3 死闘
警察のバスが並列駐車され、赤いサイレンランプが無数に回転している。
大勢のデモ隊と機動隊、二つの勢力が左右から走り激突、人が押し合いへし合うど真ん中、中継カメラの前で二人のメタリックな戦士たちが戦っている。
目にも止まらない拳が近くの看板を粉々に粉砕する光景をいくつものスポットライトとカメラがとらえていた
視聴者からすればメタリックな怪物同士の争いにしか見えない。
ライトアップされた夜の議事堂前は地獄の様相を見せていた。
おおおおおおお!
右拳を左わき腹に叩き込みあばらを砕くようなイメージで振るう
何度も何度も叩き込む
はあ!はあ!はあ!
安藤のパンチが右に炸裂、左に炸裂右に炸裂、
ぐあああ!
頬を激痛が走る
はあ!はあ!
両肩をつかまれ膝打ちが二度叩き込まれ、両足が浮き上がる
うあ、ぐああ!
ゴロゴロと転がったところを
ふん!
無理やり立ち上がらせられ
はあ!はあ!
右左にパンチを食らう
うああああああああああああ!
3m吹っ飛ばされるほどの拳打。
ぶん投げられるように地面を転がっていく。
なんとか態勢を立て直し立ち上がる。
すでに次の攻撃は始まっている。
顔面に拳が迫る。
こ、このままでは・・・負ける!
両腕をあげ必死にガードするも左右の腕を鉄の塊が打ち付けた
堅牢な岩のごときガードこれを打ち崩すのは一苦労のはずだ
ダブルボルカノン!
まずい!
とっさに安藤の両肩から折り畳み式のレールキャノンをつかむと
キャノンが電撃を放出、
ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!
6発の鋭い雷が電柱、ビル、ポスト、電線、誘蛾灯、マンホール、警察車両、を木っ端みじんに爆散させていく。
なんて威力だ!
離せ!はあ!
前蹴りが胸に叩き込まれ
うあああああ!
斜めに体を回転させるように地面を転がると全身の痛みを無視してすぐに態勢を立て直す。
思わず右膝が笑い折れた。
ぐ、ぐおお。
はあ!
ドヒュン!ドヒュン!
なんとか転がりながらキャノンを避けると避けた場所が融解して穴が開く
わずかに視線が安藤からそれた。
朦朧とする意識をしっかり保とうと前を向く。
気が付けば肩に手を置かれ、右手を握りしめる安藤の姿をとらえる
はあ!
ぐああああああああああああああああああああああああああああ!
正拳が炸裂
手足をバタつかせながら議事堂の正門を爆散させ、警察バスをなぎ倒し、さらに奥にある警察バスをなぎ倒し、二重のバリケードを吹き飛ばした末に150mぶっ飛ばされる。
背中で火花を散らしながら議事堂の正面階段前まで来ていた。
すべった後には炎の道ができあがりそこから暴徒化したクリスター軍団員たちが押し寄せてきていた。
い、行かせるか!
俺はクリスター軍団員たちを殴り飛ばす
ケガをする。死ぬかもしれない。そんな心配とそんなことを気にしている余裕などない焦りがいりまじった拳が軍団員たちを昏倒させていく
軍団員たちの押し寄せる波、その中を安藤のロストバスターレッドファーストがゆっくりと歩いてくる。
反体制派としては救世主と呼ぶにふさわしい振る舞いだろう。
いつのまにか安藤の激情を写し出すかのように夜空が大雨のスコールとなって降り注ぐ!
安藤が両腕を高く構えてクロスさせる
レーザーマケリ!
ガゴン!ガゴン!ガゴン!ガゴン!ガゴン!ガゴン!ガゴン!ガゴン!音声認証に反応して両腕の側面からトゲのナイフが出現すると緑色に発光。レーザーナイフへと変貌する。
でや!
大ぶりなフルスイングが体を切り裂く
はあ!
さらにレーザーが切り上げ大量の火花を散らし議事堂庭園内にある街路樹の木々を軽々と両断する
ズドーン!と音を立てて大木が倒れた
ふん!
細かく隙の無いカットするようなパンチが激痛を作り出す
はあ!はあ!はあ!はあ!はあ!はあ!
思うがままに腕を振るい攻撃を避けるたびにポールが、はたまたバイクが、鋭利な刃物でバラバラに両断されていく
うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
ズタボロになりながら吹っ飛ばされて地面を転がる。
中央玄関まで来ると軍団員たちが扉をけ破ろうと機動隊たちと格闘を繰り広げている。
俺はそのど真ん中に転がり込む形となった
おおおお!
安藤の鋭いスイングに足をつかまれたまま叩きつけられる
樹木を思わせる大理石の柱にヒビが刻まれる
おおお!
さらにもう一度、今度は反対方向に叩きつけられる
なんとか立ち上がり正面扉に飛びこむと
長方形の扉型にマスコミと警察のライトが降り注ぎ、そこから安藤のシルエットが浮かび上がる。
内部はレッドカーペットの敷かれた、白黒ダイモンド模様の床が広がっている。
シャンデリアに似たライトが煌々と光りの中を舞うように殴り合う
はあ!
安藤のパンチが支柱の一部を粉砕する
階段を登り中央広間へと出ると小高い天窓とほんのり温かみのあるライトがアーチ状の通路を彩っていた。
はあ!
