33話
子供を通じて、カリと他の村人たちの中が良くなる――なんてことは起きなかった。
むしろ大人たちは、子供がカリに惹かれれば惹かれるほどに、カリに対して疑心暗鬼を起こしているようだった。
「子供にカリと仲良くするのは止めろと言っても、聞きやしない」
「カリしか魔法を使えないんだからって、生意気に言い返してきやがって」
「ああも子供が懐いているのは、もしかして魔法なんじゃないか」
こうも大人たちが疑いの目を向ける理由には、魔法使いという未知の相手だからという意識の他に、カリに酷いことをしてきた自覚があるから。
カリは子供たちを利用して大人たちに復讐を企てているのではないか。
そんな風に考えてしまっているのだ。
しかしカリ本人には、そんな積もりは欠片もない。
子供の相手を魔法を使ってやっている理由は、村の出入口を守るという暇な役目の時間つぶしと、魔法の使い方に習熟する練習のためだ。
そも復讐するのならば、カリは直接的に魔法を使って害する方法を選ぶ。
つまり大人たちの心配は、杞憂でしかない。
そんな感じで、村人たちの間でカリに対する認識違いが重なる日常が過ぎていく。
やがて、あと少しで畑の作物を収穫する時期に差し掛かる。
その頃になってようやく、徴税官に手紙を渡しに行った村の戦士が戻ってきた。
カリはその戦士と共に村長宅へ行き、どうしてこんなに日にちが経ったのかの理由を聞くことになった。
「では、道中では何事もなかったが、徴税官様に手紙を渡してから足止めを受けたというわけだな?」
「足止めというか、徴税官の仕事が忙しいので、返信の手紙を書き終わるまで屋敷で待っていてくれて。そう言われて、泊まらされただけで」
「どうして仕事が忙しいか、その理由は聞いたかね?」
「そりゃあ何日も泊まったので、雑談としてなら。この時期は、方々の町村に徴税に出かける準備をするので、その調整で忙しいのだと」
戦士の説明に、村長は眉を寄せる。
「その理由は変だ。徴税官様は貴族で魔法使いだぞ。そんな徴税の準備なんてのは、徴税官様の手下がやるようなことだ。そうやって準備万端整った後で、徴税官様に出張って貰うのが本筋だ」
「じゃあ、理由はなんだと思うんで?」
「考えられるのは、徴税官様がその上役と話し合われていたからだろうな。それなら、徴税官様がご自身で動かれたことに納得がいく」
「徴税官様の上役って、誰なんで?」
「候補は色々ある。徴税官を取りまとめる長。徴税官様の親。徴税官様より爵位が上の貴族。この国の王。予想は立てきれん」
「えっ。そんなに重大事なので?」
「分からん。分からんから、想像するしかないのだ」
深刻そうな村長とは裏腹に、カリの心は平静だ。
カリは魔法使いになり、そして子供たちとの交流を通して魔法の性質を理解しつつあった。
それでカリは、あまりに魔法が何でもできてしまうため万能感を抱き、さらに無自覚に徴税官を同じ魔法使いだからと自身と同格だという考えになっていた。
要するに、徴税官など恐れるに足りずという心持ちになっているから、カリは心配とは無縁の境地でいるわけだった。
「それで村長。徴税官からの手紙って、何が書かれているんです?」
カリが、未開封の手紙を差しながら告げる。
村長は指摘を受けて、開けるのを躊躇いながら、手紙を開く。そして文面に目を向ける。
村長は最初、恐々と文字を目で追っていた。しかし文面を読み進めるに従って、安堵と困惑が半々という気持ちになる。
「手紙の内容をザックリと要約すると、収穫物を全て倉庫に入れておくようにと。収穫時期が過ぎたら徴税に村に来る。それだけの内容だ」
「それって、例年と違いがあるんですか?」
「いや、例年通りで良いようだ。だからこそ、どうして返信を書くのに時間がかかったかが不可解なのだ」
村長が口にした疑問に、カリも戦士もそういえばそうだなと疑問を持った。
「いつも通りでいいのなら、手紙を書く必要もないでしょうし」
「何日も時間をかけたって部分が、よくわからねえな」
手紙の真意を三人で話し合って探っていくが、流石に紙一枚を通して徴税官の思惑まで見通す真似はできなかった。
結局、徴税官が村に来るまで理由は分からないだろうと結論を出し、場を解散させる運びになった。




