表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/82

2-30奮闘した悪役令嬢の集大成③

 兄の部屋からタキシードを拝借してきたザカリーの変装は完璧で、非の打ちどころのない貴公子である。こうしていつも、仕事をしていたのだと思えば、感心してよいのか複雑な心境になる。

 そんな彼に伴われ王城に到着した。


「ブライアン様は、いつでも私が練習を見に来ていいと言っていたのよ。先ずはそこに行くわ」

「それじゃぁ、騎士の訓練場はこっちだ」

 城の敷地内の分岐路で、彼は、さりげなく私を誘導する。

「ザカリーは、城の中まで随分と詳しいのね」

「まあね。ほら、見えてきたじゃん」


 馬の厩舎が何棟も並び、その手前に広々とした訓練場がある。

 今だってこの時間。剣を交えて稽古にいそしむ騎士たちが汗を流している。だが、彼の姿はない。


 まあ、彼を知らない騎士はいないし、目と目が合った人物でいいやと、少し若めの騎士服の隊員へ目配せをした。

 そうすれば、名前も知らない彼が、渋々ながらも、応対する素振りを見せる。


「ごきげんよう。騎士団長に会いに来たのですが、お取り次ぎをしていただけないかしら」


「生憎ですがご令嬢。そういった申し出は全てお断りしております故、お引き取りを願います」


「もうっ! ブライアン様はどれだけ令嬢にモテているのよ。私までその他大勢の令嬢に数えないでくださいまし」


「どのようなご立派な家柄のご令嬢でも、『取り次ぐな』との命令でございますから」

 こんな窮地に陥った今になって、兄が言っていたとおり、ブライアン様が令嬢には全く興味がないのを実感する。


 出会った直後から、私へ一方的に言い寄って来ていたのはなんだったんだろう? 同一人物の話には到底思えないけど。


「わたくし、騎士団長の恋人でしてよ。きっと彼は会いに来てくれるわ」


「……ご令嬢。毎日何件も同じようなことを言う『自称恋人のご令嬢』が来ております。団長に興味があるのは理解できますが、お引き取りを。団長はそういった話には、一切応じませんから」


 やれやれとため息をつく犬顔の騎士は、真面に取り合う気はないようだ。

 だけど、私は自称ではなくて、れっきとした恋人である。失礼な。


 思わずムッとする私の顔を見て彼は、これ以上の話し合いは無駄だと判断したのだろう。「それでは訓練中ですので」と言い残し、早々に立ち去ってしまう。

 それに慌てた私は、彼に向かって名前を叫ぶ。


「わたくしは、バーンズ侯爵家のアリアナです。名前を伝えていただければ、彼は分かってくれるわ」

 ……と言ってみたものの、私の独り言に終わり、誰一人その言葉に反応しない。


 おかげで、その場がシーン――と静まり、ザカリーとの間に、なんとも言えない微妙な空気が漂う。


「……なぁ。だから言ったじゃん。聖女ちゃんの騎士は会ってくれないって。聖女ちゃんもセドリックも気安く騎士を使っているけど、あの人ああ見えて相当偉い人だから」


「それは、頭では分かっているけど」


「いいや、聖女ちゃんは分かってないって。あの騎士、聖女ちゃんの前では別人だからな。俺、聖女ちゃんの前でしか、笑ってる顔も慌てる顔も見たことないし」


「そうなの? いつも楽しそうよ」


「だから、それがズレてるんだって! 俺なんて油断したら瞬殺だ。聖女ちゃんと一緒にいるから生きているだけだから、頼むから俺を見捨てないでじゃん」


「ザカリーが悪い事ばかりしているからでしょう。そのせいで私も、一人の青年を墓穴に埋めた、共犯になったんだから」


「そんなやつ、いたか?」

「そんなことより、ここにいても埒が明かないわ。ブライアン様の部屋へ行きましょう」


「あの人の部屋は、城の奥にあるから面倒だな」

「ザカリーは彼の部屋を知っているの?」

「まあな。仕事柄詳しいけど、ドレス姿のご令嬢じゃあ、あの廊下を歩けば、直ぐに締め出される。無理じゃん」


「それならザカリーが、彼を呼んできてよ」

「そんな事をしたら、聖女ちゃんの護衛がいなくなるだろう。聖女ちゃんの騎士に怒られるじゃん」

「馬鹿ね。こんなに騎士たちが溢れる場所で、事件なんて起きないわ。皆、自称恋人の私を生温かく見守ってくれているもの。下手に隠れるよりここが一番安全だわ。ほらほら、早く行ってきてよ」


「ったく。相変わらず強引だな。じゃあ、聖女ちゃんはここで待ってるじゃん」


 すると、瞬時に暗殺者の顔になるザカリーが、すっと私の前から消えた。


 ブライアン様が来るまでの間、弓を射る騎士たちの練習風景を眺めていると、横から聞き馴染のある声が届く。だけど、その声の主は、決して私の待ち人ではない。


「あ~ら、アリアナじゃない。こんな所で何をしているのかしら。あぁ~そう。ブライアンを待っているのね」


 粘っこい物言いのシャロンが、デイドレスにしては、「装飾が過剰ではないか」と思えるドレス姿で近づいて来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。
■2024年10月24日・31日の2週連続で、パルプライド エンジェライト文庫さまから本作の電子書籍が発売となりました!
 この作品が新たな形になるために応援をいただいた全ての皆様へ、心より御礼申し上げます。

■書籍タイトル
『後悔してる』って、ご勝手にどうぞ!素敵な公爵様から、とっくに溺愛されています

■超絶美麗な表装は、楠なわて先生です!
 見てくださいませ!!
 うっとりするほど美しいイラストですよね。

y0t85ocio9ie5mwb7le2t2dej91_cga_z7_1dr_1fnr9.jpg"


e3op3rn6iqd1kbvz3pr1k0b47nrx_y6f_14v_1r5_pw1a.jpg

 ■Kindleでの購入はこちらから■

よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