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39話 青(3)

「大まかにですが『クラス』と『レベル』について説明をさせて頂きました。河合様、如何でしたでしょうか? ここまでの話で分かりにくい所はございませんでしたか」


「うん、大丈夫。ありがとう、美作さん。俺ってほんとなにも知らなくてさ……試験本番までに教えて貰えて良かったよ」


「この辺りの話は学苑に入学してから学んでも遅くはないのですよ。クラスはともかくレベルは専用の測定器を使わなければ正確な数値は分かりません。さっきも申し上げましたが、更級さんと八名木さんが例外なんですよ」


 俺のようにクラスを知らない受験者も多いのだと美作は言っていた。そうなると……二次試験はクラスの違いやレベル差で結果が左右されるような内容ではないということだろうか。推薦枠の受験者にとって、試験はあってないようなものだという東野の言葉も気になっている。


「それはあくまで一般的な受験者の場合じゃないですか。河合はクラスブルーなんでしょう。自分が他と比べて特別なんだって認識くらいは持っておくべきだと思いますよ」


「はい……そこは我々の配慮不足だったと反省しております。この後ご主人様にもしっかりと進言するつもりです」


「そっか……『あの方』も透と同じブルーですもんね。そうであることに慣れ過ぎて、特別だという自覚が抜け落ちていたのかもしれませんね」


「いやいや、さすがにそれはないでしょ。『あの人』が周囲の目を気にしなさ過ぎなのよ」


 美作は『ご主人様』、真昼と小夜子は『あの人』とか『あの方』……どちらも東野の事を指している。3人とも本名を言わないように気を使っているせいで、なんだか東野が悪の組織のリーダーみたいに見えておかしくなった。


「河合、あんた何笑ってんのよ。あんたの事を話し合ってるってのに呑気過ぎじゃない」


「いや、ごめん。小夜子も真昼も……会ったばかりなのに、俺のこと色々気にしてくれてありがとうな」


 一般試験を受けた受験者と講師推薦枠であるふたりでは立ち位置が違うのは分かっているけど、俺に対してこんなにも親身になってくれたのが嬉しかった。同じ受験者同士であった小山との仲は決裂してしまったから……


「河合はちょっとぼんやりしてるっぽいからね。私たちもついお節介やきたくなっちゃったっていうか……迷惑だった?」


「全然。むしろ有難いよ。ふたりと一緒に学苑に通えるように、二次試験頑張らないとな」


「ご主人様の推薦でかつクラスブルーが落ちるなどあり得ないと思いますが……」


「百瀬……水を差すような事言わなくていい」


 魔道士になりたい……やる気と気合いだけでここまでやってきた。玖路斗学苑がある『日雷』を訪れ、真昼や小夜子のような自分以外の受験者と話をした事で、その思いは更に強くなる。

 クラスやレベルの説明は少し驚くような内容だったけど、魔道士についての知識がまたひとつ増えたのだと思うとわくわくした。学苑に入学できたらこんな体験を毎日のようにする事ができるのだろうか。


「それで、河合たちはこれからどうするんですか? このままカフェで待機?」


「最初の予定ですと、食事の後はご主人様と一緒に河合様を滞在先のホテルへご案内するはずだったのですが……」


「透は平気? 遠方から来たって聞いてるけど、疲れてない?」


「飛行機に乗ってるだけで、あっという間だったから大丈夫だよ。お腹も膨れて元気いっぱい」


「ねぇ、だったら私たちと一緒にこれから玖路斗学苑に見学に行ってみない?」


 小夜子の口から飛び出したまさかの提案。咄嗟に意味が理解できなくて反応するのに時間が掛かってしまった。生徒ではないのに学苑に入ることができるのだろうか。


「いいですよね、美作さん。今日は土曜日で生徒たちはいないし、会合の邪魔にならないように校内を見て回るくらい大丈夫よね」


「あの様子ですと、会合が終わるのにはまだ時間がかかりそうでしたからね。このままここで時間を持て余すよりはその方がいいかもしれません。どのみちご主人様と合流する必要がありますし……学苑を見学がてら待つのもアリではないでしょうか」


 百瀬も小夜子の提案に賛成なようだ。会合って学苑でやってるんだな。小夜子と真昼の先生も参加してると聞いた。確かにそれなら学苑で待っていた方が合流はスムーズに行えるだろう。

 美作は口元に指を添え、思考を巡らせている。彼はどんな答えを出すのだろう。俺としては是非、小夜子の提案を受け入れて欲しい。学苑の見学なんて行きたいに決まってるじゃないか。


「……河合様はどう思われます。ふたりの言うように学苑へ行ってみられますか?」


「俺が入っても怒られたりしないのなら……行きたいです」


 恐る恐る自分の意思を伝えた。俺の返答を聞いた美作は静かに微笑む。最初に会った時にも見せてくれた、相手を安心させるような穏やかで優しい表情だ。


「怒られるなんて事はありませんよ。推薦枠の受験者は、推薦人の付き添いがあれば学苑内に入ることは可能なんです。河合様の推薦人であるご主人様は現在学苑にいらっしゃいます。よって、河合様が学苑に立ち入るのに何の問題も無いという事になります」


「そういうもんなの?」


「そういうものなの。細かい事は気にしない」


 小夜子と真昼も力強く頷いている。付き添いって一緒に行動してなきゃいけないのではと思ったが、同じ校内にいさえすればOKなのか。多少引っ掛かるものがあるけど、美作も大丈夫と言っているのだからいいのだろう。


「……だったら、お願いします。俺を学苑に連れて行って下さい!!」


 まさか合格する前から学苑に入ることが出来るなんて思ってもいなかった。想像すらしていなかった展開に、俺の胸は期待と興奮で激しく高鳴った。

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