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28話

抜けがあったようで、申し訳ありませんでした。

 カリは村長宅の執務室にて、村長から戦士身分の証明書とカリが母親と絶縁する許可書を手渡された。

 カリはそれらを受け取った後で、改めて村長に向き直った。


「それで僕は魔法使いになったわけですけど、僕って貴族ってことになるんでしょうか?」


 そのあたりの世の中の道理が分からないと尋ねられて、村長は頭を抱えた。


「いや、魔法使いだからと貴族になるわけではない、はずだ。少なくとも、貴族以外の者が貴族に変わったという話は聞いたことがない」

「それは、普通の人から魔法使いが出なかったからでは?」

「いや、魔法使いは度々現れるのだ。正確にいうのなら、魔法使いを騙る人物がな。その偽りが通っている間に、その偽物が貴族になったなんて話はなかった」


 つまり魔法使いなら貴族になるわけではないようだと、カリは納得した。


「ちなみに、その偽物の末路は?」

「魔法使いを騙ったからと、貴族が魔法で成敗したというのが話の流れだな。実際に見たことはない」

「僕は本物の魔法使いですけど、もしかして?」

「そうだな。大っぴらに魔法使いだと言って回れば、真っ先に偽物だと疑われて、貴族の粛清を受ける未来が来るだろう」


 そうなのかと理解してから、カリは先ほど食卓で魔法を見せたのが失敗だったと理解した。


「僕が言わなくても、僕が魔法使いだって話は広まりそうです」

「ん? それはどうしてだね?」

「ベティちゃんが友達に、僕が魔法使いになったと、今まさに言って回っているみたいで」

「どうしてそんなことが分かる――いや、魔法使いだからわかるのだろうな」


 どうしたものかと、村長の悩みが深くなる。

 ベティが言ってしまったからには、もうカリが魔法使いであることを隠すことはできない。

 しかし、この開拓村に魔法使いがいると知られたら、早晩貴族が真偽を確かめにやってくる。いや、真偽を確かめることなく、カリを殺そうとやってくるだろう。

 そうやって頭を悩ませる村長を見て、カリはあることを思いついた。

 先ほどうっかり神官を殺してしまった事実を、カリが魔法使いになった騒動に紛れ込ませることをだ。


「そういえば村長は知っていたんですか? 神官が貴族の手先だってことを」

「神官と貴族が繋がっているということか?」

「そうですよ。神官は人々に魔術を教えることで、貴族以外の人が魔法使いになるのを邪魔しているそうです。あの神官さま本人が、そう語っていました」

「……なんで神官が、君にそんな話をしたんだ?」

「僕が魔法使いになったと知ったときに、そう教えてくれました」


 カリがそこまで言うと、村長は顔色を青く変えた。


「もしかして神官は、神殿にいないのか?」

「はい。神官さまの姿は、神殿にはないですね。恐らく村で見ることもないはずです」


 カリは『殺してしまった』という部分だけ伏せて伝えると、村長は情報を誤解した。


「神官が貴族と繋がっているのなら、君が魔法使いになったことを報せに村の外で出たのかもしれんな」

「そうかもしれませんね。でも今からなら、村長が出した手紙が先に届くかもしれません。もし後に届いたとしても、この村が貴族から罰を受けることは避けられるかもしれませんよ」


 カリが考えついたことを口にすると、村長は納得した。


「たしかに。でも良いのかね。その手紙を送るということは、君の情報を貴族に売るということだぞ。それはつまり、貴族が村にやってきて、君を殺すことになる」

「遅かれ早かれだと思いますよ。もうすぐ徴税の季節じゃないですか。そして徴税官は貴族で魔法使いでしたよね。なら魔法使いになった僕を見つけるはずです」


 カリが魔法使いになって得た、拡散した魔央を通して周囲の状況を把握する超感覚。

 この感覚を、あの徴税官も持っているとしたら、普通の人とは違うカリをすぐに見つけてしまうに違いない。

 少なくともカリが徴税官の立場だったなら、開拓村にいるはずのない魔法使いがいる状況に、安然とはしていられなくなる。


「それに、もしかしたら僕が本物の魔法使いだと分かったら、貴族として迎えてくれるかもしれませんしね」

「なににせよ、先に手紙で報せておくのは悪い手ではないというわけだな」


 村長は深く納得してから、カリへ疑いの目を向ける。


「それにしても君は、昨日の君と比べて、随分と聡明になったように見える。それも魔法使いになった影響かね?」

「うーん、どうでしょう。何時になく頭が冴えている感覚はありますが、体に栄養がちゃんと回っているのが理由じゃないかなと、自分では思ってるんですけど」

「そういえば、今日の君は健康的に太っているな。それも魔法なのかね?」

「魔力を栄養に変える魔法ですよ。この魔法があるからには、魔法使いは食事が必要ないって噂は、本当みたいですよ」


 そんな雑談を終えてから、村長は徴税官へ向けた手紙を書き、それをカリに手渡した。

 カリは手紙を持って、村の出入口にある戦士の詰め所へ。そこで戦士身分になったことを戦士たちに伝えた後で、村長が書いた徴税官への手紙を渡した。

 こういう手紙を運ぶのも、魔術の腕でもって村の外を動き回れる戦士の役目だ。

 手紙の届け先が徴税官ということもあって、戦士の中で一番強い人物が役目を負い、旅の準備をしてから手紙と共に村を出立していった。


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