ふん!
安藤のパンチが高級な石像を粉々に粉砕する
ズラー、っとレッドカーペットの敷き詰められた通路を全速力で走り扉を叩き開くと
いつの間にか二階に出ていたようだ。
この位置から見えるのは参議院議場、バームクーヘンを半分に切ったように破門状に並ぶ椅子に大勢の議員たちが並んでいる光景だった。
激しい戦いの音を聞き
何だあれはああああああ!
ついに気が付いた議員が叫び声をあげる
ふん!
回し蹴りが炸裂
うっわああああああああああああああああああああああああああああああああ!
両腕を上げた姿勢で前後に回転しながら一階に激突する
とお!
二階から降りてくる安藤
おおおお!
逃げまとう議員たち
議員たちの席をぶんどり安藤を殴りつける
バコン!
安藤の側頭部に当たって砕け散る椅子
まるで効果がない。
はあ!
うあああああああああああああああああああああああ!
一撃で10mぶん殴られ椅子と机を破壊しながら議長席へとたどり着く
どうしたあああああああああ!土門おおおおおおおおおん!
く、くそ・・・。
何とか立ち上がると議長席にもたれかかる。
激痛で死にそうだ。
ドスドスと近づいてくる安藤の頭をマイクでぶん殴る
だが効果はない。
ふん!
わああああああああ!
左アッパーを食らい赤い垂れ幕にきりもみで巻き込まれるとゴロゴロと地面に落ちる。
俺は安藤を叩いたマイクで叫んだ!総理!お分かりでしょう!こいつを止めるには軍隊を呼ぶしかありません!
安藤が笑っている
何を言ってやがるんだ。この馬鹿は!
わかった!
そう言って総理は携帯を取り出し連絡を取り始める
よし!これで応援が来てくれるはずだ!
何とか持ちこたえる!
ボロボロの身体で立ち上がると安藤を見た。
腰の特殊弾丸を右腕のシリンダーに1発、装填していく。
安藤は叫ぶ
おもしろい。ここでストライク・スティングを放てば議員たちも死ぬぞ!
そんなことは俺の耳には聞こえなかった。
腕のジョイントパーツを引くとスライドしエネルギーゲージがフルチャージされる。
電子的な音声が言った。
ストライク・スティング!
技名を復唱、二重セーフティーを解除する。
ストライク・スティング!
パイルバンカーパンチを叩き込み
大爆発が巻き上がる
うわああああああああああああああああああああああああ!
議員たちが死んでいくのが見えた。
爆発が晴れると安藤が立っていた。
馬鹿な!
ストライク・スティングは受け止められていた。
そのときだった。
参議院議場に軍団員たち暴徒が押し寄せる。
あ、終わった。
そう絶望したときだった。
自衛隊たちがゾロゾロと入場してくると銃を構えた。
総理が叫ぶ
撃て!全責任は私が取る!即刻処刑しろ!
自衛隊たちは戸惑いながらも射撃を開始する。
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
俺が勢いよく伏せるのと同時、安藤の身体を数百の弾丸が襲い掛かる
こんなもの!
安藤が自衛隊たちを吹き飛ばそうと意識を向けた
俺はその一瞬のスキを見逃さない。
伏せた姿勢のまま腕のジョイントパーツを引くとスライドしエネルギーゲージがフルチャージされる。
電子的な音声が言った。
ストライク・スティング!
技名を復唱、二重セーフティーを解除する。
ストライク・スティング!
俺はパイルバンカーパンチを安藤のすねに叩き込み
大爆発が巻き上がる
ぐおごわがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
銃撃がやむと流れ弾で射殺された暴徒たちの中に安藤が足をおさえて横たわっていた。
確保おおおおおおおおおおおお!
警察が参議院議場内にゾロゾロと押し寄せる。
警察たちの手で安藤は逮捕された。
事態が終息すると総理は言った。
君、ありがとう。名前は何だね。
名乗るほどの者ではありませんから。
そうか、何かお礼をしよう。ここに連絡してくれたまえ、名刺だった。
では!
そう言い残して去って行ってしまった。
戦いは終わったのだ。
クリスターの暴動は終息した。
だがいまだクリスターたちの犯罪行為は国内を脅かしていた。
そしてクリスター暴動を皮切りに反クリスター主義が台頭を始める
具体的な行動こそなかったがインターネットを中心にクリスターに対するヘイトクライムが過熱化していった。
遠くの島国目掛けてインターネット越しに差別が氾濫した。
それと戦ったのは死刑囚安藤の組織したクリスター軍の残党だ。
クリスター軍の正式名称をいまさらながらに発表するとクリスター革命的自由主義者同盟全国委員会
だ。
そこから分派した残党、全国委員会クリスター軍となり、全国委員会の部分をなくし、クリオラとなった。
さらにはこの頃、クリスター内部では北瀬、木下と幹部同士の対立が巻き起こり、主義を理由にさらに組織は二つに割れた。
まだまだこの闘争は終わらない。いつか燃え尽きるその日まで燃え盛る。他人は地獄とはよく言ったものだ。
俺はもう関わることはないだろう。死んでもごめんこうむる。ただの人になるのが俺の夢なのだ。