表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/46

34話 被推薦者(3)

 ロビーから場所を移して、俺たちは東野と待ち合わせ予定であるカフェへと向かった。黒髪の少女と青年も一緒だ。ふたり共美作の知り合いのようだけど、彼らも学苑の関係者だろうか。

 少女が男を投げ飛ばす直前に赤色の光を見た。一瞬ではあったけど、あれは魔法が発動する際に生じる光に似ていた。少女の方は魔道士なのかもしれない。

 色んなことが一度に起きて頭が混乱している。これから説明して貰えると信じて、今は黙って美作の後について行くのだった。










 カフェに到着すると、店員に席へと案内された。壁際に設置された広めのテーブル席……その席のひとつには既に人が座っている。少女がその人物に親しげに声をかける。


「真昼、お待たせー」


「ううん、全然。待ってないよ、小夜子ちゃん」


『真昼』と呼ばれた人物はにこやかに微笑んだ。ハニーブロンドの髪に、丸くて大きな瞳。黒髪の少女よりいくつか年上であろう女の子だ。

 ふたりの少女はどちらも整った可愛いらしい容姿をしている。でも、受ける印象は対照的だった。お互いを『真昼』と『小夜子』と呼んでいたけど、それがふたりの名前であるなら、なるほどピッタリだと思う。正に昼と夜。


「更級さんまで……全く……榛名さんはこの事を知っているんですか?」


「いや、それはその……」


「美作さん、百瀬さんを怒らないで下さい。私たちが無理を言ってついてきたんですから」


「そうそう。それに遅かれ早かれ、私たちはこの子に会うことになっていただろうし……次期が多少早まったくらいなんてことないでしょ」


 美作は大きな溜息を吐いた。状況はまだよく分かっていないが、2人の少女がここにいるのは彼にとって予想外な出来事のようだ。そして……小夜子が口にした『この子』って、もしかして俺のことか? なんとなく俺の方を見ながら言われた気がする。勘違いじゃないと思うけど……


「えっと……あなたが『河合透』くん。ですよね?」


「はっ、はい。そうですけど……」


 明るい髪色の少女……真昼が俺に向かって話しかけてきた。置き物みたいに静かに4人のやり取りを傍観していただけだったので、突然会話に参入させられて少しまごついてしまう。そんな俺の反応を見てか、真昼は申し訳なさそうに眉を下げた。


「驚かせてしまってごめんなさい。私、『更級真昼(さらしなまひる)』といいます。こっちの子は『八名木小夜子(やなぎさよこ)』です」


 真昼は謝罪と、簡単に自己紹介をしてくれた。小夜子と対照的なのは見た目だけではないようだ。俺は真昼に対して、穏やかで優しそうな女の子という印象を受けた。初対面で男を投げ飛ばすという強烈なインパクトを植え付けてくれた小夜子と比べたら、誰でも大人しそうに見えるだけかもしれないけど。


「河合様。彼女らはあなたと同じ、玖路斗学苑の特待試験に挑む受験者です。男の方は百瀬と言って、私の同僚ですが……」


「ご挨拶が遅れてすみません。改めまして、『百瀬修二(ももせしゅうじ)』と申します。河合様、以後お見知り置きを……」


「はい……こちらこそ。よろしくお願いします」


 百瀬はぺこぺこと頭を下げる。俺までつられて何度も頭を上下に振ってしまった。百瀬は登場した時からずっとこんな感じなので、気弱な性格なのかもしれない。それにしたって俺相手にここまで畏まらなくてもいいと思うが……

 そして、小夜子を見た時から予想はしていたけど、やはりこの少女2人も魔道士見習いだった。俺と同じということは、彼女たちも学苑に所属する魔道士から推薦を受けているのだろうか。


「河合様。大変申し上げにくいのですが、つい先ほどこの百瀬から連絡を受けまして……ご主人様との昼食は中止になりそうです」


「ええっ! なんで!?」


「本当にすみません。ご主人様は現在ある会合に御出席されているのですが、それが想定以上に長引いておりまして。午前のうちに終わるはずだったのですけど……」


 美作と一緒に百瀬がまたぺこぺこしていた。仕事なら仕方ないだろう。東野と話したいことはあったけど、それはまた別の機会にすればいいだけだ。


「いいよ、いいよ。仕事忙しいのに無理させたくないし、東野さんの都合がついた時に仕切り直そう」


「東野さん?」


 小夜子が首を傾げながら呟いた。真昼の方も東野の名前に思い当たるものが無いのか、ぽかんとした表情をしている。ふたりは東野を知らないのだろうか。そういえば、彼は自身を正式な講師ではないと言っていた。学苑の関係者とはいっても、受験者が彼を知らないのは当然なのかもしれない。


「俺を特待生に推薦してくれた人だよ」


「えっ? あなたを推薦した人って……」


「うん。あの人がいなかったら俺は日雷に来ることは出来なかった。本当に感謝してる」


「えっと……透くんでいいのかな? 私の事は真昼でいいよ。多分同い年だと思うから」


「私もそれでいい」


「そっか、こっちも呼び捨てでいいから。真昼と小夜子だね。よろしく」


 同い年というとどちらも中3か。小夜子の方を最初小学生だと思っていたのは言わない方がいいな。


「あのね、透。私と小夜子ちゃんも玖路斗学苑の試験を受けるの。私たちを推薦してくれたのは、学苑で講師をなさっている『榛名先生』って方よ」


「そうなんだ。玖路斗学苑の講師なんて凄い魔道士なんだろうな。会ってみたいなぁ」


「榛名先生も今日の会合に出席なさってるの。私と真昼は会合が終わるまでヒマだったから、百瀬さんについてここまで来たってわけ。噂の『河合透』がどんな子か気になってたからね」


「俺を?」


 小夜子と真昼は真剣な顔で俺を見ている。気になっていたって……それってどういう意味なんだろう。可愛い女の子2人にそんな思わせぶりな事を言われたら、勘違いしてしまいそうだ。でも残念ながら小夜子も真昼も、俺に対してそんな浮ついた感情は持ち合わせていないのは一目瞭然だった。


「ねぇ、美作さん。私たちが事前に聞いてた話と少し違うみたいなんだけど……これって、どういう事。河合を推薦したのって『あの人』じゃなかったの?」


 小夜子は俺から美作の方へ視線を移す。彼の肩が僅かだが震えた気がした。美作はテーブルに置かれている冷水の入ったグラスに手を伸ばした。たっぷりと時間をかけてグラスの水を飲み干す。俺たちはその様子を静かに見守る。空になったグラスが再びテーブルの上に戻される。

 美作は大きく息を吐き出した後、小夜子の問いかけに応対した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