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22話 資質

 小山が立っている場所を起点に放たれた光。突然のことで驚いたけど、目を開けていられないほどではない。この光……小山は幻獣(スティース)と新たに契約を交わしたのだろうか。

 俺が交渉を行う時に発生する光とは色が違う。それに、小山の足元には契約の陣も出現していない。これは東野が魔法を使った時と同じ現象だ。どういう仕組みなのかは不明だけど、彼らは俺と違う方法で魔法を使っているようだ。

 魔法陣は確認できなかったが、対価は間違いなく徴収されている。小山の周りに浮かび上がる数字がその証拠。小山はヴィータを100も奪われていた。100なんて数字初めて見た。

 強くて複雑な魔法であればあるほど多くの対価を要求される。小山が契約を交わしたスティースが、俺をここまで案内してくれたものと同種であるなら、それほど強い力は持っていないはずだ。小山は一体どんな契約を結んだのだろう。


 周囲は相変わらず黄色の光に照らされている。小山とスティースの契約はまだ切れていない。彼は俺に対しての怒りが爆発して今の状態になっている。魔法で俺を攻撃してくる可能性だって充分ある。小山から目を離すな。絶対に油断してはならない。


「小山!! やめるんだ!!!!」


「うるさい! ぼくに指図するな」


 一縷の望みを抱いて呼びかけてみるが失敗。更に逆上させてしまった。

 俺と小山は橋の真ん中付近に立っている。互いとの距離は3メートルくらいだろうか。風がどんどん激しくなってきている。まるで……小山の感情に連動しているみたいだ。


「あれは、なんだ……」


 小山の足もとに目を凝らした。砂や埃が妙な動きをしている。渦を巻くように回転しながら上空に舞い上がっていく。渦巻きはみるみるうちに大きく成長し、数メートルほどの高さにまでなった。更によく観察すると、小山の周りにはそのような渦巻きが4つほど発生していたのだ。これは『塵旋風』か。

『つむじ風』とも呼ばれている。小さい竜巻にも見える空気の渦だ。天気の良い日に学校の校庭など、広い場所で発生する。小学生の時にふざけて中に突っ込んで先生に怒られたっけ。


 自然に発生する塵旋風であれば、人間を吹き飛ばしたりするようなケースはほぼない。ある程度時間が経てば消滅する。でも、これは小山がスティースの能力を使って作ったものだろう。俺の知っている塵旋風と同じ感覚で安易に近づくべきではないな。


 こんなものを作って……俺を威嚇しているのか。4つの空気の渦は勢いを維持したまま、小山の周囲を旋回している。小山を守っているかのような動きだが、100ヴィータもの対価が払われた魔法がこれだけで終わるはずがない。

 しばらく様子を窺っていると、俺の予感が的中した。4つの塵旋風のうちの2つに異変が起こる。小山の周りをぐるぐる回っているだけだったのに、あろうことか俺がいる方向に向かってきているじゃないか。それも移動速度を上げながら。


「嘘だろっ……!?」


 小山との話はまだ終わっていないが、自分の身の安全が第一だ。もう目と鼻の先まで迫っている塵旋風から逃れるため、俺は脱兎の如く走りだす。背後から小山の笑い声が聞こえた。慌てふためく俺の姿を見て笑っているのだ。受験票を破るだけでは飽き足らず、直接危害を加えようとするなんて……しかもそれを見て楽しんでいる。


「もうあいつ、一発くらい殴っても許されるだろ!! 正当防衛だよね!!!!」


 迫りくる塵旋風から逃げ回りながら俺は叫んだ。一方的に敵意を抱かれ、理不尽な目に合わせられている。東野から話を聞いた直後は、小山の気持ちも多少は理解できると感じていたのに。流石にここまでされてはもう無理だ。相手がこちらの話に耳を傾ける気が無い以上、穏便に解決するのは諦めるしかないのか。

 塵旋風の速度は上がり続けている。魔法で作られたものだからか、時間経過で消滅する気配もない。追いつかれるのは時間の問題だ。


「逃げても無駄なら……立ち向かうしかないな」


 目には目を、歯には歯を……魔法には魔法だ。こちらも魔法を使って対抗すればいいのだ。


交渉(ネゴシエート)


 走りながら魔法を使ったことはない。こんな緊迫した状況で上手くいくだろうか。迎え撃つと決心はしたものの、不安な気持ちは募っていく。それでも、やらなければやられてしまう。腹を括れ。

 足元に青白い光を放つ魔法陣が出現する。スティースが俺の求めに応じてくれた。俺の考えた作戦を実行するための力を貸してくれるようだ。


 小山の放った塵旋風を消滅させるには……全く同じ威力の同じ魔法をぶつけて相殺する。この作戦が理論的に可能なのかどうは分からないけど、俺にはその方法しか思い付かなかった。もし失敗したとしても塵旋風の動きを止めることさえできれば、逃げる時間を稼げる。


『風を司るスティース、お願いだ。あの空気の渦を消してくれ』


 体の奥から何かを吸い取られる感覚。対価のヴィータが奪われている。小山は100だったけど、俺はどのくらい持っていかれるのだろうか……

 恐る恐る確認してみると『0.5』という数字が目に飛び込んできた。


「えっ、はぁ? ……何かの間違いじゃ」


 全く同じ数字にはならないと思っていたけど、いくらなんでも違い過ぎる。俺と小山に魔道士としての技術的な差がそこまであるとは思えない。小山が魔法を使う時には魔法陣が出現していなかったけど……その辺りの違いが影響しているのだろうか。

 小山との対価量の差があまりに大きく、同じ威力の魔法が放てるか心配だけど、今更後には引けない。やるしかない。逃げ回る足を止めて背後へ振り返る。2つの塵旋風はもうすぐそこまで迫ってきている。


破壊(ブレイク)


 スティースに俺のやりたい事を端的に伝えるために選んだ言葉。とっさに頭に浮かんでしまったのがこれだったのだが、果たしてどうなるか……

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