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63話 仮契約(4)

 契約を交わした幻獣(スティース)の姿を特定の場所に具現化させる事。それが召喚――――

 能力のみを借りる場合と比べて更に多くの対価が必要となるが、魔道士ではない誰にでもスティースの姿を視認できるようになる。召喚を行うメリットは魔道士を介して魔法を発動させるよりも、スティース本来の力が遺憾無く発揮されるため、威力も効果も桁違いに上がることだ。


 召喚か……知識としてはあったけど、俺は一度もしたことがない。対価が大きいという事に加えて、スティースとの信頼関係も不可欠。普通に魔法を使うよりも数段上の技術というイメージもあったため尻込みしていたのだ。


 時雨は自分の契約しているスティースを召喚した。最終的な対価量を確認していなかったけど、四桁を越える数字だったことは間違いない。時雨が契約しているスティースは5体……いずれも高ランクと聞いたばかりだ。一体どんなスティースなんだろうか。

 青白い光が徐々に収まっていき、部屋を埋め尽くしていた魔法陣も消えていく。再び薄暗くなった室内。慎重に視線を巡らせてみるが……

 おかしい。時雨は確かに『召喚』と言ったはずだ。あれだけ派手な前振りをしていたのだから、こちらの度肝を抜くようなスティースの姿がお目見えすると思っていた。それなのに、部屋には相変わらず俺と時雨のふたりきり。まるで狐につままれたような気分だった。


「ねぇ、時雨さん……」


 時雨に説明を求めようとした。その時だ。俺の足元でぐちゃぐちゃになって固まっていた掛け布団が動いているのに気付いたのだ。もちろん時雨の手足も触れていない。


「うわっ!?」


 布団の中に何かいる。とっさに声を上げてしまった。相変わらず時雨に馬乗りになられているため逃げることはできない。


「怖がらなくても大丈夫だよ」


 俺を怖がらせる原因を作っている張本人である時雨に宥められる。どの口が言うんだろうか。完全に振り回されている。恩人だからといって許容できる範囲をそろそろ越えてしまいそうだった。

 もぞもぞと動いている布団を注視していると、中からゆっくりと何かが這い出てくる。大きさはフェレットのモカと同じか……少し小さいくらいだろうか。


「赤い……トカゲ?」


 俺の目に飛び込んできたのは、鮮やかな真紅色をしたトカゲのような生き物だった。トカゲというと緑とか茶色のイメージが強い。こんな炎を連想させるほどに赤みの強いものもいるのか。

 トカゲはチロチロと舌を動かしながら、周囲をうかがっている。最初はビビったけど、俺に向かって何かする素振りはない。次第に可愛く見えてきたような気がしないでもない。


「これは僕が契約してるスティースのうちの一体。名前は紅華(べにか)


「紅華……? 女の子みたいだね」


「メスだからね。紅華は僕が付けた。一般的というか魔道士間で広く認知されている呼び名は火蜥蜴(サラマンダー)だよ」


「火蜥蜴って……あの、炎を操るっていう……」


「そう。公の場ではそっちの名前を使った方がややこしくならないんだけど、僕にはしっくりこなくてね。だから契約しているスティースに限っては独自の名前で呼ばせて貰ってるんだ」


 人間を『人間』、犬を『犬』呼びしているみたいで嫌なんだそうだ。確かに……集団の中で個を識別するためにも名前は必要だし、信頼関係を築く上でも大切な気がする。俺もモカの事をフェレットとは呼ばないからな。

 火蜥蜴……炎を司るスティースか。召喚されたスティースの姿を実際に見るのは初めてだ。

 時雨は紅華を自分の腕に乗せた。そうしているとまるでペットと飼い主のように見えてしまう。紅華も時雨に頭を撫でられて気持ち良さそうに目を細めていた。しかし、そう見えるだけで紅華はペットではない。強大な力を持ったスティースなのだ。見た目に騙されて油断してはいけない。


「はい、透」


 時雨はなんの前振れもなく、俺の腹の上に紅華を乗せた。あまりの事に声を出すことも出来ず、口はぱくぱくと忙しなく動くだけであった。

 固まってしまった俺の事なんてお構い無しに、時雨はニコニコと笑っている。紅華も暴れたり怒ったりするようなこともなく、ただじっと俺の顔を見つめていた。


「可愛いでしょ?」


「……は、はい」


 紅華が俺の顔に向かって近付いてくる。逃げたくても逃げることができないため、俺はなすがままで受け入れるしかなかった。互いの距離がほぼゼロになる。俺は泣きそうだった。


「ひえっ」


 ねっとりとした何かが頬を掠めた。その感触に身震いする。目の前には舌舐めずりをしている紅華。俺は動揺するあまり、彼女に頬を舐められたのだと気付くのに少々時間がかかってしまう。


「紅華も透のことが気に入ったみたいだね。僕が契約してるスティースの中で、この子が一番難しい性格をしているのに……さすが透だ」


「あ、ありがとう……ございます」


 テンパり過ぎて俺は謎のお礼を言っていた。時雨もさっき俺の首に噛み付いたし、スティースは契約した人間に似るなんて特性でもあるのか。


「幸先がいいね。この調子なら残りの子たちも大丈夫だろう」


 何が大丈夫なんだよ。時雨も紅華も俺の上に乗ったままで好き勝手にし過ぎだろ。もう言葉を話す気力もなくなってきた。


「さあ、透。君は紅華の心を射止めた。契約の続きをしようじゃないか」


「契約って……」


 なんで時雨はスティースを召喚したんだっけ。時雨に噛み付かれた首筋が再び熱を帯びていく。痛みは引いているけど、じくじくと疼くような感覚が気持ち悪い。


「透と紅華の契約だよ。彼女と『対話』をしてごらん。きっと上手くいくから」


 そういえば、時雨のスティースを俺と共有するとか言ってたな。ちゃんと断ったはずなのに、この話まだ継続中だったんだ……

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