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24話 想定外(1)

 河合透とは3年になって初めて同じクラスになった。彼個人を特別意識したことはないけど、河合の席が自分の真後ろになってからは、たまに会話をするようになったのだ。向こうが一方的に話しかけてくるだけ。『おはよう』とか『じゃあな』とか、たわいもない挨拶程度。これを会話と言っていいのか微妙だ。僕の方からあいつに声をかけたことは一度もない。


 学力は中の下で特に数学が苦手。でも、運動神経はとても良い。部活には入っていないけど、たまに運動部の助っ人に駆り出されたりもしている。身長は平均並み。それでも僕よりは高い。顔は……女子連中がカワイイ系だとか評価してたのを聞いたことがあるので悪くはないんだろう。性格は明るくて人当たりが良い。誰にでも分け隔てなく接してくる。

 僕が知っている河合の情報。同じクラスで席が近くなってから自然と耳に入ってくるようになったのだ。決して調べたわけじゃない。


 同じクラスという括りの中でも、生徒たちはもう少し細かくグループ分けがされていた。誰が決めたとかではなく、自然とそうなったのだ。同じ趣味を持っているとか、幼い頃からの腐れ縁とか……きっかけは様々だけど、気の合う者たち同士で連むようになり、ひとつのグループが形成されていく。

 僕はあまり人と話すのが好きではなかったから、どこのグループにも属していなかった。1人で本を読んでいる方が落ち着くし、楽しかったから。


 河合透も僕と同じだった。どこのグループにも入っていない。ただ……僕みたいに1人でいるのが好きだからという理由ではない。あいつは見るたびに異なるグループの中にいたから……

 特定の誰かと連んではいない……かと言って、一匹狼みたいなのとも違う。河合の交友関係はとても広い。その辺にいる生徒を適当に捕まえて河合のことを聞けば、みんな口を揃えて良いヤツだと言うのだろう。

 僕とは全く異なる性質の人間だ。クラスが同じで、たまたま席が近くにならなければ、会話をすることすら一生無かったに違いない。僕が本を読んでいる最中でも平気で話しかけてくるのはウザかったが、河合のことは好きでも嫌いでもない。正直どうでもいい存在だった。



 そんな僕と河合の間に、ある共通点が発覚した。河合が玖路斗学苑の特待生試験を受けていたという噂が流れてきたのだ。

 玖路斗学苑は優秀な魔道士を育成するために設立された唯一の専門学校。一般入学するのは簡単であるが、特待生となると話は別だ。入学する前の段階でそれなりの知識と能力を要求される。特待生は学苑から金銭面を始めとした多種多様なサポートが受けられるので当然である。更に昨今は受験希望者が急増しており、合格するのは至難の業とされている。


 そんな高難度の試験に河合透が……? 中学のテストですらろくな結果を出せていないのに、僕と同じ学校を受験したというのか。最初は耳を疑った。何の冗談かと鼻で笑ってしまった。

 どうせテレビや新聞で魔道士の活躍を見て触発されたとかそんな理由だろう。たまにいるんだよな……大した志も無いのに軽い気持ちで魔道士になりたいとか言い出す奴。

 見た目が派手な魔法はカッコいいし、憧れる気持ちは理解できる。でも魔道士はそんなミーハーな動機でなれるほど生易しいものではない。

 学苑に入学するというだけなら、金さえあれば誰でも可能だろうが、その後資格を取得できるかは本人の実力次第。学苑は手助けをするだけ。『魔道士』というのはほぼ才能だけがものをいう資格なのだ。

 僕は小さい頃から幻獣(スティース)の気配を感じ取ることが出来た。そんな僕にとってスティースはとても身近な存在で、自分が魔道士になるのは確定事項だと考えていた。だって僕には才能があるから。


 試験を受けるのは本人の勝手だけど、河合が受かるとは到底思えなかった。調子に乗って友人共に言いふらして、落ちた時のことを考えてないんだろう。バカなヤツだ。

 この時の僕は河合を完全に見下していた。そして、自分は合格するのだと疑いもしていなかった。










 意味がわからない。僕が不合格? なんで?

 自宅に届いた通知を何度も確認した。もしかしたら別のヤツの結果が間違いで届いたんじゃないか。封筒に印字されている宛先と名前を穴が開くのではないかというほど見つめた。でも、そこに記されているのは間違いなく自宅の住所、そして『小山空太様』……僕の名前だった。


 試験結果を知らされてから数日経過しても、僕の頭はぼんやりとしていて虚ろな状態から抜け出せていなかった。だって自分が落ちるなんて想像していなかったから。試験の問題だって全部解答した。答え合わせもしたし、完璧だったはずだ。それなのに……納得できるわけがなかった。


『すごいな、河合。玖路斗学苑の試験に合格したんだろ』


 今最も聞きたくない話題。距離の近さゆえ、否が応でも耳に届いてしまう。声や音を完全に遮断できればいいのに。自分が落ちたのもショックだったが、それよりも受け入れ難いことが起きてしまったのだ。


『一次試験に受かっただけだから、まだ合格したとはいえないよ』


 河合は試験に合格していた。いや、試験は二次まで行われることになったので正確には合格ではない。河合本人だってそう言っている。浮かれるにはまだ早いと……。はしゃぐ友人を前にしても、河合は冷静に対応していた。

 そんな河合とは対照的に僕の心は乱れに乱れていく。こっちは一次すら通過できなかったのに、なんで河合なんかがと……そう考えてしまうのを抑えられない。悔しさと憤りの感情でどうにかなってしまいそうだった。

 これはきっと何かの間違いだ。だってそうじゃなきゃおかしいじゃないか。勉学において僕が河合より劣っているなんてあり得ないのだから。




『間違いは修正されなければならない』……いつの間にか、僕の頭はそれしか考えられなくなっていた。

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