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2-36奮闘した悪役令嬢の集大成⑨

 その後、陛下が大袈裟な演説を始めた。聖女が誕生した事と、国の危機を救った話を、装飾過剰にも程があるやつを。


 この狸オヤジめ、「やってくれたな」と顔を引きつる私は、ありもしない聖女伝説がまた一つ、この国に広がる瞬間を目の辺りにした。

 それは、『真実は目にした王族しか知らない伝説』が生まれた瞬間だ。

 もっと言えば、王族相手に、はったりをかました私しか真相を知らない伝説が……。

 内心、面倒事は勘弁してくれ。「こちらは悪役令嬢なんだが」と叫んでいたものの、今更ながら言えるわけもなく、「聖女の名」を拝命した。


 それからは、私の気持ちとは裏腹に、観衆たちが「アリアナ様」と、声高々に私の名前を連呼し始めるものだから、ある種の恐怖を覚える。


 あの場で、王太子殿下の婚約者を公表して、当初の演目は滞りなく執り行われた。

 それに追加するように、第二王子とシャロンの身分の剥奪と、未来永劫の国外追放が命じられた。

 彼ら二人は、あの場から王城へ戻る事を許されず大聖堂から出た瞬間、右と左に別れて消えて行った。どうやら二人は一緒に暮らす気はないらしい。


 私はというと、大聖堂から出たばかりで、ブライアン様がゆっくり走らせる馬に乗り、これからの身の振りを考えているところ。

 ふと振り返ると、彼が妙に楽し気に私を見ている。


「ブライアン様は何を、にやにや笑っているんですか」

「いや、アリアナは愛情表現まで異次元だなと思ってね」

「いっ、異次元⁉ どこがっ! 私は至ってどこにでもいる、令嬢でございますわッ」


「アリアナのような令嬢は、地の果てまで探しに行っても見つからないだろうさ。すっかり嫌われたと思っていたが、大勢の前で、私を離さないと言われるとは」


「公爵様ともあろうお方が、とんだ勘違いをなさっているわ。私は、こき使うと叫んだんですよ」


「あなたから傍にいて欲しいと強請られるなら本望だ。馬車馬のように働けというなら、期待にそえるように努力するから、こき使ってよ。それでも私の愛は変わらないから」


「自虐的になって、どうなさったのですか⁉」

「私を冷たく罵るかと思えば、急に素直になるアリアナが最高に可愛いからね。何をすれば従順になるのか、これから教えてもらうから、毎日覚悟して」


 なぜだか甘々モードのブライアン様が、私の耳元で、謎の言葉攻めをしてくるのだ。モテるお方の思考は難しい。


「ブライアン様は、凄くご令嬢におモテになるのね。昨日、王城を訪ねたら、自称恋人がいっぱいいると相手にされませんでしたから」

「ああいうのは、モテるとは言わないよ。私の地位に興味があるだけだからね。あの手この手で私を呼び出そうとして、迷惑しているよ。でも、昨日はアリアナが来てくれたのに、もったいないことをした」


「そうだ! 兄と二人で何を企んでいたんですか」

「あぁー、それは……言わなきゃ駄目か?」

「ええ。隠し事なんて、許さないもの」

「別に話すような大層な事はないんだけど」

「それでも駄目」

「私とジェイデンが陛下の式典に気付いた時には、何の証拠もないまま、もう止められない段階まで話が進行していた。ジェイデンが陛下を問いただしても、全く取り入ってももらえなかったしね。もう、そこまで来ていれば、聖女の実が元凶だと分析する、セドリック殿の言葉にかける事にしたんだ」

「何をする気だったの?」

「なんてことはない、捨てようと思っただけだ」

「そんな事をしていたら、ブライアン様は」

「アリアナを危険に晒すより、よっぽどましな方法だろう」


 そのうえ、私を気にする彼は、禁断の花を持つ彼らの処分を、ザカリーに頼んだというのだから驚きだ。


「なるほどね。ザカリーが石を持って屋根にいた理由が、これではっきりしたわ」


「私の計画をザカリーから何も聞いていないのであれば、アリアナが彼を見込んだ目は確かだと証明されたな」

「ふふっ。働き者で、すっかり我が家に馴染んでいますわよ」

「彼は妹の所に一度帰るんだって。騙されているようで気の毒だったが、まあ、私がアリアナとずっといられるわけだし、それでいいけどね」


「十日もしないうちに、ザカリーは、私の元へ戻って来ますよ。でないと、お母様に怒られるのは私ですからね」

「なーんだ。私が傍にいるのに帰ってくるのか」

 と、拗ねた顔をする。


「そのことですけど。王太子殿下は王城の騎士団長様を私なんかの護衛にと仰っておりましたが、本当にいいのでしょうか?」


「ははっ。アリアナは意味が分かっていなかったのか。私はロードナイト王国公認の立場があるからね。その人間が直々に護衛する聖女は、この国のものだと、周辺国に牽制するためだ。付ける必要があるから、ジェイデンが咄嗟に判断したのさ。でなければ、陛下が自分の側室と言い出しかねないからね」

