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7話 広がる

 謎の『カエル男』が店に来店してから2日後。すっかり話すタイミングを逃してしまった。二次試験のお知らせが来たことを、祖母と姉に報告しなければならなかったのに。

 ふたりは俺から話を聞くと、試験期間の長さや学苑がある都市まで直接出向かなくてはならない事などを心配してくれた。そこは俺も少なからず不安を感じているところではあるけど、二次試験の概要すらもよく分からないのだ。あれこれ悩んでいても仕方ない。試験に合格して魔道士になる。その決意が固いことを改めてアピールすることでふたりには納得して貰った。幸い試験までにはまだ時間がある。心の準備をするには充分だ。



「なあなあ、河合」


「あー……?」


 弁当を食べ終えて空腹が満たされると、強烈な眠気が俺を襲った。今は学校の昼休憩中だ。授業が始まるまでひと眠りしようと、机の上に突っ伏していた。どこからどう見ても寝ていますとアピールしているような体勢だろう。それなのに、この同級生ときたら……遠慮というものを知らない。こちらの都合などお構いなしに体を揺さぶる。俺は心地良いまどろみから現実に引き戻されてしまった。


「お前さ、玖路斗学苑の入学試験受けたってマジ?」


「……なんで湊が知ってんの」


「ガチなんだ」


 最近まで家族にすら内緒にしていたのに……どうしてこいつ……『湊圭佑』が知っているのだろうか。大体、まだ受かるどうかも分からない。あまり周囲に広がって欲しくないな。


「藤原から聞いた。すげーな、魔道士なんて」


 理由はすぐに判明した。藤原のせいか……まあ、口止めはしてなかったけどさ。

 偶然家の近くを通りかかった藤原にお悩み相談をしたのだ。その時に調子に乗って彼女に魔法を披露した。藤原は魔法を見て素直に感動してくれたから、魔道士について悪い評判を流したりはしていないと思うけど……

 俺が試験を受けたことについては、やはり今の合格していない段階で多人数に知られるのは遠慮したい。次に会った時に注意をしておこう。


「一次受かっただけで合格したわけじゃないから、あんまり言いふらすなよ」


「藤原は絶対受かるって太鼓判押してたけどな。一次でも大したもんじゃん。透って勉強はからっきしなのに頑張ったんだな」


「学校でやるようなテストじゃなかったからね。そんな感じだったら俺は受かってないわ。間違いなく」


「あははっ!! だよなー!!」


 湊の言う通り。俺は決して勉強ができる方ではないけど……お前だって成績は下から数えた方が早い癖に。不満が顔に出ていたのだろう、湊は雑に謝罪を口にした。


「悪い、悪い。で、どんな感じなんだ。魔道士になるための試験ってヤツは?」


「もしかして興味ある?」


「どっちかというと好奇心かな。魔道士って俺らから見ると雲の上の存在というか……身近にいなさ過ぎて現実味が無いんだよな。いや、実際にいるのは分かってるけど、別の世界の人みたいな感じでさ」


 湊も藤原と同じことを言っているな。魔道士は幻獣……スティースと契約を交わし、ヴィータを対価に彼らの力を現実に顕現させることができる。

 最低限必要な特性といえばスティースの存在を認知できることだ。取り引きに必要なヴィータには個人差はあれど、人間なら誰もが持っているものだから、あとは幻獣との交渉が上手くいくかになる。交渉力はあって損はないかな。

 みんなが思うほど敷居は高くないと思う。未知の存在である幻獣と契約を交わすという行為に、抵抗があると言われたら仕方ないけど。


「でも、テレビで強盗犯を捕まえるヤツとかは見たことあるよ。ああいうのカッコいいよな」


 魔法の力を利用して悪人を捕える。魔道士の中にはそのような活動をしている者もいる。いかにも正義の味方のような振る舞いは俺も憧れてしまう。具体的に将来のことを考えているわけではないけど、どうせならカッコいいと思って貰えるような魔道士になりたいな。俺が褒められたわけじゃないのに、なんとなくこそばゆい気持ちになった。


「なあ、透。相談なんだけど、俺にも魔法見せて貰えないかな。藤原の話聞いたら羨ましくなっちゃってさ」


「….…ダメだ」


 正式に魔道士になれたわけでもないのに、軽はずみに魔法を使うべきではない。先日の件を俺は反省したのだ。

 魔道士は対価と引き換えに魔法の力を得る。簡単にほいほいと使えると勘違いして欲しくもなかった。


「そこをなんとか……藤原には見せたんだろ」


「藤原の時はうちの可愛いモカのためって理由があったからな。特に使う必要がないのに無理です」


「ケチー!!」


「ケチじゃない!」


 湊としょうもない小競り合いをして騒いでいると、前方からドンと大きな音が鳴った。音に驚いた俺たちは、一瞬体を硬直させて沈黙する。音の発生場所はすぐ側……俺の座っている席の目の前からだった。


「あっ、ごめん……小山。俺らうるさかったよな」


 俺の前の席に座っている『小山空太(こやまそらた)』は、不機嫌を隠さない顔で俺たちを睨んでいる。さっきの大きな音は、小山が教科書を机に叩きつけた時に生じたものだった。

 同じクラスだけど、俺と小山はそこまで親しいとは言わない。昼休みとはいえ、背後で馬鹿騒ぎされたらウザいだろう。俺たちは中3で受験生である。試験勉強に追われてナーバスになっている者も多いのだ。俺は素直に謝罪をして許して貰おうとしたが、小山は俺の言葉には返答せずにそっぽを向いてしまった。


「なんだアレ……感じ悪いな」


「俺らがうるさかったせいだろ。それより、もうすぐ昼休み終わるぞ。お前もそろそろ教室戻れよ」


「まだ話終わってねーのに!!」


 湊は小山の態度に腹を立てていたが、彼にも色々あるのだろうと、俺はあまり気に留めていなかった。

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