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50話 目隠し

「あの、東野さん……」


「ごめんね、透。すぐに治してあげるから……しばらくの間がまんしてね」


 東野が俺の両目を包帯で塞いでいく。包帯はどこにでもある普通のものみたいだけど、何重にもわたってぐるぐるに巻かれたせいで光すらも通さない。当然何も見えなくなってしまった。


「小夜子、真昼……俺の目、どうしちゃったの? それと、あの幻獣(スティース)はどうなった?」


 東野は謝りながら包帯を巻くばかりでなかなか状況説明をしてくれない。テンパってる彼よりも冷静な女性陣に確認をすることにした。

 

「えっと……あのスティースは逃げちゃったよ。透の目は……」


「河合はスティースに術をかけられてしまったの」


「術?」


「そう。安易に姿を見えるようになんてしなければ良かった。その方が河合が安心するかと思ったから……これは私のミス。ごめん」


「小夜子ちゃんだけのせいじゃないよ。私が調子に乗って追い詰め過ぎたのもあるし……ごめんなさい、透」


「いやいや、絶対にふたりは悪くないだろ。俺を庇って戦ってくれたのに……」


 小夜子と真昼が揃って俺に謝罪をしてくるが、いまいちピンとこなかった。俺は彼女たちのせいだなんて微塵も思っていなかったからだ。

 とにかく、俺の目が塞がれた理由は理解した。思い当たる節もあった。東野が現れる直前、俺はあのスティースと目を合わせてしまったのだ。大量の蔓に守られるようにされていた金色の目玉。今でも頭の中に鮮明に思い浮かぶ。


「痛って……!?」


「透!!」


 あの目玉を思い出した瞬間、両目に激しい痛みが走った。これはスティースの術にかかっているせいなのか。一体どんな術をかけられたというのだろう。10日後には二次試験が控えてるいるというのに……


「あのっ……透は大丈夫ですよね」


「侵食度は半分くらい。完全には持っていかれてないよ。この程度ならすぐに解くことができる。でも、ここでは無理だから場所を変えるよ」


「場所を変えるってどこへ……うわっ!?」


 体が突然宙に浮いた。さっきのスティースの時といい、自分の体に起きている異変を視認できないというのは本当に怖いと思う。


「今日が土曜で良かった。あまり人目につきたくはないからね」


 東野の声がさっきよりも近くに聞こえる。もしかして……俺の体は今、東野に担がれているのか? さながら米俵のように……

 まだ喋っている途中だったのに、質問する隙すらも与えずに強引過ぎる。そりゃ、目が見えない俺を誘導しながら歩くより、こうやって担いだ方が早くて効率的だろうが、ちょっと恥ずかしいわ。人目につきたくないという、東野の言葉には全力で同意した。

 

「匠もまだいるから、あいつにも手伝って貰おう」


「あの……東野さん」


「大丈夫だよ、透。心配しなくてもすぐ元に戻るから」


「いや、だからっ……ああっ……!?」


 東野は俺を抱えた状態で歩き出した。またしても話が中断されてしまった。やはり東野は俺の話を聞かない。彼が足を踏み出すたびに振動が伝わってくる。無理やり話を続けようにも、この状態で下手に喋ると舌を噛みそうである。目的地に着くまでは大人しくしているしかなさそうだ。


「ちょっと、待ってよ!!」


 ひとりでどんどん先に行ってしまう東野。小夜子と真昼の慌てたような声が聞こえる。

 決して悪い人ではない。俺にとっては恩人だ。でも、この東野という男……マイペース過ぎるだろ。この短時間で俺を含め、周囲の人間をどれだけ振り回すのだろうか。

 思わず溜息を吐いてしまうが、俺の心は落ち着いていた。スティースに得体の知れない術をかけられている真っ最中だというのに。

 なんだかんだ言っても、やはり俺は東野の事を信頼しているのだろう。彼ならどうにかしてくれるという安心感。小夜子も彼に対して文句を溢しつつも、実力は認めているようだった。不安な気持ちが全く無いわけではないけど、取り乱すことなく冷静でいられるのは間違いなく東野の存在のおかげだった。








「河合様!?」


「その声は美作さんかな。なんかこんな格好でごめん」


 目が見えないので恐らくとしか言えないが、学苑内のどこかの部屋に連れてこられたようだ。そこには先に非難していた美作たちもいた。目に包帯を巻かれた上、東野に担がれている俺を見て驚いている。

 本来なら今頃……みんなで苑内の見学をさせて貰えていたはずだったのに。残念だな。


「ご主人様、これはどういう事ですか? 河合様に何が……」


「千鶴のとこの雑草にやられた。でも半端だからすぐに解けるよ。匠、手伝ってくれ」


「ああ、分かった」


「河合がこうなってしまったのは私たちの力不足です。申し訳ありません」


「どうか、透をよろしくお願いします」


 美作と百瀬とも違う、知らない声が聞こえた。声質からして若い男だ。東野はその声の主を『匠』と呼んでいる。更に小夜子と真昼のやけにかしこまった態度。ひょっとして、この人が……


「あの、そこに小夜子と真昼の先生もおられるんですか?」


 東野と一緒にいると聞いていたし、間違いないだろう。暫しの沈黙が流れたのち、男性は再び口を開いた。


「処置が終わった後に改めて挨拶しようと思ってたんだけど……先に言っておいた方がいいのかな」


 一瞬、聞いてはいけなかったのかと焦ったけど、特に怒っているわけではなさそうだ。どちらかと言えば困惑したような口振りだ。


「うん、そう。俺は『榛名匠』だよ。よろしく、河合君。うちの弟子たちが世話になったね。それにしても……日雷に来て早々大変な目に合っちゃったね。可哀想に……」


 大きな手が俺の頭を撫でた。榛名匠さん……玖路斗学苑の講師で小夜子と真昼の推薦人。優しそうな人だ。目の見えない俺を怖がらせないようにと気遣ってくれている。


「こちらこそ……世話になったのは俺の方だよ。よろしくお願いします。えーと、榛名先生」


「君の目だけど、心配しなくてもいい。この包帯がちょっと大袈裟過ぎるね」


「うるせーよ。慎重になるに越したことねーだろうが」


 東野に続いて榛名先生にも大丈夫だと言って貰えたので、自分の目に対する不安はほぼ無くなった。むしろ、玖路斗学苑に所属する優秀な魔道士であるふたりが治してくれることに感動すらしてしまっている。その過程を直に見ることが出来ないのが悔しいくらいだった。

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