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2話 理由

「おばあちゃんの言う通りよ。私たちに言いにくかったのなら、正くんにでも相談してくれてれば良かったのに……」


「えっ、お、俺に……?」


 友人の家族間の揉め事に偶然居合わせてしまった笹川。彼はこれから仕事なので、立ち去るわけにもいかなかったのだろう。居心地悪そうに俺たちのやり取りを見守っていたのだが、突然姉によって俺の相談役にまで抜擢されてしまう。笹川は目を丸くして狼狽えていた。

 俺が受験することを秘密にしていたのは、祖母と姉に問題があったからじゃない。巻き込まれた笹川もあまりに不憫だ。ここは俺が速攻で折れて、話を終いにした方が良い。


「ご、ごめん! ごめんなさい!! 俺が考え無しで……みんなに心配かけちゃったよな。ばあちゃんと姉ちゃんに何も言わないで勝手なことしてほんと悪かった!!」


 勢いよく頭を下げたせいで、カウンターに額をぶつけてしまう。ぶつけた箇所から鈍い痛みが広がっていき、意識が一瞬だけ朦朧とした。











「それは河合が悪いよ。なんで家族に黙って受験なんてしたの?」


「あー……ちょっと事情があってさ」


「私も知らなかったんですけど……」


「だってマジで誰にも言ってないからな。知ってたのはモカくらいじゃね」


 自分の名前が呼ばれたのが聞こえたのだろう。小川の近くで穴を掘って遊んでいた『モカ』が、勢いよく俺の方へ駆け寄ってきた。

 モカは俺が飼っているフェレットの名前だ。くりくりとした丸い瞳。薄茶色の毛に覆われた長めの胴体。手を差し出すと体をすり寄せてくる。さっきまで穴を掘っていたのでモカの体は泥まみれだった。そのせいで俺の手にも泥が付着してしまったが気にしない。可愛いからな。


「ほら、おやつだよ」


 パーカーのポケットに入れていたドライフルーツをモカに手渡してやる。一生懸命にエサを食べる姿は本当に可愛い。


 合格通知騒動から数日が経過した。俺は自宅の裏にある小川でペットのモカを遊ばせていた。その時偶然、同級生の『藤原美乃莉』が通りかかったので、このあいだの出来事について話を聞いて貰ったのだ。笹川以外の第三者の意見が聞きたかったからなんだけど、彼女から見ても俺が全面的に悪いようだ。


 一応バカなりに良かれと思って考えた計画だったんだけどな。今後はできるだけ相談をして欲しいと、祖母と姉に懇願されてしまい、気まずさで押し潰されてしまいそうだった。


「玖路斗学苑ってさ……本来試験とかは無くて、せいぜい面接程度なんだ。学費さえ払えば入学自体は誰でもできるの。試験があるのは特待制度を受けたい奴だけ」


「特待制度って……じゃあ、河合は特待生になるために試験を受けたの?」


「そう。誰でも入れるっていうけど、名門なだけあって学費めちゃくちゃ高くてさ。とてもじゃないけど、こんな高い学校に行きたいなんて、ばあちゃんたちに言えねーよ」


 特待生になれば学費が免除される。学苑附属の寮にだって無料で入れるのだ。これを逃す手はなかった。


「もうバレちゃったけどな。特待生になるために試験を受けるって伝えたら、余計な気を遣わせちゃうかもって思って……無事に合格できたら全部話す予定だったんだ。でも、言わない方が余計に心配かけちゃってさ……失敗したよな」


「……その二次試験っていつあるの?」


「まだ分かんない。詳細は後ほどって書いてあったから、近いうちにまた通知がくるんじゃないか」


「そっか……頑張って。絶対合格してね」


「もちろん。サンキュー、藤原」


 藤原が激励を送ってくれた。最初は呆れたように俺の話を聞いていたのに……良いヤツだな。


「でも河合が魔道士かぁ……なんか全然想像できないや」


「変?」


「変というか、意外過ぎって感じかな。だって河合は魔法や幻獣の話なんて今まで一度もしたことなかったじゃない。河合の家族が驚いたのはそれも理由だと思う」


 家族や友人が違和感を覚えるのは当然だった。俺自身も少し前までは、自分が魔道士を目指して学苑に入ろうとするなんて想像すらしなかっただろう。


「あー……まぁ、心境の変化ってヤツだよ。俺も将来のこと真面目に考えるお年頃になったんだ」


「何それ、大人ぶっちゃってさ。河合の癖に生意気じゃん」


「俺の癖にってなんだよ、ひでーな。俺だって考えてんだぞ」


 その後、藤原といくつかの雑談を交わした。最近この辺りに不審者が出るとか……色々。

 不審者……そういえば、うちのお客さんもそんな話してたっけ。まさか家の前で通知持って震えてた俺のことじゃないだろうな。


「あのさ、河合。魔道士を目指してるってことはさ……もしかして幻獣が見えたりするの?」


 藤原が遠慮がちに問いかけた。表情からは興味津々という感情を隠せていない。


「うーん、姿がはっきり見えるほどじゃないけど、そこに『居る』っていうのは感じ取れるよ」


「マジ!? すごいじゃん。さっすが特待生」


「やめて……まだ受かってないから……」


 一次ではしゃいだ事を思い出すと羞恥で悶えそうになるので、本当によして欲しい。

 試験内容は筆記のみだったけど、幻獣の気配が分かるのは学苑に入学を希望する者たちの間では常識というか……持っていて当たり前くらいの適性だったりする。もちろん程度に優劣はあるけど……

 藤原はすごいと言ってくれるが、訓練すれば僅かに気配を感じ取るくらいは誰でもできるようになるのだ。


「私はそういうの全然分かんないからさ。魔道士って幻獣を従えてる凄い人たちー!! ってくらいのイメージなんだよね」


 試験を受けるのを秘密にしていたから、今までその類の話題は避けていた。誰かと魔道士について話ができるのが楽しくて、嬉しかった。だから、気持ちが昂っていて……つい口から飛び出してしまったんだ。


「……だったら見せてあげようか。魔法」

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