 何だか物騒な話になってきたけど、聖女の立ち位置って私が思っている以上に重要なのか。


「私って、物珍しいだけじゃなくて、相当な重要人物になっているのかしら」


「当然。この国にしか存在しない奇跡の力だ。周辺国にアリアナを奪われるわけにいかないからね」


「私……そんな大層な人間ではありませんけど」


「どこが? 世間はしばらく、聖女の話で大騒ぎだろうさ。アリアナがあまりにかっこいいから」

「かっこいいって……」


「沿道の貴族たちに、手でも振ってみたらきっと喜ぶぞ」

「もう、揶揄ってばっかりなんですから。でも煩い声がずっと続いて嫌になるわ。そうだ、こうなったらしばらく、王都から離れましょう。そうすれば、少しは静かになるわよねえ」


「それなら先ずは、領地にいるバーンズ侯爵を訪ねるか。後からセドリック殿に文句を言われるのはかなわないからな」

「それは、どうして?」


「アリアナが、私を一生傍に置いてくれるんでしょう。その約束を急いで取り付けにいかないとね」

 もしかして、あれを逆プロポーズだと勘違いしていないでしょうね。どうか違いますようにと願いを込めて訊ねてみる。

「わっ私、何か言いましたっけ」


「私がアリアナへプロポーズをするつもりだったんだけど、出遅れてしまったからね」

 やはりそれか。何だかまずいな。

 今、私たちのプロポーズの言葉が、「一生、馬車馬のように、こき使ってやるから覚悟なさってください」に、なりつつある。

 甘さもロマンティックな要素も、これっぽっちもないやつに。ここは、乙女ゲームの世界なのに、どうしてくれるのよ。

 こんな極悪な言葉のままでいいのか分からないが、幸せそうに笑うブライアン様は、甘い言葉で上書きしてくれる気配はない。

「やっぱり、よくない! そんなの駄目だわ。撤回するわッ!」


「ふっ。また素直じゃないんだから。もうこの腕から逃す気はないからね。毎日、私に溺れるくらいに甘やかすから、覚悟して」

 私の気持ちを読んだのか、ブライアン様が意地悪な口調で告げる。


「まあ、それならいいですよ。私が好きなのは自信たっぷりな感じで、ぐいぐい攻めてくるブライアン様ですから。遠慮がちなのは好みじゃないですからね」

 私は、極悪プロポーズの上書きに成功して満足するものの、ブライアン様が真っ赤な顔で絶句している。

 頬を赤く染めるのは、私の役だと思うけど。なぜだ。


 こんな私たち二人の旅先は、決まっていない。

 だけど、彼と二人なら、どんな困難さえも困難と思わない。楽しい毎日が待っている。きっとね。


PERFECT TRUE END


 ――ジッジジ――。ジッジジジジ――。

 周遊先で、幽霊に遭遇しブライアン様の陰に隠れるのは、また別の話だ。

毎日最新話を追いかけていたただいた読者様、本当に感謝しています。

本作、第2幕をもって完結といたします。

作者からのお願いですが、

読了の証に広告バーナーの下にあります↓、☆を★に変えて評価を送っていただけると大変ありがたいです。また、この先のストーリーも投稿挿話等で投稿をしていく予定です。ブックマーク登録もお願いします。

読者様の応援が励みになりますので、是非とも、よろしくお願いします。

途中、いいねや感想で応援いただいた読者様、ありがとうございました。

改めて、本作をお読みいただいた全ての方に感謝を込めて、閉幕。

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よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
[良い点] 素敵なハッピーエンド、嬉しいです! 毎日欠かさずの投稿、本当にお疲れ様でした。 [一言] この物語の素晴らしさが、たくさんの人に届くよう願います!!
[良い点] 完結、おめでとうございます。 そして、毎日の投稿、お疲れさまでした。 アリアナとブライアンが無事に結ばれて良かったです。 [一言] プロポーズの言葉が「馬車馬のように…」なんて鬼嫁宣言みた…
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