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17話

 厄介な事態に邪魔される日常を送りつつも、カリは火の攻撃魔術を修めきる道のりを一歩一歩進んでいった。

 そしてあともうちょっとだと終わりが見えてきた頃、カリの身辺である変化が起こった。

 唐突に、村人たちから冷たく扱われるようになったのだ。

 今までもあまり良い扱いではなかったが、それでも小作人の子供としては順当な扱いを受けられていた。

 それが急に悪い方向に変化した。

 今まではカリの姿を見るや手伝いを求めてきたのに、今はカリが手伝いは要らないかと聞いても邪魔だと追い払われるばかり。

 どうして扱いが変わったかという事情も理由も教えてくれない。

 そんな村人たちの態度は、その子供たちにも伝播した。

 子供たちは、カリのことを酷く扱っても良いと学習したようで、村の中で合うと生活魔術を使った嫌がらせをしてくるようになった。

 一番多いのが、水の生活魔術による水かけだ。

 飲み水を魔術で確保できる、水の生活魔術。これはどの家庭でも、子供たちに真っ先に覚えろと言われるもの。

 そういう背景があるため、子供たちは水の生活魔術を一番最初に覚える。むしろ、この魔術だけ覚えているという子も多いぐらい。

 だからこそ、子供たちが一斉にカリに嫌がらせしようとすると、この水の生活魔術を使うことになる。

 更に悪いことに、カリへ嫌がらせをするためだけに、水の生活魔術を頑張って練習する子供が現れていた。

 この魔術の悪用とも言える事態に、神官は動かなかった。


「理由はどうあれ、子供たちが魔術を学ぶ意欲を出したことは、こちらとしては有難いことですので」


 助けを求めたカリへの、神官からの心ない言葉。

 この段階になって、カリは神官が本当に『人々に魔術を広める』ことにしか興味がないのだと理解した。

 魔術が広まるのなら、過程や方法なんて何でもいいと考えているのだと。

 そんな嫌がらせしてくる村人ばかりの状況の中で、カリにとって味方といえなくもない存在はあった。

 それは村の戦士たち。

 戦士たちは、カリを積極的に助けることはしない。だが、カリが村の外で魔術を練習している間は、他の村人を用事もなく村外に出さないという措置を取ってくれた。

 この措置はカリのためではなく、危険な村の外に人が出ることを止めただけと、戦士たちは言う。

 しかしカリにとって、理不尽に蔑んでくる相手でないことが、理由不明で今の状況では有難かった。


 カリは急に変わった状況に困惑しながら、一日一日を過ごしていった。

 村人の仕事の手伝いができないと、食べ物を分けてもらえない。

 しかしカリには、他に食料を得る手段が存在した。

 村の外で我が身を囮にして、野生動物や魔物を呼び寄せ、それを攻撃魔術で倒してその肉を得るという方法が。

 そして複数匹でやってくる相手に対抗するために、カリは完成まであと一歩という予感のある火の攻撃魔術の練習を止め、対複数用の土の攻撃魔術を修めることにした。

 石の槍を投射する土の攻撃魔術と共通する部分が多かったため、カリは新たな土の攻撃魔術は比較的短時間で覚えることができた。


「『土の神よ。その御手に、握りし、石の槍を、お貸し、ください。その御目にて、我が敵の姿を、御映し、ください。その威圧でもって、多数の敵を、穿ち給え』」


 呪文が完成するとともに、カリが掲げた手の先から、人の指ほどの厚みと長さがある石の刃が複数発生して放射状に発射された。

 五匹の群れでやってきた野犬が、その石の刃の魔術に貫かれて、二匹が死亡し、三匹が少なくない怪我を負った。

 生き残った野犬たちは、カリの魔術には敵わないと分かったようで、口惜しそうな雰囲気を出しながら平原の向こうへ去っていった。

 カリは野犬たちの姿が見えなくなったことを確認してから、殺した二匹の野犬の身体を引きずって、村の出入口に戻った。

 村の戦士の近くに座ると、カリは野犬の死体の一つを解体していく。このときカリが解体に使っている道具は、魔術で生み出した石の刃に草で編んだ縄を巻いて持ち手を付けた、簡易的なナイフだ。

 切れ味が悪くて毛皮も肉もズタズタになってしまうが、カリの目的は食べられる肉の確保なので解体の出来栄えは気にしない。

 皮を剥いで、骨の関節を断って部位に切り出す。その作業の際に摘出される内臓のうち、生で食べられるものだけを、カリは口にして腹を満たして栄養も取る。

 そうやって骨付きのまま解体された肉を、穴がいくつかある毛皮で包んで持てるようにする。

 その後で、カリは丸々残っている野犬の死体一つを、村の出入口を守る戦士に渡す。

 戦士は受け取った後で、許可を出す頷きを返す。

 カリは、毛皮に包んだ肉と内臓の余りを手で掴むと、村の中に入る。向かう先は、出入口付近にある戦士の詰め所。

 この詰め所には、死体塚という獲った動物や魔物の死体を埋める場所と、獲物の肉を調理する場所がある。

 カリはそこへ進み、内臓のあまりを死体塚へと投げ捨てる。その後で、獲ってきたばかりの肉を薄切りにして切り離し、焼いて食べていく。

 野犬の肉は、獲ったばかりで新鮮なものの、血なまぐさくて固い。

 あまり美味しくはないが貴重な食べ物だからと、カリは我慢して腹に詰め込んでいく。

 毎日のように、動物や魔物が獲れるわけではない。そして肉を長期保存する技術を、カリは持ち合わせていない。

 だからカリは食い溜めして、食料が取れなくても困らないようにする必要がある。

 カリが必死に肉を食べていると、その横に戦士の一人が座った。その手には金属製のナイフと野犬の死体があった。

 戦士は野犬を解体しながら、独り言のような声量で言葉を口にする。


「カリが疎まれているのは、お前の母親のやらかしの所為だ。お前がどう頑張ろうと、待遇が改善されることはない」


 唐突な状況説明に、カリは焼けた肉を咥えながら、驚きながら目を戦士に向ける。

 戦士は、カリの仕草を知らない振り――野犬の解体に集中している素振りで、言葉を続けていく。


「お前の母親がどんな悪いことをしたかは言わんし、お前は調べるなと忠告する。現状の扱われ方を変えるには、戦士になってしまうのが早い。修めるべき魔術は一つきりなんだ。頑張れ」


 戦士は言葉を言い終えると、野犬から取り出した内臓を死体塚へと捨てに行ってしまった。

 カリは、焼けた肉を口にしながら、説明された内容について考える。


(村人からの扱いが変わったのは、母さんの所為? けど理由は調べるな? とても気になる……)


 助言に従って火の攻撃魔術を修めることに集中するべきか、それとも助言を無視して母親の行状を調べてみるべきか。

 カリは焼いた肉を食べきる間に方針を固めようと決意した。

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― 新着の感想 ―
現時点でも、十分戦えるじゃん。やっぱり火の魔術以外を習得した段階で、戦士見習いとかにして、戦士に火の魔術を教えて貰う制度にすればいいのに。神官も魔術を広めたいならその辺思いつかないのかな。それとも魔術…
どこかの家庭を壊したかな…。って言うか、それなら母親のせいだけでもないと思うんだけどね?
あー、母親のやらかしって、他の人と仲良くしてたんなら子供できちゃったとかかな。だとしたら相当やばいなぁ
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