30話
村長が諸々の判決を下した日から、カリは戦士として開拓村で働くようになった。
カリの役目は、基本的に村の出入口に一人で立って、野生動物や魔物が入って来ないよう見張ること。
他の戦士たちは何をしているかというと、神官がいなくなって魔術を教える人が必要になり、神殿で子供たちに魔術を教える役目を引き継いでいた。
魔法使いになる方法を知るカリにしてみれば、本音は魔術を教えることを止めさせたい。
しかし魔法使いになってしまったら、どんな障害が振ってくるのかを、カリは理解できていない。
その障害が乗り越えるものなのか否かを知ってからでも、子供たちを魔法使い化させることは遅くないだろうと、カリは考える。
「魔術を学んで使い始めている子たちは、もう遅いんだしね」
貴族が魔法使いである理由は、魔法使いが魔術を学ぶ前の子の魔央に多量の魔力を注入させることで、その魔央を破裂させるのだと予想している。
だから魔術を学んで使えてしまっている、開拓村の子たちはその措置ができない。
カリが魔法使いになった際のように、魔術の使用で硬くなった魔央でも破裂させることは可能だ。しかしその際には、とてつもない激痛が発生する。
そして激痛に負けてしまうと、神官が語って実際にそうなったように、魔央が破裂するより先に体が裂けて死んでしまうことになる。
そんな生きるか死ぬかの方法を、カリはやる気にはならない。最低でも、施術を受ける本人が固い決意の下で魔法使いになると、そう望まない限りは。
「暇な役目ではあるけど、練習にはうってつけでもあるんだよね」
カリは出入口に立ちながら、飛散して周囲に存在するようになった自身の魔央を強く意識する。
カリの魔央は、カリの肉体を中心にして、球状に広がっている。
その広さは、カリが村の出入口に立っていることもあって、村の大半とそれと同じ距離の分だけ目の前の平原を囲っている。もちろん魔央は、地上や空気中だけでなく、地面の下まで存在している。
魔央が周囲に遍在している実感を得たところで、カリはこの魔央を広げるよう意識する。
そう意識を続けて百を数えたところで、ほんの少し、指先一つぶんほどだけ魔央の範囲が広がった。
こうも広がるのに時間がかかる理由を、カリは感覚としてながら理解できていた。
どうやら魔央は、カリが広げようと思い始めた時点から範囲を広げようとし始める。
しかし魔央は、範囲を広げる前段階として、目に見えないほど小さな粉になって空間に遍在する魔央の数を魔法でもって増し始める。
そして十分な数を増やしてから、少しだけ範囲を広げる。あたかも、空間にある魔央の濃度を一定以下にしないよう気を付けているかのように。
そんな仕組みで広がる魔央の範囲。
時間がかかることは欠点ではあるものの、村の出入口で立っているカリにしてみれば、つぶすべき暇な時間は山のようにある。
だからカリは、飽きる事なく魔央の範囲を広げることを繰り返していく。
そんなことを実行中に、カリはあることに気づく。
この魔央には、範囲内に魔物を寄せ付けなくなるという性質があるようなのだ。
カリが広げた魔央に、野生動物や魔物が入ってくることがある。
野生動物は魔央を感知できないようで、他の場所と変わらない生活を送っている。
しかし魔物は、魔央に入ったときから居心地悪そうな様子になり、やがて魔央の範囲から出ていく。
(もし魔物が魔央の範囲に入ることを嫌がる特性があるのなら、魔法使いが全ての町村に一人ずついれば、魔物に脅かされることがなくなるんじゃないだろうか)
でも実際は、この開拓村がそうであったように、魔法使いが村にいるなんてことはない。
この魔央と魔物との関係を、他の魔法使いは知らないのか。知っていて、開拓村なんて場所には居たくないからという理由で住んでいないのか。
果たして真実はどうなのだろうかと考えながら、カリは魔央を広げる試みを続けていった。




