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57話 ラーメン(3)

「お待たせ致しました。味噌ラーメンと半チャーハンのセットになります」


 オーダー後、10分未満で料理が運ばれて来た。俺は美作のおすすめに従って、味噌ラーメンにチャーハンが付いたセットメニューを頼ませて貰った。

 美作は醤油ラーメンとチャーハンのセット、時雨は俺と同じものを頼んだ。それに加えて焼き餃子を3人分だ。味噌ラーメンのトッピングは炒め野菜とひき肉にメンマ……煮卵といったオーソドックスな感じ。チャーハンも同様に具はシンプルに卵と細かく刻まれたチャーシューにネギ。そこに付け合わせの紅生姜が彩りを添えている。


『美味そう……』


 あまりにも理想的だ。ラーメンもチャーハンも自分好み過ぎて、一時的に大人しくなっていた腹の虫がまたしても主張を強めてしまう。


「匂いはいいね」


「見た目もいいでしょ。めちゃくちゃ美味しそう。えっと……もう食べてもいいデスカ?」


 待ちきれないとばかりに時雨にお伺いを立てる。時雨は運ばれてきた料理を真面目な顔で眺めていた。その様子はテンションが上がっている俺とは対照的で、彼はあまりお腹が空いていないのかもしれない。それでも待てをされている犬状態の俺がおかしかったのか、難しい表情はすぐに笑顔へと変わった。


「どうぞ」


「いただきます!」


 時雨からの『よし』を貰った俺は、まずはメインのラーメンから手をつけた。レンゲで熱々のスープを掬う。俺が食事を始めるのを見届けると、時雨と美作も後に続いた。

 スープを一口啜ると、濃厚でコクのある味噌の味が口の中いっぱいに広がった。生姜も入ってるのかな……美味しい。思わず顔が緩む。スープに続いて次は麺だ。黄色味がかった中太の縮れ麺はスープがよく絡む。コシがあってもちもちとした食感……食べ応えも抜群だ。


「美味しそうに食べるねー……」


 ラーメンを半分ほど食べ進め、美作おすすめのチャーハンに手を伸ばそうとしたところだった。時雨が感心したように話しかけてきた。


「だってうまいからね」


 皿の上に半球形に盛られたお米をスプーンで崩した。時雨に応答しながら俺はチャーハンを口に運ぶ。パラパラに炒められた米はふんわりとして粒が立っている。醤油の香ばしい匂いが鼻に抜ける。チャーシューの旨味もいい具合にアクセントになってるな。こっちも文句なく美味しい。半チャーハンなので軽く茶碗一杯分の量だけど、いくらでも食べれてしまいそうだ。


「そっかー、良かったね。真澄のお勧めは透の好みにもばっちり合致したわけだ」


 同じメニューを食べているというのに、まるで他人事のような感想をいう。さり気なく時雨の方の器を見ると、ラーメンもチャーハンもほとんど減っていない。箸をつけるところは確認したので食べているのは間違いないけど……あまり口に合わなかったのだろうか。


「時雨さん、もしかしてお腹空いてなかったの? 俺に付き合って無理して食べてるなら……」


「あー、違う違う。お腹は空いてるし、食事はちゃんとするよ。透があんまり気持ちよく食べるからつい見入っちゃっただけ」


 箸が進んでいないことを指摘すると、時雨はそれを否定した。腹が減っていないというわけでもないらしい。本人がそう言うのだからそれ以上言及することは出来なかった。実際、その後はゆっくりではあるけど食事を再開していたのだ。

 料理に対しての感想は全く無い。不味いとも美味いとも言わず、ただ黙々と口に運んで飲み込んでいくだけ……時雨の食事はまるで作業のようだった。俺の作った料理を過剰に褒めるのもおかしかったけど、今の状態も違和感が凄まじい。

 この店のラーメンとチャーハンは間違いなく美味しい。美作の行き付けでもあるし、店内は大勢の客で賑わっている。好みは人それぞれとは言うものの……時雨はかなり偏った食の趣向をしているようだ。


「美作さん、良いお店に連れてきてくれてありがとう。ラーメンもチャーハンもすっげー美味い」


「気に入って頂けて良かったです。こちらの餃子も美味しいですから、冷めないうちにどうぞ」


 美作は笑顔で俺に餃子を勧めてくる。彼は時雨のことはあまり気にしていなそうだ。付き合いが長いであろう彼は、時雨の食事情について熟知しているはず。きっとこれが時雨の通常運転なのだろう。

 時雨については気になるところが山ほどあるけど、せっかく美味しい料理が目の前に並んでいるのだ。今は自分の食事の方に集中しよう。

 気を取り直した俺は、綺麗に焼き色がついた餃子に箸を伸ばした。








「透、食事が終わったら買い物に行くよ。服とか日用品とか……滞在中に必要なものを用意しないとね」


「着替えなら一応持ってきてるけど……」


 食事も後半に差し掛かり、お腹も満たされてまったりとした空気が漂っていた。そんな中での時雨の発言だった。

 試験までの数日間をこちらで過ごすため、最低限の準備はしてきたつもりだ。有り難いことにホテルを取ってくれると聞いていたので、ホテル内の設備を利用させて貰えればそれほど困ることはないだろう。


「せいぜい2、3日分でしょ。足りないよ」


「いや、洗濯して着るし……ホテルにコインランドリーとかもあるでしょ。タオルや歯ブラシも……」


 俺の返答を聞いて、時雨は意味が分からないといったような顔をしている。そんな変なこと言ってないだろ。いまいち話が噛み合わない俺たちを見かねて、美作が仲裁に入ってくれた。


「河合様……あなたがこれから試験当日まで滞在なさるのはホテルではなく、時雨様が所有しておりますマンションになります」


「えっ……? もしかして、昨日俺が泊めて貰った?」


「はい。予定が変更になりまして……」


「あの部屋普段あんまり使わないから何もないんだよ。だから色々買い揃えないと……洗濯機は一応あるけどね」


 マジか。今初めて聞いたんだけど。あんな高そうな部屋で生活するなんて……気が休まらないんじゃないだろうか。

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