動き出した。
カリは甲冑戦士を狙って魔法を使おうとするが、そこに徴税官からの魔法が飛んできた。
徴税官の泥のような魔央で作られた火の球が射出され、その魔央から飛び出してカリの元へ。
カリはその火の球を、同じ魔法で消そうとする。
二つの火の球が衝突し、周囲に火の粉を振りまき、そして一つの火の球は健在だった。徴税官が放った方の火の球だ。
「くっ」
カリは魔法で地面を隆起させて、その土壁で火球を防いだ。
この二手にかけてしまった時間で、甲冑戦士たちによって村人に新たな犠牲者が生まれていた。
カリが甲冑戦士に狙いを変更しようとすると、また徴税官が魔法を放ってきた。今度の魔法は、一直線に伸びてくる火炎だった。
火炎が近づいてくるのに合わせ、それが発する熱波もカリに襲い掛かってくる。
カリは魔法で水で壁を作ると、火炎と熱波を防ぐ。しかし、すぐに水の壁は熱されて泡が浮かび始める。突破されるのは時間の問題だ。
「なんで魔法の威力が、僕とあいつで違うんだ」
疑問を口にしながら、カリは瞬間移動で少し遠くへと逃げた。
徴税官の火炎が水の壁を突破し、カリが居た場所をも通過して、その先へと伸びる。そして逃げ走っていた村人に襲い掛かる。
あの火炎は、税を誤魔化した男や村長に徴税官が使った魔法の火とは威力が別物で、一秒も経たずに炎の内に入れた村人を黒い炭に変えた。
カリは少し離れた場所からそれを見て、口惜しい気持ちを抱く。
しかし場所を離したことで、甲冑戦士たちの動向を一目で把握することができた。
「ほぼ全員が、徴税官の魔央から外れている今なら」
カリは魔法を発動し、一気に甲冑戦士を駆逐することにした。
カリは魔法で不可視の刃を空中に作り上げ、それを甲冑戦士全員へと向けて放った。その魔法の刃は甲冑を斬り裂いて致命傷を与える。
しかし甲冑戦士を全滅させることは出来なかった。
徴税官がカリの狙いを察知して、身近な甲冑戦士を火の壁を作る魔法で守ったからだ。
カリは魔法の刃が火の壁で焼却されるのを見て、次の手を考える。
考え込むカリに、やおら徴税官が喋り始めた。
「ふむっ。またぞろ魔法使いを騙る者かと思いきや、今回は本物の魔法使いのようだな。しかも一人きりとは運がいい」
「……どういう意味だ」
カリが思わず質問すると、徴税官が火の球の魔法を放ってきた。
カリは直ぐに水の球を魔法で二つ作り、近づいてくる火の球にぶつけて消化した。
そんな攻防が終わってから、徴税官が再び口を開いた。
「下郎が。下々が貴族に質問するとは、身分を弁えろ。魔法使いになったからと増長するとは」
徴税官は身振りで、守って生き残らせた甲冑戦士に命令を発した。
甲冑戦士たちは、カリの外側を回り込むような形で、逃げた村人たちを追いかけ始める。
カリは、そうはさせないと、魔法を使おうとする。しかし徴税官から火の球が多数発射され、その対応に追われて甲冑戦士の相手ができなくされてしまう。
「下郎。貴族たる我が手にかかって死ぬこと、あの世で誉れとするがいい」
「悪いが、死ぬ気はないんでね!」
カリは色々な魔法を駆使して、どうにか徴税官からの攻撃に耐える。
その攻防の中で、カリは考え続ける。
同じ魔法使いのはずなのに、どうして徴税官の方が魔法の威力が高いのか。
どうして徴税官の魔央は、泥のように密度が高い様子なのか。
そしてカリ自身の魔法の威力を上げるには、どうすればいいのか。
それらの疑問の答えを見つけるために、カリは村人たちを守るという気持ちを消す判断をした。
それでも、ベティを含めた神殿の中に逃げ込めた者だけは助けようと、魔法で神殿の周りに分厚くて高い岩の壁を出現させることだけはやった。




